呼ぶ声。

気付いて。
せいいっぱい、キミに想いを伝えているコト。

「レイの声が出ないっ!?」
タカオの大声に、カイは眉をしかめる。
レイは苦笑して、微笑む。
実はレイ、ロシアに来てすぐに風邪を引いてしまったのだ。
もともと風邪をあまり引いたことが無いことが逆に祟ってしまい、症状に気付かずに無理をして、高熱を出してしまったのだ。
「そんな大声出さないで下さいタカオ」
カイの心中をキョウジュが言う。
もっとも、カイが言ったらケンカになることは間違いないが。
「で、どうなノ?キョウジュ」
レイが寝ているベッドにべったりくっついているマックスは、顔だけそちらに向ける。
「はい。どうやら熱で扁桃腺がやられてしまってますね」
「へんとうせんって?」
「喉にある、菌を脳に行かないようにする防波堤です。これが腫れると、声が出にくくなってしまうのです」
「ふ〜ん・・・?」
「タカオほんとにわかってるノ〜?」
「ばっか野郎!オレをバカにすんなよ!!」
マックスが茶化すと、タカオが食いついてくる。
いつものその光景をレイは微笑ましげに見ていたが、それにキレたのはカイだった。
「うるさいっ!!騒いだり暴れるのなら外にしろ!!ここには病人が居るんだぞっ!!」
カイが机を叩いて激怒する。
あまりに唐突なことに、4人は唖然としてしまう。
「な、なんだよ〜っ!そこまで怒らなくったって・・・っ」
「タ〜カオッ!今のは僕たちが悪いネッ!」
カイに喰いかかろうとしたタカオをマックスが止める。
そこでタカオは自分の非に気付き、レイとカイにおとなしく謝った。
レイはふぅっと息をついて、紙に何かを書き出した。
『オレは心配するな。声が出ないだけで後は何ともない。』
そこをタカオたちに見せ、後の文をカイに見せる。
『それから、心配してくれるのは嬉しいけど、さっきのは言いすぎだ。』
レイの顔を見ると、な?と微笑まれた。
顔が見れなくてカイはソッポを向く。
さすがレイ。
キョウジュは余計な火の粉を浴びないように、そっと心の中で呟いた。

とりあえずレイはまだ全快ではないのでまだベッドの中。
タカオとマックスとキョウジュはベイの調整とバトルの練習。
カイはレイの看護になった。
『つまらない。もう熱はさがったのに。』
ブーブーとレイは足をバタバタさせる。
タカオたちには絶対に見せない、甘えたシグサ。
少しだけそれに胸を熱くして、カイはレイを寝かしつける。
「おとなしくしていろ。熱が引いたってまだ喉がやられているのが全快じゃない証だ」
やや乱暴にレイの頭を撫でてやる。
そこで、沈黙が流れる。
レイもカイもおしゃべりではない。
いつもの事だが、レイには何故かその沈黙が重かった。
「・・・飲みもの、買ってくる・・・」
レイが紙に何か書こうとした瞬間、カイはそれを避けるように部屋を出て行った。
パタン。
ドアが閉まる。
カイ・・・?
レイは心の中で呟いたが、カイにはもちろん届かなかった。

ガタン。
ウーロン茶とコーヒーを買い、カイはふたつの缶を販売機の窓から出す。
歩き出して、ため息をつく。
情けない。
レイの異変にも気付けなかった。
あまつさえ、声さえも一時とはいえ失わせてしまった。
「・・・クソ・・・っ」
ここ・・・ロシアに来て他の事に気をとられていて気付けなかった。
そんな自分が情けなくて、カイは壁にその理不尽な怒りをぶつけた。

戻ってきて、再び沈黙が二人を包む。
そんな時、レイが先の行動をする。
『オレ、なんか気に触ること、した?』
はっとレイを見る。
苦笑の奥に悲しみの色を浮かべている。
・・・自己嫌悪で、レイさえも傷つけてしまった。
「なんでもない・・・少し、部屋を出る・・・っ」
居た堪れなくなって、カイはその場を逃げ出そうと丸椅子から立ち上がる。
「か・・・っ!」
ゲホッゲホ・・・・・・ッ。
苦しそうなセキが聞こえて、カイはばっと振り向く。
レイは咄嗟に声を出そうとしてしまい、喉を使ってしまったのだ。
「バカッ!何しているんだ・・・っ」
カイはレイの背をさすってやり、飲みかけのウーロン茶を少し口に含ませてやる。
レイは涙眼になって、カイを上目遣いに見る。
安定したところで、レイは再び紙にペンを走らせる。
『もし、オレがお前を傷つけるようなことを言ってしまったのなら謝る。だから』
一瞬ペンが止まって、また走る。
『避けないで』
さ・け・な・い・で。
レイの口が動く。
発音のしない、無音のその言葉にそれだけの想いが込められているのだろう。
「・・・情け、ない・・・っ」
カイは苦しそうに呟く。
レイが分からないというふうに小首をかしげる。
「自分の事で・・・頭がいっぱいで・・・お前の変化に気付いてやれなかった・・・っ」
情けない。
「しかも、それでお前にまた心配をかけて、傷つけちまった・・・」
ギリっと音がするくらい、手を握り締める。
レイはカイを見つめ、手をそっと握った。
ヒクリと一瞬震えた後、カイの手はおとなしくレイの手に包まれた。
それから、手をゆっくりと開かれる。
無理矢理じゃない、優しい手つきなのに、何故かカイの手はつられて開いてしまう。
それを確認して、レイは手を離す。
それから、ペンを手に取った。
『オレは、お前がこうして看病してくれているだけで感謝してるよ?』
「でも俺は・・・やっぱり自分が許せない・・・」
カイはレイの視線から逃れる。
すると、またカリカリと何か書いている音がする。
『オレは、そうやって自分の気持ちを表してくれることが嬉しい』
ばっとカイはレイの顔を見る。
レイは嬉しそうに微笑んでいた。
『不器用なカイが、そうやって必死になにかを伝えようとしていることが嬉しい』
レイはその文を見せ、カイが読んだことを確認すると、また文字を書いていく。
『風邪はオレの不注意だし、何かに集中してしまうのはしょうがない。
たとえカイがそのことで悩んでしまっていても、カイはそれを他の事で補おうとしてくれる。
オレのことを傷つけたとわかったら、即座に言ってくれた。
オレはそれだけで、すごくすごく嬉しいんだよ?』
わかる?
と、レイがまた口パクで聞く。
カイはなんと答えていいか分からず、無言のままだ。
『カイは必死にオレが好きだって伝えてくれている。
だけどね、カイ。オレの、お前に対する『スキ』は伝わってる?』
傍に居てくれるだけで嬉しいんだ。
カイは意味を理解し、ユックリとレイに抱きつく。
「・・・情けないな・・・」
ホントにね。
呟くよりも囁くよりも小さい、掠れた声でレイは答えた。

キミの声が出るようになったら。
真っ先に自分の名前を言ってほしい。
そしたら。
力いっぱい抱きしめて、たくさん好きだと囁いてやる。

僕の声が出るようになったら。
真っ先に君の名前を言いに行く。
そしたら。
文字よりも確かな声で、何度も好きだと叫んでやる。



☆END☆


コメント

風邪ネタ。
ところでウチのカイさん。
かっこいいとヘタレが紙一重だ。
というかレイに尻に引かれっぱなしv(嬉しそうに言うな)