Minette Richesse

愛らしくて、少し自分勝手で。
それでも許せてしまえるのは、僕がキミにメロメロだから。

「っはよー」
拓也が教室の扉を開けて元気に挨拶をすると、クラスメートも『おはよ〜』と返してくれる。
「っはよっ」
「あ、おはよー拓也」
カバンを置いてから、クラスの女子の中で一番仲の良い泉のところへと歩む。
泉は見ていた本から顔を上げると、拓也に笑顔で挨拶を返す。
そして拓也の隣りと言う定位置に輝二が居ない事に気付き、キョトっとする。
「あれ?輝二は?」
そう言えば、教室にはまだ来ては居ない。
拓也はつまらなそうに口を尖らせ、
「・・・下駄箱で先生に掴まっちまって、今荷運びさせられてる」
毎日一緒に登校しているんだから、教室までこれなかったくらいで拗ねるなよ。と、泉は苦笑を漏らす。
拓也はぷーっと頬を膨らませていたが、泉の持っている本に意識がいった。
「・・・それ、何の本?」
泉の持っている本を持ち、表紙を見せてもらう。 抵抗もせず泉は、その中身を見せてやる。 「これはネコの本よ」
「ネコ?泉ネコ飼うのか?」
いいな〜っ!と羨ましがる拓也に、泉は違う違うと手を振る。
「図書室で新しい本が入ってたから借りたのよ〜。ほら、ネコの写真から飼い方、機嫌の見分け方とかまで載ってるの!」
ぱらぱらと泉が捲ると、可愛い仔猫の写真や文章が交互に現れる。
「へー!」
動物が好きな拓也も一緒に可愛い表情をするネコの写真に見とれている。
二人でネコの愛らしさに浸っていると、『あ』と泉が笑顔を漏らした。
「?どした?」
いきなりページを捲るのをやめた泉に、拓也もひょいっと手元を覗き込んだ。
泉は拓也を見てふふっと笑うと、ここ。と指差したところを読み始めた。
『嬉しいという感情によく似た表現方法には、ネコ独特のものがある。
抱っこしている時、顔を飼い主に近づけて、額のあたりを擦り付けてくるのだ。
顔に限らず、抱かれている腕、胸などにかなり強い力でゴリゴリ擦り付けてくる。
これは、額や口の周囲にある臭腺からでる自分の匂いをつけて飼い主と同化を図ろうとしている為で、仲間と認める行為。
動物学者によれば、自分の匂いをつけるのは、自分の所有物である証拠を残す為、つまり、縄張りにおこなうマーキング行動の一種であるという。
飼い主を獲物扱い、あるいはテリトリー扱いしていると言うわけだ。
って!」
「・・・だから・・・?」
別に何とない、スキンシップを見分ける為の一文だ。
何に泉が惹かれたのか拓也はわからず、小首を捻る。
「ん、もう!拓也ったら鈍いわねェ!
ネコはね、自分が傍に居てほしい人とか気に入ったものとかにマーキングをするの!
それって独占欲なのよね!気ままって言われてるネコでも、特定のものにはすっごく執着心があるのよ〜v」
どこかに言ってしまっている泉に、『で?』と更に拓也は返す。
泉は拓也をニヤ〜と見ると
「拓也って、ネコそっくりv」
と言ってきた。
「・・・・・・はっ?!」
その前に結構すごい事を言われていたので、拓也は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「な、なんでオレがネコ〜?」
ネコは好きだ。
けど、自分はこんなに可愛いものではない。
だが泉は、さらに突っ込んで言ってくる。
「おばさんにおじさんに輝二に私。・・・それから友樹と純平・・・それくらい?拓也の『大』好きな人って」
拓也は友達は多いが、それでも特に仲の良いのはこの6人に限られる。
見分けは簡単。
友達の前では拓也は先頭に立ってどんどん指示を出していく方だが、5人の前(友樹は年下なので兄貴面)では結構甘えたがりな面を見せる。
特に家族の中では一番年下なので、ベタベタだ。
「特に輝二に懐いてる時の拓也はまさにこのネコ状態!
『オレのもの!』って毛を逆立ててさ〜v」
言われ、そんなことない!と否定も出来ず、拓也は顔を赤らめた。
「・・・にしても輝二、遅いわねェ・・・」
「・・・そういや・・・」
ちらっと時計を見れば、始業開始まであと5分ほどだ。
先生がそこまで長く連れまわしているとは思えない。
「輝二ならさっき女の子に連行されてたぜ?」
遅刻ギリギリの、泉の隣りの男子生徒が話題を聞き、そんな事を教えてくれる。
「輝二くん・・・あたし、あなたの事が・・・!な〜んて、お決まりなパターンだろうけどな〜」
同じく一緒に教室に入ってきて、その男子のところに来た男子が身体をくねらせてワザとらしく言い、爆笑している。
「・・・ふーん・・・」
拓也はそれを面白く無さそうに聞いている。
拓也が男子から支持があるのなら、輝二は女子からの支持率が多い。
呼び出しなんてしょっちゅうだ。
「けど・・・やっぱり面白くない・・・!だって輝二はオレのものだから・・・!」
そう。と頷きかけ、こそっと泉が言っているのに気付くと、拓也はかる〜く泉にデコピンをし、席に戻っていった。

