Lovest 1

おかしい、と思ったのは、いつも嬉しそうにメールを送りに来るロックマンがその姿すら見せなかった時だ。
とりあえず市販の標準ナビから受け取ったメールを炎山に渡しに行く。
『炎山さま。光熱斗からメールが届いております』
仕事用のパソコンを睨むように眺めていた炎山の目元が、ブルースのその言葉にふっと和らぐ。
緊急の用以外のメールはすべて後回しで見る炎山が、何よりも先に見るのが熱斗からのメールだ。
「開いてくれ」
視線をパソコンからPETに移し、ブルースに開封を促す。
ブルースは一礼をしてから、メールを開封した。
もちろん、自分には見えないように。
嬉しそうに眺めていた炎山の表情が、だんだんと曇ってきた。
・・・いや、曇ってきたと言うと語弊がある。
正確には悩む様な表情になってきたのだ。
『・・・炎山様?』
呼ぶと、炎山は少し間を置いてから返事を返した。
「ああ・・・何か、暇があったら少しでも良いから会ってほしいと言うのだが・・・」
珍しい。とブルースは思う。
熱斗は炎山がどれだけ忙しく、重要なポジションにいるかと言うのを幼いながら理解している。
なので、自分の我が侭で炎山を困らせたくないと、仕事時間中にメールを入れたり、会いたいと言うのは極力控えているのだ。
時々欲求不満が募り、我が侭メールが届いたりもするが、3日前にデートをしている。
まだそんなに日にちが経っていないのに、そんなメールを出すなんて・・・。
「ブルース。今後の俺の予定はどうなっている?」
炎山に聞かれ、ブルースは炎山のスケジュールプログラムを開いた。
『今日は仕事が詰まっておりますが、明日は特別忙しい予定は入っておりません。
今日中に今見ておられるプログラムに眼を通してサインをお書きになり、先日のクライアントからの要望に修正を加えた書類を社長に提出なされば、明日の午後はフリーになります』
そうか・・・と炎山は顎に手を当て、考えるが、それは形だけとブルースも心得ている。
どうせ返事は決まっている。
『いかがしますか?後で返信いたしますか?』
言えば、炎山は『いや・・・』と否定する。
「今返事を書こう。ブルース。頼む」
炎山が熱斗からのメールの返信を後まわしにする事はあまり無い。
ブルースは主人のこんな行動が愛おしくも思え、内心で微笑した。

「炎山っ!」
炎山のお付き人の満槻(みつき)に外門から玄関まで出迎えてもらい、玄関には炎山の姿があった。
思わず炎山の傍まで走り寄る。
すぐにでもぎゅうっと抱き付きたいが、さすがにこの場で抱擁しあうのは世間の目と言うのもあり、熱斗は何とか我慢した。
「久しぶりだな」
そしてそう思っているのは熱斗だけではない。
もちろん炎山だって、4日振りの熱斗が傍に居て冷静でいれる筈も無い。
「俺の部屋で良いか?」
言われて、熱斗は満面の笑みで頷く。
長い廊下を渡り、階段の代わりにエレベーターに乗る。
途中メイドの緋駕(ひが)におやつとお茶を頼み、10分かけて炎山の部屋に到着した。
「あいっかわらず遠くて広いなぁ」
部屋を見上げ、熱斗は感嘆の溜め息をつく。
「お前来るごとに同じ事言ってて飽きないか?」
「だってホントの事だもん。それに、ここに連れて来てくれるのもオレだけなんだろ?」
要するに熱斗は、自分だけ炎山の部屋に来れると言う『特別』が嬉しいのだ。
自分だけが、炎山の部屋の構造や場所を知っている。
熱斗にとって、これは何にも負けない優越感だ。
扉を閉めると、炎山は返事の代わりに熱斗を思いきり抱きしめた。
熱斗も突然の行動に嫌がりもせず、炎山に負けじとぎゅうっと背中に手を回して抱き返す。
「・・・会いたかった・・・熱斗・・・」
「オレも・・・」
現副社長でありオフィシャルネットバトラーのポジションに居る炎山と、普通の小学生の熱斗が普通の恋人同士のように毎日会える筈も無かった。
だけれど、たまにしか会えないらかこそその時間は濃密になるし、互いが愛おしいと改めて思える機会が多いと言うの事実だ。
不満ばかりでなく、炎山も熱斗も、限られたもののなかで幸福をちゃんと探し当てている。
しばらく抱き合っていると、コンコンと扉をノックするのが聞こえた。
名残惜しいと思いつつも離れ、炎山が『入れ』と言うと、先程の緋駕がカートいっぱいのお菓子とお茶を運んできてくれた。
「これ、緋駕さんの手作り?」
綺麗なお菓子たちに眼を輝かせながら熱斗が聞くと、緋駕はにっこりと笑った。
「前に熱斗様が喜んで食べてくださったので、また腕を揮わせていただきました」
緋駕はメイドだが、パティシエでもある。
繊細な飾りつけとその味に、熱斗はたいそう感動したのだ。
「やった♪オレ緋駕さんのお菓子大好きv」
「ありがとうございます。そう言っていただけるのは嬉しいのですが、隣りの方が御嫉妬なさると思いますので、そのくらいでお止めください」
緋駕がにっこりと笑うと、少し眉を寄せていた炎山は目をパチクリした後フイッと視線を逸らした。
炎山にこう言った態度を取れるのは、屋敷の中でも少数の人達だ。
しかし、だからこそ炎山はそういう人達に絶大な信用を置いている。
ただ付いて来るのならアヒルでも出来る。
大切なのは、いざと言う時に自分の意見をしっかりと述べれる人材なのだ。
もっとも、緋駕がこんな態度をしてもお咎め無しと言うのは、熱斗が緋駕の料理を気に入っている為、と言うのが理由であったりもするのだが。
歳相応な炎山の態度に、熱斗と緋駕はクスクスと声を殺して視線を合わせて笑んだ。

