Summer Smell

季節には、その時期独特の匂いが感じられる。
春は花の様々な香りや日向の匂い、秋には落ち葉を焼く匂いが、そして冬には冷たい風が鋭く鼻に届く。
そして、一番拓也が好きなのが、夏の匂い。
「ん〜〜〜〜っ」
和室の畳の上で、拓也は思い切り伸びをする。
「はー」
そして、幸せそうにまたパタリと畳に頬を寄せる。
その傍にはコースターに乗せられたコップが、冷たそうな汗をかいている。
熱によって解けた氷が、カランと涼しい音を立てて麦茶の中をクルンと回る。
横を向き、眩しい外に目をやれば、アブラゼミが煩いくらいに喚いている。
冷房の効いているリビングや洋室と違い、この和室はクーラーがついていない。
外からの風を取り入れるだけのものなので、夏はやはり暑い。
それでも、拓也はこの部屋がお気に入りだ。
簾(すだれ)が垂れており、日陰は出来てはいるが、毎日夏日を上回る気温なので、拓也の肌も汗ばんでいる。
チリン。
風に揺れ、窓際に結ばれている風鈴が凛とした音をたてる。
「拓也・・・」
襖がスッと開き、グッタリとした様子の輝二が入って来た。
「輝二」
拓也は少し驚いて、入ってきた相手を見る。
輝二は夏が苦手で、いつもはクーラーに当たっている。
なので、夏は冷房の無いこの部屋にはそうは入って来ないのである。
「どしたんだよ」
入ってくるなり輝二はばったりと拓也の横に倒れてしまった。
「・・・暑い・・・」
「だったらリビングに居りゃいいじゃん」
拓也が飲み物を汲みにさっきリビングに行った時には、テーブルで夏休みの宿題をやっていたのに。
「・・・だって・・・」
グッタリとうつ伏せていた輝二は、チラッと拓也の方を見る。
「拓也、いないんだもん」
少し拗ねた口調で輝二は言い、拓也に抱きつく。
子供体温の拓也の身体は輝二には熱かったが、それでも離したくは無かった。
「こーじの甘えた〜v」
後ろから抱きつかれた拓也も、嫌がりもせずにキャッキャッとはしゃいでいる。
小さな頃からのクセで、拓也は休日や家に居る時は女物の服を着る事が多い。
男物に比べて女物の方が涼しい夏は特にそうだ。
今日も拓也は、ミミから送られてきた服を着ている。
朱色のチェックの膝くらいのシンプルなワンピースを着て、髪は二つに結っており、輝二は輝二で襟詰めのノースリーブの服を着て、いつもどうり長い髪を後ろで結んでいる。
「じゃ、リビング行く?」
拓也も輝二と一緒に入れるのは嬉しいので、立ち上がろうとする。
が、輝二は首を横に振った。
「なんで。ここ、暑いだろ?」
「でも拓也はここが好きなんだろ?だったらココにいよう」
自分の我が侭で拓也の傍に居るんだから、これ以上迷惑をかけたくないと輝二は言うのだ。
そんな輝二の気遣いが嬉しくて、拓也も思わず笑みが浮かんでしまう。
「・・・あ、そうだ」
一度腹の辺りに絡んでいる輝二の腕を解くと、拓也はテペテペと素足で部屋を出て行ってしまった。
しばらくすると拓也は両腕で扇風機を持って戻ってきた。
「へへ〜」
コンセントにプラグを差すと、『入』のボタンを押した。
ウィ〜ン・・・という機械音と共に扇風機のハネが回り、風が吹き出した。
「これなら涼しいだろ?」
扇風機の首を調節し、丁度自分たちに来るようにする。
それから改めて、輝二のところへとダイビングした。
「サンキュ、拓也」
クーラーほど涼しくは無いが、先程よりは全然マシである。
拓也の気遣いに今度は輝二が感動し、暖かな笑みを浮かべた。

