ふゆそうびの結晶


小さな光を抱えている。
ソレはすっぽりと抱え込めるくらいの、
わずかで
かすかな
いのち の ひかり



白い息を吐きながら、アレンはさくさくと音を立てて新雪の中を歩いていく。
時々振り返っては神田に手を振るが、普段とは随分様変わりしてしまった道を歩くのが面白いらしく、すぐに歩みを再開させてしまう。
アレンはもうそんなふうに三十分も散歩を続けている。
「モヤシ、そろそろ「神田!ね、雪だるま作りませんか?!」」
ぱぁっと輝かんばかりの笑顔でそう言われ、神田は思わずその後に続く言葉を飲み込んでしまう。
そうしてまごついている間にアレンがこちらに戻ってきて、神田の腕を掴んだ。
「おっきいの作りましょ!僕のイノセンスがあれば、頭だって運べますから!」
にこにこと聞こえそうなくらいの笑顔。
「・・・、・・・」
「ね?」
アレンのその顔は、神田が嫌と断るなど微塵も思っていないものだ。
きっとでその頭の中にはもう、二人で仲良く大きな雪だるまを作り、完成して大喜びしている姿が浮かんでいるのだろう。
そして悲しいかな、自分はそのアレンの期待を裏切ることが出来ないのである。


まず核となる部分を丸く作り、転がして雪をつけて大きくしていく。
地味な作業だが、これがなかなかに難しい。
出来るだけ丸くしないと見栄えが悪くなり、また安定しなくなるために大きくなる前に転がすのが困難になっていく。
アレンが転がす雪玉はなかなかに綺麗にまとまっており、ティムキャンピーの雪が楽しいのか、転がしている雪玉にのって玉乗りを楽しんでいる。
にこにことアレンは笑いながら転がし、隣で同じく胴体の部分を作っている神田にひたすら話しかけてくる。
「神田、神田はすっごく雪玉作るのうまいんですね!こういうの、苦手かと思ってました!」
「・・・別に得意なわけじゃねぇ・・・」
「じゃ、実は神田って器用だったんですねっ」
「・・・実は、ってなんだ、実はって」
ひと掬いした雪をぺしりとアレンに投げる。
うわ、つめたっ と言う声が隣から聞こえるが、これは当然の報いだ。
「・・・好きでうまくなったわけじゃねぇよ。・・・ただ、ラビやリナリーが雪が降るたびに作ろうって無理矢理誘うからだ」
当然の報い、と思いつつ、神田は雪を払うために止まったアレンと一緒に雪玉を転がすのをやめ、まだ顔についてしまっている雪を払ってやる。
肌に触れて解けてしまった部分は、団服の中からシャツをひっぱりだして拭ってやる。
きょとんと見ていたアレンも、神田が無言で行った一連の動作を終えてまた雪玉を転がしだすと、更に嬉しそうに笑ってありがとうございます。と言った。
「そういえば、ラビも雪だるま作るのうまかったです」
「あいつは無駄に器用だからな。雪像もうまいぜ。リナリーの像を作ってはコムイに絶賛されてた」
「・・・コムイさん・・・って言うか、ラビ・・・」
あまりに二人らしい行動に、アレンは苦笑を隠せない。
「でも、神田も誘われて素直に行くとは思えないんですけど」
普段、リナリーはともかくラビにはあれほど強い態度をとっているのに。
「・・・お前なにげに失礼なヤツだよな」
「えへへ・・・だって・・・」
だがアレンの言おうとすることもわからないでもないので、神田はそれ以上は追及はしなかった。
「行くって言うまで離れないんだよ、あの二人。絶対嫌だとか言うとリナリーが泣きにはいりやがるし・・・あいつらから逃れる方法があったらぜひ教えてもらいたかったね」