しばらくの間、メールに書けないような小さな世間話をしたり、緋駕の作った料理に舌鼓を打っていたりしたが、のんびりとしたその空気は、炎山の疑問の一言で破られてしまった。
「おい・・・そういえばロックマンはどうした?」
クリスタルガラスで出来たテーブルの上に、炎山の紅いPETはあるのに、熱斗の青いPETは置かれていない。
もちろん、そこに居るはずの住人も顔を出してはいない。
いつもなら、抱擁が終わるのを待ち、炎山のPETに繋いで欲しいと言ってくるロックマンなのに。
そういえば、いつもよりも静かなのはそのせいか。
そして、ブルースがそわそわしている理由も。
が、何気ない炎山の質問に、今度は熱斗の表情が暗くなってしまった。
一気に静まり返った部屋の空気に、炎山は思わずギョッとしてしまう。
「ね、熱斗・・・俺は何か嫌な事を言ったか・・・?」
が、熱斗は首をフルフルと横に振る。
『そういえば、昨日から何か様子が変だが・・・?』
躊躇いつつもブルースも声をかける。
ただ会いたかったのなら、熱斗もすぐにロックマンをブルースに会わせてくれた筈だ。
「違う・・・炎山は悪くない・・・全部・・・オレが悪いんだ・・・!」
途端、熱斗の声が弱々しいものに変わる。
今にも泣き出しそうなその雰囲気に、炎山とブルースはまたしてもぎょっとしてしまう。
「ね」
「どうしよう炎山!オレ・・・オレ・・・どうしたらいいのかわからないんだ・・・!!」
熱斗、という炎山の言葉を遮り、縋るように熱斗は炎山に抱きついた。
尋常でないその態度に、ロックマンに何かあったのかと炎山とブルースはヒヤリとする。
「・・・オレのせいだ・・・オレが・・・あんな・・・」
泣く一歩手前の熱斗の背を優しく叩き、炎山はぎこちなくも慰めてやる。
「落ち着け熱斗。ロックマンがどうした?俺たちに何か出来るかもしれないと思って、頼ってくれたのだろう?」
炎山のその言葉に、熱斗はコクッと頷いた。
「でも・・・だけど・・・」
「とりあえず、ロックマンを見せてみろ」
ウィルスに多大な被害を受けてしまったのか、バクが発生してしまったのか。
いろいろ想定しつつ、炎山とブルースはロックマンの出現を待つ。
「じゃあ・・・繋ぐな・・・?」
炎山のPETは特殊な為、市販のPETよりもウィルス除去能力も高いし、バクの発生率も低い。
感染者自体のものは除去できないが、PET内にウィルスやバクを広げるような事はまず無い。
バックアップもバッチリだ。
それでも、ロックマンと熱斗をここまで追い詰めているのだ。油断は出来ない。
ブルースはもしもの為にソードを装備し、炎山も対応できる用に熱斗に見えないようにチップを用意している。
カチッ。
ペットの端末が繋がれ、炎山のPETにノイズが走る。
それはやがて、青い形になっていった。
『にゃぁ』
ロックマンの第一声はそれだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
パタパタと触れる青い尻尾。
紺色の髪から見える、尻尾と同色のネコ耳。
そして・・・少年型のナビは、今幼児の姿をしているのだった・・・。



☆NEXT☆


コメント

マンガでも描いたネタなんですが、ロックマンチビ猫化(笑)
猫ウィルスの回からずっと書いてみたい〜書いてみたい〜思ってたんです。
ちょっと時間出来たので書いてみたら、止まらない止まらない〜!(大笑)
何話になるかは今ちょっと計算できないのですが、チビニャンコロック、可愛がってやってくださいv
ちなみに『満槻』と『緋駕』はそれぞれ炎山と熱斗の声優さんの名前を捩らせていただきましたー(笑)