たくさんの愛をささげたくて




言葉も何もわからない。
抵抗もすぐにふさがれる。
教団に無理に連れて来られた時、神田はまだ十歳にも満たない子供だった。
わからない言葉を向けられ、監禁同然の部屋から出されていつも待っているのはわからない生物に行われる激痛を伴う『何か』
生きているのが嫌と思わせる教団が地獄に見え、遂には拒食症にもなってしまった神田を救ったのは、他でもないラビだ。
信じることができなくなっている神田の手をとり、ひっぱって光のある方へと連れ出してくれた。

ラビ一人のおかげで世界が変わった。
―――地獄である筈のこの場所が、そう悪い場所ではなくなった。

まるで満たされていくような、そんな暖かい気持ちを、くれた。


「ラビ!かんだ!」
リナリーに後ろから呼ばれて振り返ると、彼女は身の丈にあわない大きな笹を持ってこちらに駆け寄ってきた。
「リナリー」
普通に立って持っていることができない笹を慌ててラビと神田で支えてやると、もう少しでバランスを崩しそうだったリナリーは照れながらお礼を口にする。
「ありがとぉ」
「いいんさよ。・・・にしても、どうしてこんなん持ってるさ?」
ラビの記憶なら、この笹は教団の森にもいくらか植えられているが、リナリーが一人で採りに行けるような場所には生えてはいない。
花束を抱えているならわかるが、どうしてリナリーが笹を持っているのだろう。
「あのねーあしたはねーたなばたさんなんだよ!」
「タナバタ」
聞いたことがない単語にハテナを浮かべていると、珍しく神田がその口を開いた。
「七夕って言うのは、織姫と彦星が一年に一度会える日なんだ」
「それがタナバタ?・・・でもなんでオリヒメとヒコボシは一年に一回しか会えないんさ?」
神田が再び説明しようと口を開いたところで、はいっとリナリーが手を上げる。
「あのね、おりひめさまとひこぼしさまはけっこんしてからずっとあそんでば〜っかりだったんだって。だからね、かみさまがおこってふたりをはなればなれにしちゃったの」
「ふむふむ」
「でもおりひめさまがまいにちまいちにしくしくなくから、かみさまはかわいそうだっておもって、いちねんにいっかいだけあえるようにしてくれたの!」
ねー!とリナリーが神田に同意を求めるので、褒めて!と言わんばかりのリナリーの頭を緩く撫でてやる。
「そうだな。それが明日の七月七日なんだ」
「前にラビが貸してくれた星座の本にもあったけど、天の川ってあるだろ?あれを渡って会うんだってさ。雨の日は、カササギが橋渡しをしてくれるんだ」
「そうなんだ〜・・・知らんかった」
そしてもう一つ驚いたのは、そう言うことに興味なさそうな神田が事細かに知っていることだ。
顔に出したつもりはなかったのだが、妙な沈黙が空いてしまったことで神田にばれ、もごもごと口ごもりながら教えてくれる。
「・・・母上が・・・そう言う話しが好きだったから・・・」
「そ・・・っか・・・」
トーンの落ちてしまった声に、家族のことを思い出させてしまったことを知る。
無理矢理引き離された為に神田はまだ家族に対して寂しさを拭いきれずに、話すたびにこうして泣きそうになるのだ。
気まずい空気が流れていると、小首を傾げながらリナリーが口を開く。
「でね、たなばたにはたんざくにおねがいごとかくの。そうすると、おねがいがかなうんだよー!」
「へ、え・・・そっか」
「うん!いまにいさんたちがじゅんびしてくれてるの!」
タンザク、と言うものがよくわからないが、書くということは紙か何かなのだろう。
「リナリーはささをみんなでとりにいってたの!これからにいさんのところでかざりつけするんだ〜!」
そこでリナリーは、ラビと神田の服を掴む。
「ね、だからかんだとラビもいっしょにてつだって?」
ね?と上目遣いで見られ、その可愛らしさに思わずラビの頬が緩む。
「もちろんいいさよー。なぁユウ」
妹がいたらこんな感じかなーと笑いながら神田を振り返ると、神田は戸惑ったようにリナリーを見つめている。
「・・・ユウ・・・?」
「・・・ぁ・・・いや、オレ・・・は・・・」
歯切れの悪い口調。
良くも悪くも自分の言いたいことをすっぱりと言える神田には珍しく、ラビも戸惑ってしまう。
「ユウ・・・」
不安そうに揺れる瞳に気付いたリナリーもきょとんとしながら神田を見ると、その視線から逃れるようにそっとリナリーの手を服から外した。
「・・・オレは、やらない」
「かんだ・・・?」
「・・・ッ」
神田はきゅっと唇を噛むと、そのまま踵を返して走って去ってしまう。
追いかけることも出来ずラビはその背中を見送っていると、同じのように呆然と見ていたリナリーがくしゃりを顔を歪めた。
「・・・かんだ・・・たなばた・・・きらいなのかな・・・」
「そっ、そんなことないさよ・・・!きっとなんか他に原因があったんさよ・・・きっと・・・!」
慌てて慰めながら、リナリーの手を引いて科学室へと向かう。
だいじょうぶ、だいじょぶさよ、とラビが暫く繰り返していると、リナリーも安心してきたのかようやくほにゃりと笑ってくれた。
・・・このままコムイに会わせれば半死は確実だったので、とりあえずリナリーの機嫌が直ったことにホッとする。
「・・・じゃ、コムイんとこ行って、先に七夕さんの準備しとこうな」
「ラビは手伝ってくれるの?」
「おう!ユウの分だって手伝っちゃうさ!」
本当はこの小さな手を離してでも、あの背中を置いたくてたまらなかった。
―――悲しそうな、黒曜石のような瞳。
きっとあの小さな身体には、まだまだラビに話せないような悲しみや苦しみがつまっている。
背負わされた重圧に負けないように、悲しみに押しつぶされないように、必死にその足で立っているのだ。
(・・・ちっとでも、オレが助けてやれたらいいのに・・・)
すべてを理解することができないなら、せめて。
自分は神田の寄り添える存在になりたい。


