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Roundabout 12 雷が鳴ると、思い出すことがある。 薄気味悪く昏い空に、時々光が走る。 「・・・チッ」 廊下から先程までその空の下を歩いていた神田は、溜め息をつくように舌打ちをした。 空の様子は任務中からずっと怪しくはあったものの、何とか神田が教団に帰り着くまではもってくれたが、いよいよ大きな声を上げて泣き出しそうだ。 あの、身体の芯にまで響くような音に苛々させられる神田は雷が好きではなく、イノセンスの情報が外れたと言うこともあって不機嫌は二倍増しになっており、そこらへんの壁に神田は拳を思い切りぶつける。 団員からしてみれば幸いなことに、今は深夜。 八つ当たりをしようにもあたりに人気はない。 くそ、と悪態をつき、手に持っている報告書をとっとと出して寝てしまおうと室長室へと急ぐ。 ―――と。 ピカッと空が不気味に光った。 「・・・・・・」 チッともう一度、舌を打つ。 あと数秒後にはあのむかつく轟音が鳴り響くのだ。 苛々を更に大きくしていると、予想していた通り鼓膜を破るような音を立てて雷が落ちた。 「ひあっ」 その時に聞こえた、声。 「・・・・・・」 まさか声が聞こえると思っていなかった神田は、どこか聞き覚えのあるその声の元を辿る。 カツカツと足を鳴らし、大体の目星をつけていた辺りを探す。と。 「・・・モヤシ・・・」 壁と柱の小さな隙間に潜り込むようにして、アレンが縮こまっていた。 普通ならばすぐに聞こえるような音量だったのだが、目と耳ををぎゅうと塞いでしまっているアレンには届いていない。 「・・・・・・」 ふ、と息をはき、膝をついてそっと肩に手を置く。 「・・・おい、モヤシ」 「?!」 指先が肩に触れると、弾かれたようにアレンが顔を上げた。 「・・・か、んだ・・・?」 とろりと蕩けてしまいそうな銀の瞳がようやく神田を映し、少しだけ顔から緊張が抜けた。 と、また空が光る。 「ッ!!」 ドーン!! 「、おい・・・」 轟音が響く前に、大きく震えたアレンはそのまま神田の胸へとタックルするように抱きついた。 突然のアレンの行動に神田も戸惑ってしまう。 ごろごろごろ・・・とまだ空が機嫌悪そうに鳴り喚いているが、今の神田にはまったく気にならない。 それよりも、今、抱きついているものの方がよほど・・・。 「・・・・・・」 神田が抱き返すことも突き放すことも出来ずに呆然としていると、カタカタと震えていたアレンが更にぎゅうっと抱きついてくる。 「・・・・・・・・・」 「―――・・・はっ・・・」 しばらくそうして沈黙が続いていると、先にアレンが現状をようやく思い出したのかピタリと震えを止めて神田から離れた。 と言うか突き飛ばした。 「っの・・・!」 まったく予想していなかったので、思わず二、三歩よろめいてしまう。 そしてイラつきを神田も取り戻してアレンを睨みつけると、アレンも神田を睨んでいた。 「・・・顔真っ赤にして睨んでも恐かねぇんだよ」 「う、うるさいですね!」 暗闇でも隠し切れない顔の赤味を指摘されると、アレンは怒鳴りながらまた染める。 こうなると怒るのもバカらしくなり、そしてそれ以上にアレンの弱みを見つけたことにニヤリと口端を持ち上げた。 「んだお前。雷が恐ぇのかよ」 「うるさいって言ってるじゃないですか!」 くつくつと、明らかにバカにしている笑いを浮かべる神田に弱みを知られたことに、どうしようもムカつく。 不覚だった。 タイミングよく帰ってくる神田も神田だ! だがどれだけアレンが睨んでも、神田は余裕とばかりに薄ら笑いを浮かべるばかりだ。 こうなっては、自分が下に来るのは目に見えている。 「・・・もういいです・・・言いふらしたければそうすればいいじゃないですか!」 ふん!と鼻を鳴らし、踵を返して歩き出そうとしたところで、肘裏をぐいっと引っ張られた。 「な、」 驚いて引っ張った方・・・今しがた背を向けた神田を見るとそのまま更に引かれ、よろめいてまた近付いてしまう。 