ふと眼が覚めた。
拓也と戯れているうちに二人して寝てしまっていたらしい。
その原因はすぐにわかった。
「・・・電話・・・っ」
まだ隣りに引っ付いて眠っている拓也の腕を慎重に退け、電話のあるリビングに静かに走る。
先程まで冷房をつけていたので、ヒンヤリとした空気が輝二を包む。
「はい、石田です」
『お、居たのか〜よかった〜』
電話をかけた主は、太一だった。
太一は今、久々にオフが取れたヤマトと一緒に買い物に行っている。
最近本当に忙しかったので、拓也と輝二は気を利かせて留守番をしているのである。
「母さん。どうしたんだ」
『実はこっちの方雨が降り始めちまってさ。今日降水確率60パーセントとか言ってたんだけど、朝天気が良かったから洗濯物ベランダに干してあるんだよ〜!
悪いけどさ、取り込んでくれるか?』
「わかった。ちゃんと取り込んでおくから」
『んで、夕食は外で取ろうぜ。一回戻ってお前ら拾ってくから。何か食べたいものあるか?』
「・・・特には・・・。あえて言うなら冷たくってさっぱりしたものかな」
『おーしわかった!じゃあソバでいいか?・・・じゃ、6時くらいに家に行くから』
「わかった。・・・うん、うん・・・じゃあ後で」
プッと子機の電源を切ると、急いで2階に上がる。
引き戸を開けると、地面にポツポツとシミが広がっている。
「うわ降って来た・・・!」
急いで輝二は洗濯物を取り込み、部屋へと入れる。
朝は晴れ間が覗いていたので、洗濯物もこの時間には乾いていた。
「・・・ふー・・・」
全部取り込んだのを確認すると、輝二は家中の開いている窓を閉めに回る。
最後に拓也の寝ている和室、縁側の戸を閉め、輝二はようやく拓也の横に戻った。
「・・・こーじ・・・?」
さすがにその騒がしさに目を覚ました拓也が、目を擦りつつ座っている輝二を見上げる。
「ゴメン拓也。起こしちゃったか?」
「うー・・・・・・雨・・・?」
しばらくグズるように目を擦っていた拓也だが、段々と激しくなってきた雨に気付いた。
「ああ・・・いきなり激しくなってきたから、夕立じゃないかな」
涼しくなっていいや。と、輝二はまた横になる。
横になった輝二に、拓也はすぐに寄ってきてピッタリとくっつく。
そして輝二は拓也を包むようにその背に手を回し、腕枕をしてやる。
「・・・輝二、暑いの嫌いなのに、こうしてくっつかれて嫌じゃないのか?」
雨が降ってきて気温も多少下がり、扇風機もつけてはいるが、それでも暑い。
ふと浮かんだ疑問を、拓也は素直に聞いてみる。
「拓也や父さん母さんだったら全然嫌じゃないな。他のやつ等なら退けるだろうけど」
言い、殊更強く拓也を抱きしめる。
「拓也の体温だったらいくら熱くても触ってたいし」
言えば、拓也は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「あ、匂ってきた」
そう言うと、拓也はふと少しだけ身を起こす。
ハテナを浮かべて、輝二は鼻を動かす。
すると、草の青い匂いが輝二にも届いた。
「・・・ああ、井草・・・」
そういえば、この畳は井草で編みこまれている。
湿気が部屋にも入ってきたので、井草がソレで香っているのだろう。
「オレさ、この匂い嗅ぐと夏だな〜って思うよ」
「そうなのか?」
少し意外そうに輝二は聞く。
「ん〜太陽とかの匂いも好きだけどさ〜何かこの匂いってホントにこの季節限定って感じがしてさ〜」
拓也は時々、目に見えないもので『感じる』事がある。
それはちゃんと口に出来る感じ方ではないが、拓也のそういう感じ方は、何となく情緒が感じられて輝二は好きだ。
「今日の夕飯は外で食べるってさ」
「そっか〜。じゃあソバが食べたいなぁ。冷たいソバ!」
拓也が嬉しそうに言うので、輝二も思わず笑みになってしまう。
時計を見れば、まだ3時を少し回ったところである。
携帯のアラームを調節し、5時に設定する。
「じゃ、もう一眠りするか?」
その後で風呂に入り、服を替えればちょうど6時頃だろう。
拓也はまた嬉しそうに笑うと、輝二の背に腕を回した。
「おやすみ」
すぐに眠りに入ってしまった拓也の頬にキスを落とし、輝二も目を瞑った。
湿気を含んだ井草が、先程よりも強く、蒸すような青い匂いを放つ。
それは決して嫌なものではなく、拓也と輝二の鼻をくすぐる。
夏独特のこの匂い。
なるほど。確かに『夏』という感じがする。
この匂いが、輝二に取っても夏の匂いなのだ。
誇るように香る部屋の中で、二人はしばし夏の惰眠を貪るのだった。



☆END☆


コメント

・・・約3ヶ月ぶりの更新・・・(汗)
・・・や、でも何らかのイベントで書いてましたしね!・・・すみません・・・(素直に土下座)
私も井草の座布団持っているのですが、これが良い香りなのですよ〜v大好きv
熱くてもラブラブということですなv(笑)