「・・・へぇ・・・そうなんですか」
・・・なんとなく、面白くない。
幼馴染だと言うことは、三人から嫌と言うほど聞かされている。
それは主に、思い出話しからだ。
幼い頃からここにいると言うことはとてもつらいことだと思うし、マナと離れていたいとも思わない。
ただ、自分だけが神田の小さい頃を知らないと言うのが、なんとも言えず悔しい。
「・・・いいなぁ・・・」
思わず、ぽつりと声が漏れてしまう。
そして、静かなこの空間でそのぽつりと呟いた声は、近くに居た神田に聞こえてしまった。
「なにがいいんだよ。・・・・・・ま、そうだな・・・いい、のかもな」
呆れたような声の後に、少しだけ柔らかさがまじる。
「?かんだ・・・?」
「お前がいたら、もっと楽しかったのかもな」
ふ、と少しだけ緩ませた顔で微笑まれ、アレンは顔に熱を集めてしまう。
神田の笑顔はもちろん、その内容が強烈なくらいにアレンにクリーンヒットした。
楽しかった、と言うことは、自分が居たらと思ってくれているのであって。
(う、うれしい・・・)
えへへ、と思わず顔が緩んでしまう。
「なに笑ってんだよ」
それを見て、神田がまたくつりと笑う。
アレンにも滅多に見せない神田の笑顔は、とても貴重なものだ。
その笑顔はアレンの花がほころびるような笑顔とは違い、凛とした空気をたたえたソレだ。
普段から、できるだけ他の人たちにも愛想よく!とは言っているものの、実際こんな笑顔を振りまいて欲しくないと言うのが本音でもある。
なかなかに心中は複雑だ。
「でも、僕の誘いはちゃんと乗ってくれるんですね」
嬉しそうに笑って言えば、神田はバツが悪そうに顔をそらしてしまう。
「かんだ?」
「・・・あれはしかたねぇだろ。お前が一人で行くなんつーから・・・」
元々、アレンは一人で行く気マンマンだった。
時期に限らず神田の部屋で寝ることが多いアレンは、特に冷え込む早朝に神田の腕の中で目を覚ました。
広がるのは、普段の黒さをすっかり覆い隠してしまっている一面の白銀。
慌てて、それでも静かに着替えていたのだが、音に敏感な神田はやはり目を覚ましてしまったのだ。
どうした、と言う神田の少し寝ぼけた声に、外に出てきます。と雪を見せながら答えた。と、すぐに神田もベッドから抜け出してきた。
俺も行く、と一言呟いて。
「でも嬉しいなっ。神田とこうして初雪見られて・・・歩けて」
まるで告白なセリフを、意識していう。
自分もそうなのだが、神田は直接的な言葉を言わないと好意に気付かない。
愛されると言うことに、そして愛すると言うことにどこか苦手を持っているアレンからしてみれば、こうして神田と付き合っていると言う現実がとても不思議でならない。
この想いを押し込める気でいたアレンなので、神田が行動を起こしてくれなかったらこうはなっていなかったから。
だが、なにかしら反応を返してくると思っていたのに、神田はただアレンの方をじぃっと見るばかりだ。
「?神田?」
望んだような応えは返ってこなかったが、その黒曜石の瞳で見られるとドキッとしてしまう。
しばらく神田はアレンを見つめていたが、いや、と言い、また雪玉の方に視線を向ける。
目を離していた隙に随分不細工になってしまったところを治す神田を見て、慌てて自分も雪玉に視線を戻す。
するとやはり楕円形になってしまっており、急いでそこを修正していく。
その頃には、その小さな疑問はすっかり雪に覆われてしまっていた。