まだバカにするつもりかとアレンが目尻を上げると、空が妖しく輝いた。 「――――――」 声を出すことも出来ず、アレンは自分から目の前の暖かな身体に抱きついた。 ドーン、と、心臓まで震わせるような音が辺りに鳴り響く。 「・・・・・・ッ」 「・・・」 空が怒鳴るたびに抱きついている身体は痙攣するように震えて、喉の奥から小さな悲鳴が漏れる。 窓から明るい光が漏れた。 「もう一発来るぞ」 神田の言葉に、これ以上震えないようにとアレンは腕に力を篭めるが、実際にその音を聞くと結局無駄な努力に終わってしまう。 「ったく・・・情けねェなぁ・・・」 その身体をやれやれと抱いてやりながらアレンの顔を覗き込むと、涙でぐしゃぐしゃになってしまっている。 アレンの身体にはほとんどもう力が入っておらず、体勢の悪さに神田はそっと腰を下ろした。 「泣くほどのことかよ」 「な、なんとでも・・・言えばいいで、すっ・・・こ、恐いっのは・・・しかたないじゃっ、ないですか!」 ひっく、と嗚咽の合間に漏れる言葉に、もう一度神田は溜め息をつく。 「雷がダメなエクソシスト・・・ねぇ。リナリーだって恐がってたのは十歳までだったぞ」 「どうせ僕は幼いリナリー以下ですよ〜〜〜!!」 でも恐いんだから仕方ないじゃないですかー!!と言うアレンの泣いているのか怒っているのかわからない声に溜め息をつきながら、暗い窓の外を見つめる。 「また光った」 「ッ」 膝の上に乗せたアレンの身体が再び強張る。 離したらパニックで失神してしまうかもしれないアレンを強く抱きしめてやりながら、くつりと笑う。 (むしろ失神した方がラクなのかもな) 雷が嫌いと言うのがまったくわからない訳ではない。 先程リナリーの件を出したが、神田も昔は雷が苦手だったのだ。 空を切り裂く光に、全てを破壊するような慟音。 いつの間にか大丈夫になっていたが、幼い頃はこの音と光に殺されてしまうかと思った。 光が天から地へと走る。 けれどその威力はこの教団へは届きはしない。 「お前、ラビの天判見て平気なのかよ」 「・・・てんばん・・・?」 この様子だと、まだ見たことがないのか。 それならぜひ、天判を見た時の反応を見てやりたいものだ。 恐がるのなら、この腕に抱きしめてやればいい。 「・・・・・・?」 なぜ、自分が、アレンを、抱きしめる、と? (・・・なに考えてんだ、俺は・・・) もっとも自分が嫌うタイプであり、実際に嫌いであるのに。 どうしてわざわざ抱かなくてはいけないのだ。 楽しんでいたこの状況を第三者のように実感してしまうと、自分に対する呆れと照れが込み上げてくる。 いい加減この白い生き物を引き離そうと、背中に回している手から力を抜こうとすると、また空が光った。 「ひ・・・ッ」 短い悲鳴と共に、アレンが首筋に顔を押し付けてきた。 頬のすべらかな感触が、首にあたる。 残念なことに、それがとても気持ちがよい。 涙のぬくもり、すら。 「・・・・・・・・・」 は、と神田は短く息を吐き出す。 何だというのだ、これは。 (まったく・・・!) 「う、あ・・・っ」 ぐすぐすと鼻を啜っていると、突然揺れた身体に驚いて舌を噛んでしまう。 なんだと思い顔を上げれば、今度は下半身がぐるりと回転し、膝裏に堅い感触。 「な、なに・・・なになになに!」 「うっせぇな・・・耳元ででけぇ声出すんじゃねぇよ」 「って言うか、何してるんですかー!」 すぐ近くに神田の綺麗な顔があり、先程とは違う意味でアレンは頬を染める。 「てめぇがベタベタ引っ付いてるからだろうが。一日中俺にこうしてろっつーのかテメェは」 「!」 言われ、先程からぎゅうぎゅう神田に抱きついていることを思い出す。 思い出せば思い出すほど恥ずかしくて、首まで赤くしながらアレンはじたばたと足を動かして降りようとする。 「ちょ、てめ・・・っ」 「ご迷惑をおかけして申し訳ございません!今降りますのでー・・・ぎゃー!!」 どぉ・・・ん!! もう少しで神田から離れられる、と言う時に、またしても雷が邪魔をする。 再び、神田に強く抱きついた。 「・・・降りんのか?」 ニヤリと神田が笑ったのが、口調でわかる。 サイアクだ。 