よっつのえがお

ケホッと咳をした拓也を、輝二が心配そうに見守る。
小さな電子音が響くと、輝二は太一・・・母親を呼びに部屋を飛び出した。
「かあさん!ねつ、はかれた!」
服の裾を掴み、太一を拓也の元へと急かせる。
いつもはホヤッとしているのに、拓也の事になると輝二はいつも性格が変わる。
苦笑を浮かべつつ、太一は洗い物をしていた冷たい手をタオルで拭い、輝二に連れられて子供部屋へと歩いていった。
「たーくや。気分はどうだ?」
太一が声をかけても、拓也はこちらに視線をよこすだけでしゃべろうとしなかった。
・・・いや、しゃべれないのだ。
太一は拓也の寝ているベットに近付き、脇に入れてあった体温計を取り出した。
肌に触れた手が冷たかったのか、拓也は少し身じろきはしたが、太一の邪魔はしなかった。
「・・・38度5分・・・結構高いな」
元々子供の体温は大人よりも高い。
だが、38度を越えてしまったら、それは完璧に
「風邪、だな」
太一は体温計を降り、少し熱を取ってから容器に収めた。
「・・・熱と喉以外に、何かおかしいトコあるか?」
太一が聞くと、拓也は半分泣きながら
「・・・きもちわるい・・・あたまガンガンする・・・」
そう言うと、大きな瞳からポロリと涙が零れた。
「だーから昨日、風呂から上がったらすぐにパジャマ着ろって言っただろ?
・・・裸のまんまで家の中うろうろしてるからこうなるんだ」
拓也の眼からまた溢れた涙を拭ってやり、太一は立ち上がった。
「今、氷枕と冷えピタ持ってきてやるから大人しく寝てろよ?
・・・輝二、ちょっと拓也見ててくれ。
あ、あんま近寄るなよ?輝二にまで風邪移ったら大変だからな」
表面上だけ頷き、輝二は拓也の近くで見守っている。
「・・・たくや、つらい・・・?」
輝二に聞かれ、しゃべる事も億劫な拓也は頷いて応える。
「・・・おれ、かわってやれたらいいのに・・・」
シュンと輝二が項垂れる。
拓也はそんな輝二を慰めるように、いい子いい子してやる。
「たくや・・・!」
輝二はそんな拓也の行為が嬉しくって抱きつこうとしたが、それは再び部屋に入ってきた太一に止められた。
「だーかーら。近付きすぎんなって言っただろうが」
太一に恐い顔をされ、輝二は渋々拓也のベットから離れ、太一の後ろにちょこんと座った。
「ほら拓也、頭あげるぞー・・・。よし、おでこ、ひんやりしようなー」
そういい、太一は拓也のおでこに冷えピタを張る。
違和感があるのか、冷たいのか、拓也はちょっと取ろうとする仕草をみせたが、それが気持ちいいのかすぐに止めた。
「あんまクスリ飲まない方がいいから、蜂蜜入りのホットミルク飲むか?」
蜂蜜入りのホットミルクは拓也の最近のお気に入りの飲み物だ。
一つ返事で頷くと、太一はその小さな頭を撫でてやる。
「輝二も飲むか?」
「・・・おれはコーヒーミルクがいいな・・・」
さらっと注文を付け、拓也のベットに近寄ろうとする。
しかしそれをまたしても太一に阻まれてしまう。
「だから、ダメだっつに」
ネコを掴むように輝二を持ち上げると、そのまま部屋を出る。
輝二が珍しく騒ぐが、太一は無視して輝二を部屋から追いやる。
そこでようやく降ろしてやると、輝二は恨みがましい目を向けた。
「あのな。あそこに居たらお前も風邪にやられるだろうが。
自分のせいで輝二が風邪引いたと拓也が思ってみろ。それこそ拓也、可哀相だろ?」
太一が諭すと、ようやく輝二もそれで納得したのか、渋々頷いた。
「よし、いい子v」
太一はそう言って、輝二の柔らかい頬に自分の頬を擦りつけた。
「うー・・・くすぐったい〜」
そう言うが、輝二の顔も嬉しそうだ。
「あとで丈呼ぼうな。拓也見てもらおう」
輝二は元気に頷くと、太一と一緒にキッチンに入り、拓也の飲ませるための蜂蜜入りホットミルクを作るのに取り掛かった。

