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『祈祭』―キサイ― 賭けをしよう。 言い出したのは、ヤマトだった。 内容も聞かずにOKをしてしまったけど、その内容に驚いてしまう。 今は七夕祭りの最中で、人ゴミも半端じゃない。 その上もう夕方も過ぎているので、いくら電球の明かりがそこここに有ると言っても、視野は悪い。 そんな中ヤマトは、『鬼ごっこ』をしようと言い出したのだ。 鬼は太一。 範囲は今祭りをやっている神社の周辺・・・屋台が区切れて居るところまでだ。 「制限時間は1時間。携帯を使って俺と話しは出来る。ただし、鬼ごっこなんだから、太一は俺を捕まえなくっちゃいけない」 「ちょ・・・ちょっと待てよヤマト!何だってそんな」 「じゃ、開始な」 太一の言葉を遮ると、ヤマトは太一が付けているお面を不意に顔に被せる。 「っ!?」 いきなり仮面を被せられたので、条件反射で眼を瞑ってしまう。 再びお面を上げ、視界が開けた時には、ヤマトはもう目の前に居なかった。 ヤマトらしくない唐突な行動に戸惑ってしまったが、ここまであしらわれると、いい加減腹が立つ。 「くそっ!」 前と後ろ、どっちに行ったか皆目検討がつかないが、迷っていても仕方が無いので走り出す。 今が19時ちょっと手前なので、太一は携帯で1時間後にアラーム設定をする。 ヤマトは甚平だからそれでも走りやすいだろうが、太一は浴衣だ。 慣れぬ下駄をカラコロ鳴らせながら、普段の2分の1にも及ばないスピードで走る。 屋台の向こうは林だ。 抜け出している可能性はあるが、そうしたら更に視野は悪くなる上、向こう側が見えなくなってしまう。 人の数が、進むにつれ薄れてくる。 先程から人とぶつかったりしたので、浴衣は崩れて居る。 携帯は使わない。 何となく公平じゃない気がしたし・・・実際ヤマトも使っては来ない。 ずっと走りっぱなしだったので、一旦足を止めると、予想以上に息が切れていた事がわかった。 すぅっと大きく深呼吸して空を仰ぐ。 さっきまで曇天空だったのに、何時の間にか雲は無くなり、天の川が美しく光っている。 「・・・・・・」 それを見て、太一は更にヤマトが傍に居ない事が悔しくなる。 ・・・この景色を、ヤマトと一緒に見ようと祭りに来たのに・・・。 『まぁ天の川が見えなくても、花火がある。それは一緒に見ような』 そう言ってヤマトは、宥めるように太一の手を握ってやる。 嘘つき。 太一は心の中で毒付く。 花火までは後20分。ヤマトとの制限時間は30分。 だけれど諦めるのは自分の思考に合ってはいない。 「馬鹿ヤマト・・・っ」 今度は声に出して毒付き、太一は再び走り出す。 一歩一歩足を前に出すごとに、鼻緒が肌に食い込む。 はぁ。はぁ。と息を切らせながら、キョロキョロとあたりを見回す。 明るい金髪を見つけようとするのだが、今は誰も髪を染めていて、しかも辺りは薄暗いので、いつもなら簡単に見つけられる派手な頭も見つけられない。 ―――――ヤマト・・・。 こんなに必死に誰かを見つけようと思うのは久しぶりだ。 もしかしたら、ディアボロモンがデジタル上に現れて、みんなに必死に連絡をつけようとした時以来ではないだろうか? ・・・あの時は一番に連絡をくれたのに・・・。 今度は追いつこうとしても、逃げていくのか? 後ろ向きの考えに頭を降り、速度を上げる。 「絶対、見つけ出してやる・・・!」 あと残りは15分。 太一は神社の階段の前に来ていた。 いつもならこんな距離走っても大して疲れないのに。 いかに自分が浴衣と下駄に慣れて無いかがわかる。 ふと見れば、鼻緒と肌が擦れ合って血が滲んでいる。 太一は眉を顰める。鈍痛も堪えるが、それ以上に下駄の有り様を明るいところで見るのが怖い。 ・・・後で母親に何と言われるか。 重い溜め息をつき、太一は危うい足取りで階段を上る。 上っている最中に、空気を振るわせる大きな音が耳に入った。 辺りからは歓声が響く。花火が上がったのだろう。 ・・・ヤマトと見たかったのに。 何だってこんな事をしてしまったのだろう。 祭りで浮かれていたとはいえ、内容も聞かずにOKしてしまった自分が憎い。 最悪の七夕だ。 夜空の向こうでは、彦星と織姫が1年越しの逢瀬を楽しんでいると言うのに。 「馬鹿ヤマトっ」 最後の一段を、今度は声に出した悪態と共に下駄が壊れる勢いで上る。 眼を正面に向ける。 パァン・・・。 花火がまた上がり、太一の横顔を照らす。 共に、目の前に居る人物も。 「よう。55分振り」 ヤマトはヒラヒラと手を振りながら太一に近づいてくる。 太一は呆気に取られる。 あんなに必死に探した人物が、直ぐ目の前に居る。 そういえばヤマトが、神社の上は絶景の花火見ポイントだと言っていた。 少し考えれば判る事だ。 ヤマトだって花火を見るのを楽しみにしていたんだから。 「制限時間5分前。太一の勝ちだな」 残念。と言うヤマトからは、全然そんな雰囲気は感じてこない。むしろ嬉しそうだ。 「で。何でおにごっこなんだ?」 深呼吸し、呆れを抑えながら聞く。 「そりゃ、織姫と彦星体験、みたいな?」 ヤマトはくっくっと笑うと、太一を横抱きにする。 いつもなら恥ずかしい。と咎める太一だが、今は疲れているのと痛いので、そんな事言う気も失せる。 「・・・で、満足か?」 ヤマトは何も言わない。その代わり、いつもは見れないような満面の笑みだ。 「まったく。何が織姫と彦星だよ・・・」 ブツブツ言ってる間に、ヤマトは神社の裏手にある水道までつれてきて、ハンカチを濡らして、熱を持っている足に当ててくれる。 しみるが、走り通した足には気持ちがいい。 「花火、見れて良かったな」 そういいながら、ヤマトは立って、太一の着崩れた浴衣を直してやる。 「オレはもっとゆっくり見たかった!」 ぶすっと、不機嫌を隠そうともせずに太一は怒鳴る。 「まぁ言うなって。その代わり、太一勝ったんだから何でも言う事聞いてやるから」 な?とヤマトは、まだ機嫌がいい。 それはそうだ。 いくら賭けとは言っても、自分の為に傷を負ってまで探し出してくれたんだから、嬉しい。 「・・・お前のする事は、時々わかんねぇ」 照れもあってか、ぶっきらぼうに言う。 「そう言うなって。・・・まぁたまには、な?」 答えになってない。 そう言おうとしたが、何を言ってもヤマトは答えを誑かしそうだ。 「で。太一の望みはなんだ?」 バンソーコーを張ってやり、額にキスを落とす。 「・・・・・・」 「は?何?」 太一が俯いて言ったので、ヤマトには聞き取れなかった。 「だから!もうこんな事はやめろっつーの!オレたちは織姫でも彦星でもないだろ!?」 ヤマトは呆気に取られている。 太一は顔を赤らめる。 「だって・・・二人は1年に1回しか逢えないんだろ・・・?・・・・・・お、オレはヤマトとは毎日逢いたいから・・・」 ボソボソと後を続ける。 まさか太一からこんなにストレートに言ってもらえるとは思っていなかったので、少しヤマトは感動する。 「・・・わかった。もうしない」 「約束だからな」 「・・・ああ」 ヤマトは微笑みながら、顔を近づけていく。 太一も素直に目を閉じる。 ―――――花火の光と音だけが、それを見ていた。 コメント 七夕なお話しでー(笑) 結構突然思いついた話で、さーっと一気に書いたので、ちょっと(かなり)見難いと思いますが(苦) ちょっと強気なヤマトさんを書いてみたりー(笑) 今年の七夕はかなり微妙な天気でしたね(苦笑) 雨が降らないだけマシと言いますか・・・。 |