「ユウ」
再びラビが神田の元を訪れたのは、もう寝る間際の時間帯だった。
手には枕と短冊が一枚。
「・・・・・・」
「ね、ユウ。一緒に寝ていいさ?」
にこーっと笑うと、神田は少し口を噤んだ後、結局頷いてラビを部屋へと招きいれた。
十歳にも満たない子供。
最近は減ってきたが、入団当初は不安と恐怖で一人では寝れずに毎日のようにラビが添い寝していた。
今も時々、そう言う不安や恐怖に耐えられなくなると、神田は照れながらラビの元を訪れる。
けれどそれは本当に神田が耐え切れない時で、大体はラビがこうして神田の気持ちを察して訪れてやるのだ。
・・・神田がそのことに気付いているのかは、わからないが。
「はい、これ。ユウの分の短冊さ」
差し出されたそれを受け取れず、ちらりとラビの手元に納まっている細長い紙を見て、また視線を逸らす。
「・・・書きたくない・・・」
小さく呟かれた言葉に、ラビはやはりと思いながら机に短冊を置いて神田の手を引く。
俯いて歩き出そうとしなかった神田も、何度かラビにそっと腕を引かれると、ようやく足を動かしてベッドへと向かった。
ラビは何も言わずに自分からベッドに潜り込むと神田が入ってくるのを毛布を捲って待っている。
手はまだ繋がったままで、じわりとラビの暖かい体温が伝わってきて、全身で感じる心地よさを知っている神田は耐え切れずにラビに寄り添った。
「・・・・・・」
首筋に額をこすりつけると、ぎゅう、と強く抱きしめられる。
暖かくて、ラビの気配で包まれるのが心地いい。
ほぅ、と息をはくと、耳に吹き込むようにしてラビが口を開いた。
「・・・ねぇユウ。・・・どうして七夕嫌いなの?」
「・・・嫌い・・・な訳じゃない・・・」
「じゃあどうしてやりたがらないの?」
ぐ、と神田は言葉に詰まる。
「・・・お母さんたちのこと思い出しちゃうから・・・?」
ラビの寝巻きを掴む手に力が篭ると、緊張している背中を優しくラビの手が撫でてくれた。
「・・・オレにも話せない?」
「・・・・・・・・・・・・だって・・・」
夜の沈黙が続いた後、少し拗ねたような口調で神田が口を開いた。
「だって、すげぇ、女々しい」
「?女々しい?何がさ」
「・・・だ、って・・・」
だって、が続く。
普段出来るだけ子供らしさを隠そうとしている神田からそんな言葉が出ると、可愛らしくてたまらない。
「・・・願い、叶わなかったんだ・・・」
「願い」
短冊に願いを書くというのは、リナリーに聞いた。
ラビも考えておくんだよ、とコムイから渡された短冊は、まだ何も書かずに自室へ置いてある。
「・・・日本にいた時も、七夕やってたんだ。・・・母上が、好きで・・・」
「ユウも好きだったんさね」
神田の手が一瞬強張り、それからこくりと頷いた。
「毎年やってた。・・・父上も出来るだけ高いところにつけたほうが良いって抱っこしてくれて―――」
じわりと神田の声が潤む。
幸せな過去を思い出して涙が込み上げてきたのだろう。
ラビは相槌を打ちながら、背中を優しく叩いてやる。
「ッ、でも・・・願い事なんて叶えてくれなかった・・・ッ」
最後はもう嗚咽交じりになっており、服越しに濡れた感触が伝わってきた。
「『ずっと父上と母上と一緒にいたい』って、それだけ、だったの・・・に・・・ッ」
「ユウ・・・」
だから、もう叶わない願いなんてしたくない。
『わかってきた』つもりの神田の悲しみは、ラビが思うよりもずっとずっと広く、深い。
失うものなんてなかったラビには、もしかしたら一生わからないものかもしれない。
「・・・ねぇ、ユウ。もう一度、短冊に願いを書いてみようよ」
ふるふると神田は頭を振る。
「ヤだ・・・絶対もう、叶わない・・・」
「ユウ・・・」
まだ、信じることを恐れている。
目を瞑って耳を塞いで、ただ声もあげずに泣いていた神田を立たせて歩き出させたのは、ラビだった。
ぬかるみから抜け出し、再び信じることが出来るようになったことを、声にしなくても神田は奇跡のように感じている筈だ。
だってラビのことをキラキラと星が宿ったような瞳でラビのことを見るから。
―――けれどその奇跡のようなことがもっと現実に起こることを再び覚えなくてはいけない。
「・・・な、ユウ・・・じゃあ絶対に叶うことを書いてみるさ」
「・・・?」
ラビの言っている意味がわからず、神田はようやく涙でべしょべしょになっている顔を上げた。
顔全体に広がってしまっている涙を袖で拭ってやりながら、ラビはその視線を追いかける。
「絶対に叶うんだろうなってことを書いてみればいいさ。それに一緒に祝えないってこともないよ。だってユウのおとーさんもおかーさんも七夕さん好きなんだろ?きっと、日本で二人とも祈ってるさ。ならユウもここでやれば、一緒に祝ってるも同じだよ!」
「いっしょ、に・・・」
「そうさ!例え一緒にいなくったって、ユウの両親がユウのこと思ってて、ユウがおかーさんたちのこと思ってるのなら一緒に祝ってると同じさ!」
そうかな・・・とまだラビの言葉を飲み込めないでいる。
「オレは、もし任務とかでユウの誕生日祝えなくったっておめでとって想ってるよ。・・・ユウは違う?」
ハッと顔をあげ、神田はまたジワリと涙を浮かべる。
・・・違わない・・・。
小さな、聞き逃してしまいそうな声を聞き、ラビはふっと笑った。