『えっ!?拓也が!?』
電話越しの大声に、太一は子機を遠ざけて防いだ。
『そそそっそれで拓也は!?大丈夫なのか!?』
「ああ、大丈夫。さっき丈にも診てもらったしな。クスリも出してもらったから平気」
そう言われても旦那は納得しないのか、少し沈黙が流れる。
『・・・俺、今から帰る!!』
「はっ!?だってお前今、収録中だろ!?」
『だからどうした!息子の方が大切にきまってるだろう!』
「だっだからって・・・」
太一が静止するのも聞かず、ヤマトは受話器をそのままに、大声でディレクターを呼んだ。
電話越しにヤマトの父親、裕明の声も響く。
『なんだって!?拓也が!?』
『そうなんだ・・・!だから今日の収録はこれで俺は帰る!!』
『・・・・・・わかった・・・何とか明日まで延ばすから、お前は帰るんだ!』
『親父・・・ありがとな!!』
『それよりも拓也の風邪を輝二に移すなよ!』
『って訳で太一!今から帰るからな!』
「ちょーっと待て待て待て!お前らそれでいいのかっ!?」
『当たり前だ!愛する息子が苦しんでいて、それを愛する太一が一生懸命看病しているんだぞ!?
俺だけノンキに仕事なんてしてやれるかっ!』
「・・・ヤマト・・・」
ちょっとだけキュンと来てしまったが、太一はすぐに頭を振った。
「だからってヤマ・・・っ」
再び口論をしようとしたが、すでに電話は切れていた。
こうなる事はわかっていたが、前に『家であった事は何でも話す』と約束してしまったので、そうもいかないのだ。
・・・それに実際、仕事を放ってまでも家族を大切にしてくれるのは、ヤマトのいいところで、太一が大好きなところだ。
「・・・ま、いっか」
太一は嬉しそうに笑い、子機を置いた。
リビングに行くと、輝二が子供部屋の扉にピッタリと張り付いていたので、太一は思わず吹き出してしまった。
「こーじ。何やってんだよお前」
太一が声をかけると、輝二は予想していたよりもずっと落ち込んだ、それこそ泣きそうな顔で太一を見上げた。
「・・・たくや、だいじょうぶ・・・?」
「大丈夫だよ。さっき丈も来てくれただろ?丈はすっごく立派な医者だから、拓也の事絶対良くしてくれるよ」
うん。と輝二は小さく呟く。
そういえば、輝二と拓也がこんなに顔をあわせていないのは、太一が知る中でも今日が初めてだ。
輝二が拓也にベッタリしているようにも見えるが、実は拓也も思う存分輝二に甘えているのだ。
拓也もさっきお粥を食べさせに行ったら、すごくしょげていた。
『こうじ、いちゃダメなの?』
そう言われて、太一は苦笑して頭を撫でてやるしかなかった。
「どれ、熱測ってくるか」
太一はそう言って子供部屋に入る。
丈が処方してくれた薬のおかげで、咳も喉の痛みもかなり治まった。
「たく。どうだ?具合は」
「・・・あさよりいい・・・」
寝ていたのか、拓也は小さな声で呟く。
「じゃ、熱測ってみようなー。はい。ばんざいー」
太一の声にあわせて、拓也がいい子でばんざいをする。
「はい、じゃあちょっと待っててなー・・・輝二ーっ」
太一に呼ばれ、部屋の入り口でウロウロしていた輝二は一目散に駆けて来た。
輝二は太一ではなく、拓也の方に走ってきたが。
「輝二、拓也の熱が測れたら教えてくれるか?オレ、風呂掃除してるから」
輝二は何か重要なミッションを任された顔をして、神妙に頷いた。
太一が笑いながら部屋を出ると、玄関の戸がガチャガチャと鳴った。
何だと思う暇も無く、バァンッと盛大な音を立てて扉が開いた・・・いや、壊れた。
「や、ヤマト・・・」
「太一!ただいま!それで!拓也は!無事なのか!」
全速力でここまで来たのだろう、ヤマトはゼーゼー息を乱しながら太一に詰め寄る。
太一はそんなヤマトの迫力にたじたじと下がりながらも、ヤマトに説明してやる。
「・・・丈が診てくれから大丈夫だよ。今熱を・・・」
最後まで聞かずにヤマトは子供部屋に走っていった。
拓也ー!!という大声の後で、げしっという痛い音が聞こえた。
太一が慌てて行ってみると、輝二がヤマトの上に馬乗りになっていた。
「・・・びょうにんのまえではしずかに・・・!」
輝二にそう言われると、ヤマトはようやく落ち着きを取り戻したのか、腹の上の輝二を退けて拓也の方に静かに近づく。
「・・・拓也・・・?」
ヤマトの声に反応して、拓也が眼を開ける。
「・・・とーさん・・・」
拓也はそういい、ほにゃりと笑う。
丁度その時体温計が鳴り、太一が近付いていった。
「・・・37度2分・・・もう大丈夫だな」
太一自身、ホッとして言うと、ヤマトと輝二の肩の力も抜けていった。
「・・・かぁさん〜・・・」
まだガラガラ声の拓也に呼ばれ、太一は拓也に近付いていく。
「きょうオレ、こうじとねちゃだめなの?」
うーん。と、太一は苦笑を浮かべる。
「今日はダメだな。まだ完全に拓也の風邪が治ってるわけじゃないし」
「・・・オレ、ひとり・・・?」
「いや、オレが」
「俺が一緒に寝てやるから大丈夫だぞ!!」
太一が言うよりも先にヤマトはそう言った。
輝二が後ろから『ズルイ』とでも言いだけに圧し掛かってきたが、拓也が嬉しそうに笑うので、実際声にはしなかった。
「とーさんといっしょーv」
拓也が嬉しくてたまらないというようにばんざいをする。
「それだけ元気ならもう起き上がれるか?寝る前にパジャマ替えて蜂蜜入りのホットミルク飲もうな」
「うん!オレ、はちみついりミルクすき〜vvv」
拓也は嬉しそうに起き上がった。
まだ身体が本調子で無いのでふらつくのだろう、またベットにポテリと伏せてしまったが、それをヤマトが抱き起こした。
輝二が心配そうに拓也を見上げているが、拓也は楽しそうに笑っている。
太一はソレを見て、微笑ましそうに笑う。
「輝二ーこっちきて、一緒にホットミルクつくろー」
太一に呼ばれて、輝二はすぐに駆けて来た。
「拓也、元気になってよかったな」
「うん!」
輝二は本当に嬉しそうに笑い、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出した。