それでも恐さが先立ち、アレンはぎゅうと神田の首に腕を回した。 「おら」 「った・・・!」 ぼすんと神田はアレンをベッドの上に落とした。 柔らかなマットがしっかりとアレンを受け止めてくれたが、突然のことに息が詰まる。 何するんですか!とアレンが喰いかかろうと視線を上げると、そこが自分の部屋とまるで違うことを知った。 「・・・ここ・・・」 「俺の部屋だ」 団服を乱暴に脱いで椅子にかけ、ベッドに腰掛けてブーツを脱ぐ。 「てめぇも脱げよ」 「あ、はい」 慌ててアレンもベッドの上から足を退け、ブーツを脱いでいく。 「コートもな」 「はい・・・って・・・?!」 ボタンを外し終えたところで、この会話がどこかおかしいことに気付く。遅い。 神田を再び見上げようとすると、それよりも先に神田がフードを掴んでアレンから団服を脱がせた。 「う、わっ!」 反動でまたベッドにひっくり返ってしまう。 目の端に、神田が先程と同じ様に乱暴に団服を放るのが見えた。 「ったく・・・風呂にもはいれねぇ・・・」 ブツブツ言いながらシャツとズボンを脱ぎ、すぐに浴衣を羽織る。 「え・・・え・・・?」 「おら、詰めろ。俺が寝れねぇだろうが」 「は、い・・・って、だから違・・・ッ「お前が」」 神田に遮られ、思わずアレンは口を閉じてしまう。 「お前が俺に迷惑かけずに部屋まで戻れるってーなら、止めはしねぇが?」 「・・・ぅ・・・」 空はまだごろごろと機嫌が悪そうだ。 さっきも、一人で部屋にいることに耐え切れずにコムイたちが働いているであろう科学班のところへ行く途中だった。 が、あの様だ。 「・・・・・・」 視線をきょろきょろ彷徨わせ、何事か言おうと口が開いては閉じ、開いては綴じを繰り返したが、結局アレンは恐さに負けて身体を横たえた。 ただし、神田に背を向けて。 「・・・ここにいさせてください・・・」 ようやく認めたアレンに神田は息を吐き出し、肩肘を突いて横になった。 しばらく、沈黙が落ちる。 アレンにとっては居心地の悪い沈黙は、そう長くは続かずに、空が不機嫌を露にした。 どおぉぉぉ・・・んっ!! 「ひ、ぎゃ・・・!」 慌てて身体の向きを変えると、すぐ目の前にある神田に抱きついた。 先程と違うのは、それを、ちゃんと、神田と認識して。 (な、なんか悔しい・・・!) 普段から鼻で笑われているだけに、今回のことも随分呆れただろう。 「・・・なんでそんなに恐ぇんだか・・・」 呆れた声。 けれど、再び背中に回された腕。 「――――――」 ぎゅ、と、苦しくない程度に。 それでも、しっかりと。 「・・・・・・」 バカみたいに、悔しいくらいに、心地いい。 空がまた光り、身体が強張ってしまうが、近くに体温があるだけで大分違う。 躊躇いながら、背中に回された手が髪を触ってくる。 最初は遠慮するように毛先だけ触り、アレンが何も言えずにいると、その手は大胆になってついには包むようにして手全体で撫でてくる。 地肌に感じるその手は随分暖かい。 (もっと、冷たいと思ってた・・・) 意外だ。 そして、その手を嫌がらない自分も、意外だ。 (・・・優しいんだなぁ・・・) 思いもしなかった。 態度も、手も、体温も。 彼はきっと一人で全てこなしてしまい、自分からは人を寄せ付けないと思っていたから。 自分自身、雷が恐いからと言ってこんなに近付いてしまうなんて。 「・・・・・・」 手が暖かい。 密着している身体から伝わってくる、体温も。 すぅ、と息を吸うと、土と埃とオイルと、それから血の匂いがした。 不快ではない。 それ自身、神田のモノだと受け入れられる。 (不思議だ・・・) 決して寝れないはずの雷雨なのに、瞼がどうしようもなく重くなってくる。 「明日は、晴れるみたいだぞ」 そうだと嬉しいです。 ちゃんと答えられたかは、わからなかった。 □■□ 付き合う前の出来事だ。 あれから不思議とアレンは雷雨の日だけは素直に自分の元へと尋ねてきて、自身も抵抗もなく部屋へ招きいれ、一緒に眠った。 今思えば、あの時間はとても不可思議なもので、愛とも恋とも言えないものだった。 けれど二人の距離が短くなった発端でもある。 