次の日、ラビも短冊に願い事を書いて笹が飾ってある正門前へと赴いた。
リナリーが持ってきたのよりもずっと巨大な笹が何本も飾ってあり、そこには色とりどりの短冊に思い思いの願いが書かれている。
思わず笑い出してしまいそうな願いもあり、眺めながら神田を待つ。
「・・・リナリーが一生僕と一緒にいますように!!コムイ☆・・・・・・リナリーは一生コムイから逃れられそうにないさ・・・」
「・・・ラビ・・・!」
コムイのらしいと言えばらしい願い事を見て苦笑していると、神田が走ってこちらに向かっている。
お互いに願い事を書くために今朝方に一度わかれたのだが、神田の目は赤くなってはおらずにラビは安堵した。
「ごめん、遅くなった・・・!」
「別に良いさ。ここなら当分時間つぶせそうだし」
ラビがぐるりと見た渡すと、神田もつられて部屋を見渡して、改めてみたその有様に、わっ。と驚きの声をもらす。
「ね、ユウ!ユウは何て書いたんさ?」
そこで気になるのが、やはり神田の願い事だ。
聞かない方が良いかな?と思うのだが、やはり神田の願い事を見てみたい。
神田は短冊を持っている手に力をこめると、じわりとその頬を紅くした。
「・・・あんま見せたくない・・・」
「えー!でもオレは見たいさ!あんまってことは、絶対に見せたくない訳じゃないさ?なら見せて〜!」
屁理屈にも聞こえる言葉に、神田はまたムゥと唇を突き出す。
「・・・ラビのも見せてくれるか?」
ポソリと呟かれた言葉に、ラビは一瞬つまる。
(どしよ・・・見られたらボコられるかも・・・・・・だけど・・・)
それよりも神田の書いた願い事を見てみたい。
うーんと考えた後、ま、殴られるくらいならいっか。と、結局承諾した。
「な?だから見せて〜♪」
神田はそれでも渋っていたが、ラビがにこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべていると、遂に折れてその短冊をラビへと見せた。
きっと、両親のことを書いてあるんだろうなと思いつつ、覗き込む。

