Mile Stone 2

ふと、眼が覚めた。
久々によく寝た気がして、思わず『んー』とネコのように伸びをしてしまった。
それから心地のいいベットにまた突っ伏す。
「・・・あれ・・・?」
自分用に使わせてもらっているベットは、ここまで大きく、手触りが良かっただろうか?
もちろん、自分の家のものに比べればとても使い心地がいいのだが、今自分の寝転がっているベットは、更にその上をいっているのだ。
「起きたか?」
耳に心地の良い『音』を拾い、拓也はそちらの方を向いた。
黒に近い紺のサラサラとした長い髪。
スラリと伸びた長身。
少しきつめだが、自分を優しく見つめる、瞳。
「・・・・・・。・・・――――――っ!!!!」
最初はポ〜ッと見とれていた拓也だが、頭が覚醒していくにつれ、眼の前の人物がどういう人か、昨日何があり今自分がどこにいるのか思い出した。
「こっ輝二さまっ」
慌ててベットを降りようと奮闘したが、起き立ての身体は思い通りに動いてはくれず、床に転げ落ちてしまった。
「〜〜〜〜った〜〜〜っ」
頭を抑えていると、控えめの笑い声と共に手が伸ばされた。
「まったく、朝っぱらからドジなヤツだな」
拓也がボ〜ッと見ていると、脇に両手を入れられ、ヒョイっと抱き上げられた。
「うあっ」
軽い衝撃と共に、今度はベットに降ろしてもらった。
拓也はかぁっと頬を染めてから、ハッともう一つ大変な事を思い出した。
「そそそっそうだ!仕事っ!!」
バタバタと立ち上がろうとすると、輝二に止められた。
「もうメイド頭に言ってあるから、そんなに慌てるな。またコケるぞ?」
「・・・あ・・・」
また輝二に迷惑をかけてしまい、拓也はシュンと項垂れる。
いきなりおとなしくなってしまった拓也に、輝二は首をかしげる。
「拓也?どうした?」
輝二が拓也の顔を覗き込む前に、拓也は顔をあげた。
「・・・いえっ!では私は行きますので・・・本当に、ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げ、拓也はパタパタと足音を立てて輝二の部屋を後にした。
突然の拓也の行動に、輝二はビックリしたように眼を丸くし、ポリポリと頭を掻いた。

部屋に帰って行くと、パジャマのまま戻ってきた拓也に、メイド頭は苦笑を浮かべた。
一言注意を言ってから、さっさと部屋から去っていってしまった。
優しいメイド頭だが、今拓也はガツンと叱ってほしかった。
ここの人達は優しすぎて、拓也は自分に甘くなってしまいそうで恐かった。
欲深くなれば、それだけ仕事に不満が生まれる。
そういうのは、絶対に嫌なのだ。
着替えを終え、鏡で身なりを整えると、深呼吸を何度かして仕事に取り掛かっていった。