完成した頃には、一面は神田とアレンの足跡と、雪玉を転がした跡だらけになっていた。
適当に棒切れをさし、目は雪を掘って石を埋めた。
常緑樹が近くにあったので、そこから葉っぱを失敬して眉毛と口にする。
鼻にも葉をつけたら、ペイッとすぐに神田にはがされてしまった。
あ、とは思ったが、神田がなんだか複雑そうな顔をしていたのでそのまま黙ってることにした。
「できましたっ!」
はぁ、と息を吐き、少し離れてその巨大な雪だるまを見上げる。
コムイをはるかに凌ぐその高さに、さすがに神田もほぅと息を漏らしてしまう。
「うっはー。でっけー」
「あー!いいなぁ二人とも」
そこに、第三者の声が響いた。
振り返ってみれば、ラビとリナリーがこちらに歩いてきている。
「ラビ、リナリー」
おはようございます、とアレンはにっこりと笑って挨拶をするが、神田は嫌な現場を見られたとばかりに眉をしかめて舌打ちをした。
「すっげ・・・軽く除雪できてんな」
「いいな〜・・・誘ってくれればよかったのにぃ」
惜しいことをしたとばかりに、リナリーは可愛らしくその頬を膨らませる。
雪は毎年見ているものの、やはりわくわくしてしまうのだろう。
聞けば、読書でほぼ徹夜なラビをひっぱりだしてきたらしい。
自分の準備もちゃんとしてなかったのか、リナリーの首に巻かれているのはラビのマフラーだ。
「ま、明日もあるさ。今日はとりあえず朝食食おーぜ〜」
普段は犬っころのごとく一緒に走り回るくせに、今は眠さと食欲が勝っているらしく、とっとと踵を返してしまった。
「え〜!私たちも作りましょうよ!アレン君と神田に負けないくらいの、おっきなヤツ!」
きゃんきゃんと食い下がるリナリーの手を引っ張りながら、ラビが再び教団へと戻っていく。
途中雪を掬い取っては何か小さなものを作ってリナリーに渡している。
「おーい、二人ももう帰るだろ〜?ジェリーにコーヒー淹れてもらおうぜ〜」
後ろをついてこないアレンたちに気付くと、ラビが手を振ってこちらを呼んでくる。
「・・・行きます?」
「ああ」
頷くと、アレンはつまらなそうに口を尖らせた。
「なんだ、もっと遊びたいのか」
はい、と呟くと、神田から大きな溜め息が聞こえた。
「・・・それはまた今度にしろ」
「・・・はい・・・」
いかにも、不服だと言う声色に、神田は思わず苦笑してしまう。
「別に雪が今日しかねぇって訳じゃないんだ。冬はこれからなんだし、また作りゃいいだろ?」
「・・・それは・・・そう、なんですけど・・・」
でも、また、がいつになるかはわからない。
もしかしたら今日このまま教団に入ってすぐ任務が待っているかもしれない。
何より、せっかく神田との二人っきりだったのに、と思うと悔しく思ってしまう。
そうしてもじもじとしていると、神田が短く息を吐いてアレンの手に掌を重ねてきた。
「・・・ほら、冷えてるじゃねぇか。こんな薄手の手袋してるだけでいると凍傷になっちまうぞ」
「・・・神田なんて、手袋さえしてないくせに」
「俺はすぐに治るし、鍛えてるからいーんだよ」
ぷぅ、とアレンの頬が膨らむ。
自分だって鍛えている、とは思うが、神田のことを思うと確かに今はもう切り上げた方がいいのかもしれない。
また来るにしても、もう少し防寒対策をしてくるに越したことは無い。
「・・・わかりましたよ・・・」
ちぇ、と呟いて、ようやくアレンが歩き出す。
その頭をくしゃりと撫でてやり、神田が横に続く。
「でも、午後になったらまた来ましょうね!ラビとリナリーも誘って、雪合戦!」
「バカ、あの二人誘ったらまた雪だるま作るのに付き合わされるに決まってる。・・・ラビは知ってるだろうが、リナリーも雪だるまマニアだからな」
それよりも二人で他愛もなく散歩でもしていたい、とは神田の口からは出なかった。
そこまで呟くには、自分はその言葉を意識しすぎてしまっている。
手を繋いだまま神田が歩き出したので、アレンはそれにつられるように歩き出した。
「・・・でも、でもね、神田」
「あ?なんだよ」
きゅ、とアレンは繋いだ手に少しだけ力をこめる。
頬に血が集結し、体温が上がったことが自分でわかった。
「・・・でも、あのね、・・・本当は神田と・・・お散歩がしたいです」
「・・・・・・」
それは、小さな世界で構成されているアレンにとっては、とてつもない告白だった。
神田が自分を嫌っていない・・・否、自分を好いてくれていることは知っている。
それでも、そうやって『好き』で構成されていく中で引き出される『拒否』はアレンにとって何よりも怖いものなのだ。
どきどきと、アレンは神田の反応を伺う。
マナと言うよりどころを亡くした後、そんなアレンを無理矢理より掛からせるように神田が傍に居て、触れてきた。
戸惑いは喜びになり、だがソレは毎日のように不安を与えてくる。
けれどアレンのその不安を熟知している神田は、面倒くさがらずにそれをひとつひとつ、ほのいていく。
そうして、自分をマナよりも大切なところへと位置付けていくのだ。
ピタリと神田の足がとまる。
歩みが止まったことで、必然的にアレンの歩みもとまった。