「・・・疲れた・・・」
学校から帰って来、玄関を開けた輝二の一言はそれだった。
なんか知らないが、今日は妙に呼び出しの多い日だったと輝二は項垂れる。
朝から担任に掴まり、休み時間には女子に呼び出され、挙句帰りにはまた担任に付き合わされてしまった。
拓也もさすがに帰ってしまったらしく、輝二は久々に独りで帰路を辿った。
「ただいま〜」
元気の良いとは言えない声を出し、輝二は靴を脱ぐ。
部屋に上がってカバンを降ろし、給食袋を取り出してリビングへと向かう。
そこのソファーから見える、元気よく跳ねている髪。
「たく、ただいま」
「・・・おかえり〜」
輝二が言うと、やや間を置いて、拓也から返事が返ってきた。
ピコピコと音がするので、多分手元のアドバンスに夢中なのだろう。
なんだか拓也にも蔑ろに扱われた気がして、更に気分は急降下。
給食袋の中からコップ、箸を取り出して水につけ、袋とナプキンとマスクは洗濯籠に放り込む。
「たく〜なんか飲むか〜?」
「・・・う〜ん・・・」
はっきり言って上の空だ。
それでも輝二は拓也の分も飲むものを用意してやり、リビングへと足を進めた。
「はい」
言っても受け取る様子を見せないので、輝二はテーブルにコップを置いてやる。
拓也に誘われれば格ゲーなどもやるが、基本的にゲームには興味が無い。
なので拓也がこうして一人対戦用のゲームをやっていると、どうしても手が余ってしまう。
テレビを付ける気にもなれず、母親が新しく買って来た父親の載っている雑誌を手に取り、読み始める。
太一は、ヤマトがでていて手に入れられる範囲のもの・・・雑誌等などは絶対に手に入れる。
そして飽きるくらいに読み返した後は、スクラップブックにしておくのだ。
太一専用の本棚の隠しスペースには、もう何十冊ものスクラップブックが収納されて居る事を輝二は知っている。
ペラペラとファッションのところを見ていると、ブッと音がやみ、拓也が身を乗り出してきた。
「それって父さんのだろ?」
「そう」
やっと話し掛けてもらえ、輝二は内心嬉しくなってしまう。
それでも正面切ってそれを現すのは癪で、ワザと何でも無いように振舞ってしまう。
「雑誌とかの父さんってさー父さんじゃないみたいだよな〜。だってうちじゃ、妻にデレデレ息子たちにデレデレで、こんな真剣な表情、仕事している時にしか見せないジャン」
きゃっきゃと話し掛けてくる拓也に相槌を打ってやりつつも、輝二は妙な違和感を感じる。
・・・そういえば、今日は妙に拓也が顔を擦り寄せてくる。
別に嫌な訳でもないので、輝二も拓也の頭にコツリと自分の頭を乗せ、スキンシップを取る。
すると、また拓也の機嫌が良くなった。
それで輝二の機嫌も回復し、二人は太一が帰ってくるまでずっとその体勢でいた。

「こーじ」
ベッドで寛いでいた輝二に、風呂から上がったばかりの拓也がこそっと話し掛けてきた。
「たく。どうした?」
読んでいた本から眼を移すと、拓也はお気に入りの枕を抱いている。
「・・・なぁ。今日一緒に寝ても良いか?」
と、控えめに聞いてくる。
「ああ。おいで」
週に何度かは一緒に寝たがる拓也に特に疑問は抱かず、タオルケットを捲って拓也を迎える。
枕は持ってきてはいるが、輝二と寝ていてこれが活用される事はあまりない。
朝起きてみると、輝二に腕枕してもらっている事の方が多い。
「へへ〜v」
潜り込むと拓也は、輝二に頬をグリグリと寄せてきた。
「拓也?」
さっきから妙に顔を擦りつけてくる。
輝二は雑誌を閉じると拓也を向かい合い、その頬にキスをしてやる。
それから額、鼻、反対側の頬。・・・最後に、唇。
「おやすみ」
「おやすみ」
ニコっと笑み合い、もう一度キス。
拓也は輝二にしがみつくと、胸に顔をギュッとくっつけ、眠っていった。

翌日も似たような感じで、さすがに輝二も疑問を抱く。
機嫌の悪い様子でもないが、いつも以上に引っ付いてくる。・・・特に、顔。
泉に相談すると、思いっきり笑われた。
そして理由を聞くと、知らず笑みがもれる。
それを泉に見られて『キモイ』とかなんとか言われたのは内緒の事だが。
・・・かわいいなぁと思う。
これも一つの嫉妬の形なのだろう。
公面きって言ってしまうと、太一とヤマトに迷惑がかかってしまう。
一応仲の良い兄弟で過ごしている拓也と輝二に、学校で居る中ではあまり引っ付ける時間は無い。
それでも呼び出されてしまう自分に『マーキング』をして、精神的に自分は傍に居て守ってやる!としているのだ。
・・・いじらしい。
輝二は胸を躍らせ、帰路を辿る。
今日も先生に呼び出されてしまい、拓也と一緒に帰ることが出来なかった。
それでも良い事を思いついた輝二の顔は明るい。
嫉妬深くて可愛いネコに、少しでも傍に居てあげて傍に居てもらおう。
拓也の新しい一面を発見した輝二のドキドキメロメロは、この先も続いてしまうのだろう・・・。



☆END☆


コメント

ネコの本読んでて思いついた話v
もっと拓也をニャンゴロさせようかと思ったのですが、身体が拒否反応を示したのでやめておきました(笑)
犬も好きだけど猫も好きv罪深〜い!(大笑)
ちなみに題名の『Minette Richesse』はフランス語で、直訳すると『大切な仔猫』になりますv
読み方は『ミネット(仔猫) リシェス(大切)』です(すっごく多分/・・・)
・・・ところでメロメロって死語ですか?!