庭掃除を言われた拓也は、ホウキとチリトリを持って庭院(にわ)へとやって来た。
「・・・ひろー!」
拓也は歓声を上げた。
綺麗に手入れされた芝はしっかりと整っており、小さな噴水もコケ一つ無く、綺麗な水が流れている。
拓也の仕事は、ここの落ち葉を集めていく事だ。
「・・・よし!」
ここならこけても痛くないだろうし!と、ヘンに張り切って、拓也は掃除に取り掛かった。
風もそよ風程度で、集めた落ち葉が散らばる事も無い。
拓也はチリトリを樹の幹に置き、近いところから掃いていった。
ザッザッと音を立てて落ち葉を掃きながら、考えるのはやはり輝二の事だった。
一メイドの自分にあそこまで優しくしてくれると言う事は、やはりメイド全員に優しいと言う事だろう。
何だかそう考える自分が恥ずかしくって、拓也はホウキの柄に力を篭めて掃く。
「・・・輝二さまはご主人様で、オレはメイドなんだから、釣り合う筈が無い・・・・・・ってー!オレ何考えてるんだー!!」
バッサバッサと音を立てて、ホウキで掃く・・・いや、振り回している。
ハッと気付いた時には、せっかく集めた落ち葉が辺りに広まってしまっていた。
「・・・・・・はぁ・・・」
溜め息をついて、拓也はまたおとなしく掃除を始めた。
・・・そこを通りかかったのは、輝二だった。
朝方の拓也の様子がおかしかったのが、少しだけ頭に引っかかっていたのだ。
昨日の夜拓也を発見した時誘ったのは、ただの気紛れだった。
泣いている拓也を見て、何かに似たものを見つけたのだ。
細い、軽い身体。
ふと夜中眼が覚めて、隣りで寝ている拓也を見つめて思わず笑みが零れた。
寝る直前までは少し身を離していたのに、ぎゅっと自分に擦り寄っていたのだ。
目の端に浮かんでいた涙を拭ってやると、更に自分の方に寄って来た。
暖かい身体。
そして、拓也を例えるに一番当てはまる動物が頭に浮かんだ。
・・・そうだ。ネコに似ているのだ。
ドジな、ネコ。
そう考えると愛おしくて、思わず拓也の身体を抱き返していた。
なのに、眼が覚めた時のあの拓也の態度。
「・・・俺、なんかしたっけ・・・?」
思い当たる節も無い。
と、玄関を出て庭院に出た時に拓也を発見した。
丁度、バッサバッサとホウキを振り回して落ち葉を広めてしまっているところだった。
「・・・何やってんだ?」
輝二は苦笑を浮かべてソレを見る。
「・・・・・・」
近付こうとも思ったが、今拓也に近寄っても、具合を悪くするだけだと輝二はその場を立ち去った。

そして、夜。
昼間拓也の事をいつの間にか真剣に考えてしまっていて、なかなか仕事の進まなかった輝二は、また夜中まで仕事をしていた。
「・・・まさか今日はいないだろう・・・」
思い、輝二は近道・・・昨日とはまた違う廊下を通り自室へと戻る。
・・・と。
「・・・・・・?」
クスンクスンと微かに泣き声が聞こえる。
「まさか・・・」
輝二は進路を変更して、声のする方へと歩みを進める。
ランタンに映し出されたのは、火で紅く染まった茶色の長めの髪。
「・・・拓也・・・?」
呼ぶと、ハッと拓也が顔を上げた。
眼が真っ赤に腫れていて、頬だけでなく、顔が涙でグシャグシャだった。
「・・・・・・っ」
拓也は輝二の姿を認めると、顔を更に真っ赤にして立ち上がり、反対方向へと走り出した。
「・・・っ拓也・・・!!」
思わず全速力で走る拓也を追ってしまった。
資料を放り投げ、拓也の手を掴もうとする。
が、拓也は以外に速く、捕まえるのに苦労をする。
「――――っ!」
「やっ」
ようやく手を掴み、こちらの方を向かせると、拓也は小さくうめいた。
息を乱し、ポロポロと涙を零す拓也は、不覚にも可愛いと思った。
「〜〜〜〜・・・」
拓也は掴まれている手を解こうとするが、輝二が離す筈も無い。
「・・・よく会うな」
そう言ってやると、拓也の抵抗が止んだ。
「俺が、またあの廊下を通ると思って、わざわざこんなところまで来たのか?」
「・・・・・・」
拓也からの回答は無い。
と言う事は、肯定と言う事だろう。
「・・・来い、拓也」
「・・・ダメ、です・・・」
が、拓也はその場を動こうとはしない。
輝二は溜め息をつくと、俯いている拓也の方をまた向いた。
「拓也。これは命令だ。来い」
そう言われてしまえば、拓也に逆らう道は残ってはいない。
輝二にもう一度手を引かれると、そろそろと拓也は歩み始めた。