翌日の月曜日には、拓也はもう全快だった。
昨日一緒に入れなかった鬱憤を晴らすかの様に拓也と輝二は互いに離れようとはしなかったが、太一とヤマトにしてみれば、それはとても微笑ましい事だ。
「・・・ところでヤマト、お前昨日収録すっぽかてきただろ?」
拓也と輝二を一緒に送り出した帰り道、太一がジト目でヤマトを見ると、ヤマトはふいっと視線を泳がせた。
そんなヤマトと周囲の目を盗み、太一はヤマトの頬にチュっと可愛らしい音を立ててキスをする。
さすがにヤマトは驚いて、綺麗にひっくり返った。
「な〜にやってんだよ」
太一が笑ってヤマトの横を通り抜ける。
「だっ・・・だってお前、今っ」
太一は元々べたべたする事があまり好きではないし、外でキスをするなんて滅多に無い。
「・・・オレ、結構感動したんだぜ?お前が即効で家まで走ってきてさ」
ニヤッと笑うと、ヤマトがカーッと真っ赤になった。
「・・・俺、お前には敵わねぇ・・・」
ヤマトはそう言い、太一の肩に腕を回した。

次の日、収録を終えたヤマトは、見事に風邪になり、丈から大きな注射をもらった。



☆END☆


コメント

月見のリアルタイム症状です(笑)
風邪を引いてしまったらしく、喉が痛い・・・。
こんな時石田家なら、さぞかし大切にされるだろうなぁとか思いつつ書きました(笑)
いっつも太一視点のたっくん至上な気がしますが気のせい気のせい。