「・・・・・・」 じぃ、と見ている神田の視線に気付かずに、アレンは椅子の背凭れに腕を乗せて窓を見ている。 空が光った。 「わ」 続いて、轟音。 だがアレンは恐がることなく、光りと音にきゃっきゃっと喜んでいる。 「すごい!すごい大きかったですね!」 「・・・ああ・・・そうだな・・・」 ・・・雷が恐いのではなかっただろうか。 いつも背筋をシャンと伸ばしているアレンが、あの時ばかりは恥もなく泣いてきた。 なのに今のアレンは、幼くなってしまったアレンは、恐がるどころか楽しんでいるではないか。 「・・・お前、雷恐くないのか?」 「いえ、全然!」 むしろ大好きです!と、無邪気な笑顔で返されてしまう。 そうか。とそっけなく神田が返すが、アレンは気付かずにまた窓へと視線を戻す。 ・・・なんだか、寂しい。 きっとこのアレンも雷が大嫌いで、子供な分、ぎゃぴぎゃぴと泣き喚いて抱きついてくると思ったのに。 とんだ予定違いだ。 「・・・・・・」 しかもいつもならアレンから神田にかまってかまってと視線を寄越してくるのに、それもない。 なんだかとてもカチンと来た神田は、ベッドから移動すると椅子に腰掛けているアレンの脇に手を入れてその身体を持ち上げた。 「わ・・・?!」 すぐに下ろされたが、木の感触ではなく、暖かい弾力のあるものの上だった。 「?」 くるりと後ろを振り返れば、すぐに神田の顔。 と言うことは、腰を降ろしているのは神田の足か。 「神田も、雷好きなんですか?」 「・・・まぁ、な」 お前が恐がるから好きなんだ、とはさすがに言えず、適当に言葉を濁す。 「雷って、綺麗ですよねー!」 「・・・ああ・・・そうだな・・・」 空が鳴る。 アレンの視線が、また神田から空へと戻ってしまった。 まったく、つまらない。 神田はアレンの身体をぎゅうと抱きしめ、その小さく薄い肩に顎を乗せて横顔を伺い見るが、アレンはまったく気付きはしない。 ただ雷を見てはきゃっきゃっとはしゃぎ、きれー!と独り言を漏らしている。 飽きないものかとそのまま神田も粘ってみたが、結局根負けしてしまい、息を吐くと先程と同じ様にアレンの脇に手を当てると、小さな身体を持ち上げて椅子から立ち上がった。 「かんだ?」 持ち上げられた身体と、今まで感じていたぬくもりが遠ざかってしまったことに気付いたアレンは、放れて行ってしまう神田に小首を傾げる。 「・・・眠くなった。お前も、適当に切り上げて寝ろよ」 「あ、はい!おやすみなさい!」 またしても神田が期待していた答えは返ってこなかった。 にこぉとアレンは笑いかけると、びたぁと窓に張り付く。 「・・・・・・」 くそ。 雷なんて、早くやんでしまえばいいのに。 射殺すくらいに鋭い視線を空に向けると、神田はくるりと壁を向いて瞼を下ろした。 あの後、結局遅くまで雷を見てしまっていて、椅子に座ったまま眠ってしまった。 なのに朝目を覚ましたらベッドでしっかりと神田に抱きついて寝ていたので、またしても迷惑をかけてしまったのだろう。 申し訳なく思いつつも、口で何と言っても結局甘いようにも思う神田の優しさが嬉しい。 ふふふ、と笑っていると、やはりもう起きていたのだろう、神田が額にキスを落とした。 「おっはよーさー」 「ラビ!おはようございますー!」 食堂でリスのように朝食を摂っていると、眠そうな顔でラビが声をかけてきた。 「昨日はすんごい雷だったさなー・・・おかげで眠れんかったさ〜」 いいとも言っていないのにラビはとっととアレンの隣に腰を下ろし、眠そうにあくびを繰り返している。 その様子を見て、スクランブルエッグを食べていたアレンはきょとんと目を丸くし、小首を傾げた。 「ラビは、雷恐いんですか?」 「いや別に恐かねぇけど・・・音とかすんげぇじゃん?寝れねえってーなかなか」 「そうなんですかー・・・」 雷を楽しんで、あまつそのまま寝てしまったアレンにはなかなかわからない。 「アレンは雷苦手っしょ?昨日、泣き喚いたりしなかったんかー?」 にやにやといやらしい笑みを浮かべて聞いてくるラビに、へ、とアレンは気が抜けた声を漏らす。 「・・・あれ?