『ラビの願い事が叶いますように』

「―――――」
「絶対に叶う事って考えたら・・・これしか思い浮かばなかったんだ・・・。ラビの夢はブックマンになることだろ?だから―――」
そこで神田の言葉は途切れた。
いきなりラビが抱きついてきたからだ。
「ラッ、ラビ?!」
突然のことに神田が慌てふためいていると、段々と抱きついているラビの身体が震えてきた。
「・・・・・・?」
もしかして余計なことをしてしまったのだろうか。
「・・・ラ・・・「・・・くっ・・・」」
神田が慌ててラビに謝ろうとすると、耐え切れずにラビは笑い声を漏らし出す。
肩口に聞こえるラビの笑い声にきょとんと戸惑いながら、神田はラビの笑いが収まるのを待つしかない。
「ご、ごめんさ・・・ユウ・・・ッ」
「・・・そんなに俺の願い事は変だったか?」
少し身体を離すと、ラビが明確に笑っているのがわかり、神田は唇を尖らせる。
「その願い・・・ユウ次第で叶うさよ・・・」
はい、と渡されたのは、ラビの短冊。
受け取って裏返して読んでみる。

『ユウがお嫁さんに来てくれますように』

「―――――?!」
ラビの願い事を知った途端、神田は蒸気でも出してしまいそうなくらいに顔を真っ赤にする。
「な、だ・・・、な、んで・・・っ・・・お前はブックマンになるのが夢じゃ・・・!?」
「それはオレが努力しなければいけないことさ。だから、も一個のお願いの、ユウをお嫁さんをすることって書いたんよ」
「――――き、聞いてない!!」
「言ってないけど見せたさ」
すらすらと返され、神田は言葉を失ってしまう。
ラビは相変わらず輝かんばかりの笑顔で、再び神田に抱きついてきた。
「ら、び・・・!」
「オレはいつユウがお嫁さんに来てくれたって大歓迎さ!ね、ユウも俺のとこに来てくれる?」
「・・・・・・」
恥ずかしくて次の言葉が続かない。
「結婚して、ずっと一緒にいるんさ」
けれどその言葉は、とても甘美なものだ。
大好きな大好きなラビとずっと一緒にいられる。
一番近くで、ラビと触れ合える。
大好きで、一番近くにいたいのなら、何が問題あるだろう?
出す答えなんて決まっていて、それでもYesを言うには気恥ずかしい。