そして、じぃっと神田が自分の方を見つめてきたのだ。
「・・・?神田・・・?」
その綺麗な顔で、瞳で見られることにも未だ慣れない。
どきどきと、答えをくれないことへの不安を抱えつつ、アレンは次の神田の言葉を待つ。
「―――――もう、雪はいいのか?」
だが、神田の口から出た言葉は意外なものだった。
きょとんとしてしまう。
「・・・え?」
そして、思わず聞きなおしてしまった。
神田はふ、と息を吐き出し、その白い髪についてしまっている白い結晶をそっと払い落とした。
「・・・雪。・・・苦手なんだろ?」
言われ、アレンはハッと気付いた。
「・・・そういえば・・・」
雪と言うものにいい思い出の無いアレンは、知らずにそれを拒否してきた。
寝つきのよろしくないアレンは、深々と雪の降る日は更に眠りが浅くなる。
そこで神田を頼ればまだいいのだが、神田が行動を起こさない限り、アレンは自分からなかなか擦り寄っては来ない。
昨晩神田が一緒に寝たもの、アレンを気遣ってのことだ。
なのに、朝のアレンときたら・・・。
「・・・そうですね、そういえば・・・」
ぼんやりとしたアレンの答えに、がくりと神田は肩を下げてしまう。
自分が心配したのがバカのようだ。
と、アレンがぎゅっと手を両手で握りしめてきた。
「きっとで、雪の日に神田が一緒にいてくれるからですね」
そういい、にこりと笑う。
「もう、寂しくないですから」
「―――――」
神田は塞がっていない方の手で、そっとアレンの頬を撫でる。
さわり心地のよいはずの頬は、寒さと乾燥のせいか少しカサカサしている。
「・・・じゃ、今日からは一人で寝れるな」
「―――ぇえ?!」
思わぬ言葉に、アレンは素っ頓狂な声を上げてしまう。
果てにはぎゅうと握り締めていた手まで離されそうになり、慌ててその手を握り締める。
「いえ、あの・・・そう言うことではなくてですね、神田・・・!」
「なんだよ、寂しくないってことは一人で寝れるってだろ?じゃあ別にいいじゃねぇか」
「だから、いえ・・・そうじゃなくて・・・!」
しどろもどろになりながら慌てて説明をしようとするアレンが、強烈に可愛らしい。
ラビが必要以上にかまってしまう気持ちもわかる(そんなもの、ラビに会う前にわかっていたが)
神田はそのまま、アレンの手を引きながら歩き出す。
後ろでアレンが必死に説明をしようとしている声が聞こえてきて、思わずくつりと笑ってしまう。
そうやって頼ればいい。
自分を、変わらず頼ればいい。
頼ると言うことは、離れないということだから。
神田はくるりと振り返り、嘘だよ。と一言言ってまた歩き出す。
振り返った時に見たアレンは少しだけ涙目になっており、きょとんと神田の言葉を反芻している。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
そしてからかわれたことに気付くと、むくれて神田を追い越した。
その子供っぽい態度に、また神田は口の端を持ち上げてしまう。
「おい」
くつくつと口の中で笑いながら言っても、アレンの機嫌を降下させてしまうだけだ。
わかっていても、笑いが収まらない。
「・・・神田なんか知りませんっ!」
言われ、またくつりと笑ってしまいそうになる。
それを何とか押さえ、神田は普段通りに冷静な態度で振舞う。
「そうか・・・メシ食い終わった後に散歩行こうと思ったんだが・・・一人で行くか」
ポツリと呟くと、面白いようにアレンが反応し、ばっとこちらを振り返った。
その表情は怒りやら悔しさからがごちゃ混ぜになっており、一言で言えば『かわいい』だ。
「・・・お前もくるか?」
そっと誘ってやれば、更にアレンは顔を赤くした。
そして間を空けた後、目を逸らせてそっと呟いた。
「・・・神田がそう言うなら・・・付き合ってあげます・・・」
言い終わると、ふいっとアレンはまた正面を向いて歩き出した。
手は繋いだままだ。
神田もそれに引っ張られるように、歩みを再開する。
「アレン」
滅多に呼ばない名前を呼べば、またアレンが過剰に反応を示し、その肩をヒクリと跳ねさせた。
「今日も一緒に寝るか」

そしてその一言に、悔しそうにへの字に歪めていた顔を、ほにゃりと笑わせるのだった。



光を見つけた。
それは自分がかかえられるほどの―――自分だけがかかえられる、小さな光。
たとえソレが自分で光を放っているとしても、自分は。
離せずにそれを、腕(かいな)の中で輝かせていくのだ。

そう、それは―――――
いのちのひかり



☆END☆


コメント

最初は仔アレン(Roundabout)で考えていたんですが、なんか時系列がおかしくなりそうだったので、急遽普通の神アレで(笑)
神田が鼻にした葉っぱを取り外したのは、日本人特有の鼻の低さをなんとなく気にしたからです(わっかりにくーい!)
ちなみに神アレだと、ラビリナになります(笑)
ホームに居る間は、神田とアレンは一緒に寝てるといいよ!
『ふゆそうび』は『冬薔薇』と書きます。まぁ要するに、冬に咲く薔薇。
ばらよりそうびのほうがいいよね!と言うことで平仮名です☆(・・・)