アレン、苦手じゃないさ?」 「はい・・・僕、雷大好きですよ?」 どうしてですか?と再び小首を傾げるアレンと、その向こう側の神田の睨みにラビは内心ヒヤリとする。 シマッタ。 元のアレンが雷が苦手だったので、てっきり子供のアレンも苦手だと思ったら、そうではないようだ。 てめぇでなんとかしやがれこのバカ兎。 神田の視線がそう言っている。 どうしよう、と言う動揺を内にかくし、ラビは無理にアレンに笑いかける。 「だって、アレンてばすごい恐がりさんさ!だからきっと雷も恐いと思ったんよー」 何とか知恵を搾り出した言い訳をアレンは気に入らなかったようだ。 むぅと眉を寄せ、違います!と頬を膨らませる。 「僕、恐がりじゃないですもん!雷だって、全然ですよ!」 「そっかぁそっかぁーそりゃ悪いこと言ったさー」 アレンの好感度が下がってしまったが、とりあえずこの場を何とかすごすことが出来てよかった。 つんと向こうを向いてしまったアレンのつやつやの髪をそっと撫で、ごめんなーともう一度謝る。 「お詫びに、後でいいもん見せてやるからさ。それで機嫌直してくれってー。な?」 いいもん、に現金なアレンがピクリと反応する。 「・・・いいもの?」 「おう、いいもん!な?だから許してーアレン。この通り!」 世界を救うエクソシストが、子供に頭を下げている。 教団員たちは複雑に思いながらも、その様子を遠巻きに眺めて苦笑する。 「・・・いいもん、だったら許してあげます」 警戒しながらも、その頬は期待に高揚している。 アレン以上に感情を隠しきれていない今のアレンを、素直にかわいいと思ってしまう。 「いっで!!」 などと思っていたら、アレンの後頭部を通って神田の拳が飛んできた。 「?」 ラビの声にアレンが振り返ると、さっと神田はその手を引っ込めた。 「・・・?ラビ・・・?」 頬を押さえて痛そうにしているラビに躊躇いながらも声をかけようとすると、ラビはそれを遮って無理に笑った。 「だ、だいじょぶさー!ちっと顔打っちまっただけさ☆」 「・・・そうですか?気をつけてくださいね?」 一転、心配そうに小さな手で赤くなっている頬を静かに優しく撫でてくれる。 ただソレを見ていれば、かわいらしい光景なのだが、ラビからは神田の表情が丸見えだ。 その表情が、一瞬でも早く は な れ や が れ と言っている。 アレンの心遣いは嬉しいが、このままでは神田に殺されてしまう。 ひぃ、とラビは背筋をぞくぞくとさせ、やんわりとアレンの手を自分の頬から外した。 「いいもの、ってここで見れるんですか?」 日が暮れた、教団の中庭。 神田はコムイに呼ばれた為に同席はしておらず、ラビとアレンの二人きりだ。 きょろきょろしているアレンにニコーと笑いかけ、ラビは鎚をホルダーから取り出した。 「そそ。いーもん見してやるさー!!」 「??」 ラビの後を追って歩いていこうとすると、そのまま待て、と言われる。 「危ないから、そっから近付いちゃ駄目さよ?」 何をするのだろう。 とりあえずアレンは、はい。と頷いて、そこに立ち止まった。 ラビはもう少しアレンから離れると、鎚をぽいと投げて身の丈大にし、再びその手に握り締める。 「・・・イノセンス・第二解放――――」 ふわりと碧色の光がラビの周りを囲み、いくつもの文字が浮かび上がる。 「ふあ・・・」 初めての光景に、アレンは目を丸くした。 「雷霆回天・・・天判!」 ぐお、と風を巻き込み、思い切り鎚を地面へと叩きつけると、そこから蒼い稲光が幾筋も走った。 「――――ッ」 バリバリバリ、と音と風がアレンの髪を巻き込み、ふわりと静電気で浮いてしまう。 「、 、 、」 どぉお・・・んッッ! 最後に轟音をたてて雷は収まった。 ふー、とラビはつめていた息を吐くと、くるりとアレンを振り返る。 「よーアレン。どうだっ・・・!!」 それまで浮かべていた笑顔が、一気に固まった。 ついでに、さぁっと血の気も引く。 「あ、あ、アレ「ふびゃ―――――――――!!!!」」 廻りも気にせず、アレンは大声で泣き喚きだした。 鎚を小さくし、慌てて傍まで駆け寄るが、アレンの声は少しも小さくならない。 