答えの代わりのように、神田はすぐ近くにあるラビの唇にキスを贈った。

□■□

以来毎年ラビが決まって書く願い事は『ユウがお嫁さんに来てくれますように』だ。
それを見るたびに神田は怒ってラビを怒鳴りまくるが、それも今では毎年恒例の光景になってしまっている。
とりあえず一発殴り、神田はまだ怒りが治まらずに自室へと歩いていく。
「ったく・・・書くなっつってんのに、ンで毎年書くんだよ・・・!」
「だってホントのことさもん!ユウだってお嫁さんにきてくれるンしょー?!」
「だ・ま・れ!!」
ゴツッと鈍い音を立てて振り返り様に神田が突き出した六幻がラビの額に直撃した。
鞘に入っていたから命はあったものの、痛みは凄まじくその場にうずくまって悶絶する。
「ひ、ひどいさ・・・あん時ユウだってまんざらじゃなかったくせに・・・!」
もしかしたら昔よりも涙もろくなっているかもしれないラビはぐすぐすと鼻をすする。
それが嘘泣きだとわかっていつつも、照れ隠しにしてしまったことに罪悪感をもってしまう。
ふいっと視線をそらせながら、紅く染まってしまっているだろう頬を袖で擦るようにして隠す。
「だ、だいたい・・・こんな誰かいそうなとこでンなことでけぇ声で言うんじゃねぇよ・・・ッ」
「でも嘘は言ってないさ!」
「――――――ッ」
自分は絶対言えない真っ直ぐな言葉に神田は驚いて目を見開く。
ラビは立ち上がると、そのまま神田の手を握り締めた。
「冗談や慰めなんかであんなこと言わんさ。オレは、ユウと結婚したい」
「・・・、ラ・・・」
「もしそれが無理でも、ユウと一緒に暮らしてずっと傍にいたい!」
かぁ、と染まった顔をもう隠せはしない。
神田は握り締められている手に、少しだけ力をくわえた。
「ユウ・・・」
そっとラビは顔を寄せる。
コツリと額を合わされると、伏せていた顔を持ち上げられて視線が交わる。
「織姫と彦星にお願いはするけど、あんなふうになりたい訳じゃないさ。・・・それじゃなくったって会う時間制限されてるのにさ」
それは神田だって一緒だ。
出来ることならば、ここでこうしてずっとラビに寄り添っていたい。
・・・絶対、口には出せないけれど。
「ね、ユウ。オレと一緒になって。・・・・・・それとも、もうオレじゃ相応しくない?」
言いつつ、ちゅっと可愛らしい音を立てて唇を触れ合わせる。
こんなことをするくせに、どうしてそういうことを言えるのか。
ラビが自分に相応しくないなんて思ったことはない。逆に、どうして自分がいいのだろうと何度も考えたことはあるが。
「・・・ン、・・・そんなに俺がいいのかよ・・・」
もう一度キスをされ、ようやく神田は口を開いた。
即座に、ラビは頷く。
「・・・どうしても俺がいいのかよ・・・」
「ユウがいい。ユウじゃなきゃヤだ。・・・じゃなきゃ短冊にユウの名前なんて書かんさ」
「―――ラビ・・・」
「ユウ・・・」
ちゅ、ちゅう、と、唇が触れ合う時間が長くなる。
ラビの口付けを神田は受け入れていたが、決心したように顔を少しだけ後方へと引いた。
ハテナを浮かべながら、ラビは視線をさまよわせて口を閉じては開けてを繰り返している神田の言葉を待つ。
「・・・・・・ラ・・・ビが・・・」
「うん」
「・・・お前が、そこまで言うならしかたねぇ・・・。俺じゃなきゃ、嫌だっつーなら・・・」
「・・・ユウ・・・」
「――― 一緒に、いてやらなくもない」
高飛車な言い方。
普通の人が聞いたのならば、なんて口の聞き方だと怒り出すものもいるかもしれないが、神田からしてみればこれが精一杯の告白だ。
もちろんラビだってそのことをよくわかっており、鳩が豆鉄砲を食らったような表情が、見る見るうちに高揚して笑顔になっていく。
「ユウ〜〜〜〜!!」
「う、わっ」
がばっ!と思い切り抱きつかれ、更に頬を寄せられてすりすりと擦られる。
痛いくらいに抱きつかれながらも、その腕を解けるはずもない。
だって『ここ』は、神田が一番好きな場所だから。
「俺、絶対ユウのこと幸せにするから!!」
先程とはまた違った意味で、ラビの声が涙に濡れる。
顔を見なくても容易に想像ができ、それまで緊張しっぱなしだった神田はそこで始めて表情を崩した。
「馬鹿・・・お前が俺を幸せにするだけじゃ駄目だろうが・・・」
神田もそろそろとラビの背中に腕を回し、服越しにラビの体温を感じる。
大好きな、大好きなラビ。
毎年何回もその願いを捧げてくれた。
(・・・俺も、だけど・・・)
変わっていないのは、神田の願いも一緒だ。

星の上の人への願いは、お互いが叶えてくれた。


これからもたくさん、たくさんの愛を捧げて、貰って。

もっとお互いを好きになる。




お題:【たくさんの愛をささげたくて】


☆END☆


コメント

神田にはふとした時にきゅうぅぅううんっ!!とくるようなセリフを言ってもらいたいです〜(笑)
ラビフェスに参加させて頂き、本当にありがとうございます!