途中、散らばった資料を集めて、また輝二の部屋へとやってくる。
敷居を跨ぐ前に、拓也はまた立ち止まったが、輝二が手を引くと、無言で部屋へと入っていった。
輝二は資料の束を机に置くと、手を解かれたところで立ち止まっている拓也の方へと向かっていく。
涙は収まっていたものの、いつものような元気は無い。
「・・・拓也・・・」
名前を呼ぶと、拓也はヒクリと肩を震わせた。
「・・・拓也・・・俺はお前に何かしたか?」
輝二が言うと、拓也はバッと顔を上げた。
「違う・・・違います!輝二さまは何もしてません!!」
拓也は必死に弁解した。
少しだけ普段の拓也を見つけて、輝二の中から少しだけモヤモヤが消えた。
「じゃあ、何故俺を避ける?」
こう問われると、拓也の口が詰まった。
「・・・拓也・・・」
輝二にもう一度名前を呼ばれると、拓也は俯いて、それでも口を開いた。
「・・・輝二さまもメイド頭さんもみんなとても優しくて・・・」
拓也はパジャマの裾を掴んで、涙をまた浮かべる。
「とてもとても優しくて、このままだと私はその甘味にはまってしまいそうで、恐いんです・・・」
ひっく。と、嗚咽が漏れる。
輝二は手を伸ばそうかと思ったが、寸前でやめた。
今ここで手を伸ばしてしまったら、拓也の『言葉』が涙で消えてしまいそうだったから。
「ここに来て、働けて。私はとっても幸せなのに、優しくしてもらうと、どんどん欲が出てしまう。・・・・それで輝二さまに嫌われてしまうのが、恐い・・・」
そこでたまらず、輝二は拓也を抱きしめていた。
拓也は突然の行動に抵抗も出来ず、輝二の胸の中に収まっていた。
「・・・拓也、素直に答えろ」
少し身体を離して、輝二は拓也の眼を至近距離で見つめた。
そうして、嘘をつけなくする。
「お前は、俺と一緒に居たいか・・・?」
輝二から眼が離せなくて、拓也は小さく頷いた。
それを見て、輝二はようやく笑みを浮かべた。
「拓也、お前は弱くない」
いきなり言われて、拓也は小首をかしげる。
「ソレを『欲』とわかっているのなら、お前は大丈夫だ。ちゃんと自分を抑える術を持っているからな」
そう言われて頭を優しく撫でられると、たまらず拓也は球のような涙を零し始めた。
もう一度輝二は強く抱きしめてやり、拓也は素直に胸を借りた。

「収まったか?」
「・・・はぃ・・・」
ズッと鼻を啜り、拓也はようやく輝二から離れた。
「よし。じゃあお前は今から俺のお付きのメイドだ」
「・・・・・・は?」
思わぬ言葉に、拓也の口から気の抜けた声が漏れた。
輝二は笑いながら、もう一度言葉を繰り返す。
「お前は、俺のお付きメイドだ。・・・言っとくがこれは命令だからな?拒否は許さない」
拒否も何も、こんなにも嬉しい事は無い。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
また拓也の眼から涙がポロポロと漏れる。
輝二は指で拭ってやると、まだ泣いている拓也を抱きかかえた。
「ぅあっ!?」
いきなりの浮遊感に、拓也は輝二を掴んでしまう。
そうして連れて来られたのは、ベットだった。
「寒い。寝るぞ」
そう言うと、電気を消して輝二もベットに入ってきた。
ハッとようやく状況を理解した拓也が立とうとしたが、一瞬早く輝二が拓也を抱きしめたので、抜け出せなくなる。
「まさか今の時間に部屋に戻るわけにはいかないだろ?」
「じ、じゃあソファーを貸してください!ソファーで」
寝ます。と、拓也は紡げなかった。
唇に、フワリと柔らかな感覚がある。
目を開けたままだったので、目の前には輝二の眼があり、自分を見つめていた。
と、唇から感触が消え、輝二の輪郭がはっきりとした。
「・・・オヤスミ」
輝二は不敵に笑うと、拓也を抱きしめた。
拓也は顔を真っ赤にして、それでもベットを抜け出せない状況を喜んで受け止めて、なかなか眠れない夜を過ごした。
こうやって、輝二と拓也の関係がスタートした。



☆END☆


コメント

・・・短くなるかなー?とか思ってたら結構な長さに(笑)
たーくやの口調書いてると違和感があって、思わず口調が崩れてしまう事があります(笑)
って言うか『さま』!!『輝二さま』が一番抵抗がある!!(ある意味輝二に失礼)
『お付きメイド』をやってみたくって書いた小説。
一応前回のと繋がっているんですよ☆