「アレーン?どどど、どうしちゃったんさー!!」 「びゃー!!うあ――――んッッッ!」 ラビが頭を撫でようとしても手を叩かれ、慰めることもできない。 「ままままずいさ・・・こんなとこをユウに見られたりなんかしたら・・・」 「・・・アレン・・・?!」 ぎゃ――――――――! 今度はラビが内心で叫び声を上げた。 ちょうど、本当にタイミングよく(ラビからしてみれば執行猶予すらない!)用が終わったらしく、急いで駆けつけ今まで見たこともないような声を上げてぎゃんぎゃんびゃんびゃん泣き喚いているアレンをひょいと抱え上げると、その頭をそっと撫でてやる。 (・・・オレの手は避けたくせに・・・) 「おいクソ兎」 ちょっとおもしろくないなーなんて考えていると、すぐに冷たい視線が寄越された。 アレンには絶対に向けられない視線ではあるが、こんなの嬉しくも何ともない。 「アレンに、何しやがった」 「え、ええー・・・と」 スラリと六幻の黒い刀身が現れる。 「三秒以内に答えなければ錆びにする」 神田は冗談は絶対に言わない! 「て、天判を見せたんさー!!」 その刃が煌く前にラビは頭を抱えて答えた。 「・・・天判を?」 何故、と六幻を構えて視線で訴えてくる。 「アレンが雷好きだーって言うから、もっと間近で見せてやろうと思ったんさよー!!したら・・・こんなふうに・・・!」 「アホかお前は」 ゴッと鈍い音を立てて、柄の先をラビの脳天に落とした。 殺されはしなかった。が、痛すぎる! 悶絶しているラビをよそに、神田は六幻を鞘に戻すと、再びアレンをあやしだす。 神田に抱っこされてそれでも安心したのか、鼓膜を破くような声はなんとか治まったもののまだ嗚咽をもらしている。 「どうしたんだよ、お前・・・雷、好きじゃねぇか」 「だ、だ・・・て・・・!」 あんなに間近に見たのは初めてだ。 いつもは窓の向こうの安全な下で、遠くから眺めていただけ。 しかも超至近距離で見た雷はとてつもない音と迫力で、呼吸すら出来なくなった。 「か、雷こわい・・・きらいですー・・・」 ふびゃ〜〜〜〜ん!と再び神田の肩口に顔を擦り付けて泣き出す。 「・・・わかった。もう大丈夫だ」 しゃっくりを上げて揺れる背中を撫でてやりながら、神田はラビの後頭部にもう一度かかとを落とす。 「ふぎゅッ」 「次にアレンを泣かしたら地獄を見ると思え」 蛙がつぶれたような声を出し、再び地面とキスすることになったラビをもう一度見下ろすと、興味をなくしたように踵を返した。 ・・・泣きたい・・・。 ぐすぐすとラビはその体勢のまま泣き出した。 部屋まで戻ってくると、アレンは大分落ち着いたようだ。 ベッドに腰を下ろし、膝にアレンを乗せ向かい合わせて座らせ、涙を拭ってやる。 あまりに酷い顔。 アレンが泣く姿は、大きい時も小さい時もよく見たが、あそこまで赤子のように泣くのは初めて見た。 よほど恐かったのだろ。 (・・・もっとシメときゃよかったか・・・) 「か、かみなり、が・・・あんな、に・・・こわいなんて・・・ッし、らなかった・・・!」 ひっく、ひっぐと嗚咽を堪えながら言うが、涙を零しては意味がない。 「・・・・・・」 かんだぁ〜〜〜と、再び抱きついてくるアレン。 その背を抱いてやりながら、ふと昨夜の自分の考えを思い出す。 「・・・・・・・・・」 腕の中には、雷を恐がって抱きついてくる、アレン。 ただ無心に求められる。 (・・・ま、今回は許してやるか) あっさりとラビをボコにすることをやめると、アレンの小さな身体をぎゅうと抱きしめた。 「大丈夫だ。これからは、俺が傍にいてやるから」 泣いて自分にすがるアレンは、笑っている時のアレンと同じくらいに可愛いのだ。 アレンと反比例するように、神田は雷を好きになっていく。 コメント 神田がどんどんアホの子に!(いつものこと いつものこと(二回目)) ちなみに私も雷大好き人間です。 あの音と光がたまらない! ・・・夜寝てるときに鳴ると、イラァッとしますがね☆ アレンはぜひ雷だいっきらい派で! しかしラビュと神アレでラビの扱いが違うような・・・そうでないような・・・(笑) |