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ひとつだけの定義 ひとつだけ。 たったひとつだけと言われたら、自分は。 彼の何が欲しいと言えるだろう。 今回一人だけの任務に赴いた神田は、急ぎ足で教団へと向かっていた。 任務は成功。 元々そんなに難易度も高くなく、神田の実力があればすぐに片付くものだった。 実際にその通りだったのだが、例によってアレンがついてくると聞かなかったのだ。 だが、公私を混同したくない神田は、ダメだと拒んだ。 それでもアレンは神田を離さなかったので、寝ている間に出てきたと言う訳である。 もちろんそんなことをすれば、帰った時の機嫌取りが大変であるが、仕方が無いのだからしょうがない。 そんな神田の手の中にあるのは、アレンへの土産。 任務自体はすぐに終わったのだが、何せ他国に渡るにせよ交通機関が限られている。 となれば、それだけ時間がかかってしまうのだ。 今回のことにしてみても、任務と行き帰りの移動距離だと移動している方が余程時間がかかってしまっているのだ。 そんなこんなで、神田がアレンに黙って教団を出てから二日目が終わろうとしている。 怒るだけならいいのだが、アレンの場合はまず泣く。 神田ーとこちらの姿を見つけて叫ぶなり、その大きい瞳にじわりと涙を溜め、抱きついてくるのだ。 心配とか怒りとかはわかるのだが、やはり好意を持っている相手に泣かれるのは困るものである。 手の中にある土産は、そんなアレンの意識を何とか逸らせたらと言う苦し紛れのものだった。 「・・・ちっ」 と、そんなことを考えてしまっている自分に自身が照れてしまって、誰も聞いていないと言うのに思わず舌打ちをしてごまかしてしまう。 照れて更に速度を上げると、とんっと軽い衝撃が加わった。 何だと思い下を向くと、尻餅をついてしまっている少女がきょとんと神田を見上げていた。 余所見をしていた自分と少女。 要するに衝突したのだ。 「おい、大丈夫か?」 まだ事態を把握しきれていない少女の身体を起こしてやると、ようやく少女はスカートについてしまった砂を払うと、神田に向かって笑いかけた。 「ありがと〜おにいちゃんっ」 無邪気な笑顔を振り撒き、ばいばいと手を振って少女はまた走り去ってしまう。 また転ぶぞ、心の中で思いつつ、やはり思い浮かべるのはアレンのこと。 無邪気な笑顔。 まだ疑うと言うことを知らない、純粋な笑顔。 普段アレンが見せるそれとは、まったく異なった、ソレ。 生活の為か、保守の為か、アレンはよく『造った』笑みを見せる。 それは神田にも例外ではなく。 ・・・以前、アレンがただ一枚だけ持っていた、養父と写っている写真を見せてもらったことがある。 そこに写っていたのは、マナに向かって安心しきった笑みを向ける、アレンの姿。 マナにだけ向けられる笑顔。 大好き、と言う言葉が、その写真を見て判った。 「・・・くそッ」 またマナに嫉妬している自分に気付き、神田の機嫌は急降下していく。 好きなのだから。 全てが欲しいと思うのは、当然だと思う。 想いが手に入ったのなら、心を。 心が手に入ったのなら、身体さえ。 ヒトとは頓に貪欲で。 欲し枯渇し、たまらなくなる。 いつも飢えて乾いて、欲しくて欲しくてたまらなくなるのだ。 それはもちろん、神田とて例外ではない。 クールに見える神田だが、執着心は人よりも数倍ある。 特にアレンは人当たりもよいので、教団内でもアイドルと言うよりはマスコット的な存在で、すれ違えば挨拶をし、返すし、神田と違い会話も得意だ。 その姿を見るたびにアレンと、その周りの人間に嫉妬し、そしてそんなことばかり考えてる自分に自己嫌悪する。 まったく、最初アレンをあれほど突き放していた自分はどこへ行ったのやらと、呆れもする。 けれど仕方ないのだ。 アレンに惹かれてしまったのだから。 そんな取り止めの無い考えをしつつ、地価水路を通り教団へと入る。 今回はずっとファインダーと一緒だったので、コムイへの報告は同行したファインダーがすることになった(神田とコムイが顔を合わせると、科学班の効率が落ちてしまい、嘆くものが多数居るので) 神田は彼に任せると、アレンを探しにまず部屋へと向かった。 だがアレンの部屋ではなく、神田の部屋に。 度々神田のところにやってきては眠れないと泣き言を漏らすアレンが、こうした形で神田が任務に出向いた時は、大概神田の部屋で寝ている。 そこに居ないとなると、後は鍛錬場か食堂か。 行動パターンはわかりやすいアレンだが、妙な好奇心があり、すぐに迷子になる。 なので、特定がしやすいようでし難い。 自室に辿り着いた神田は、ひとつ息を吐いて、ノブに手をかけた。 そこにはベッドに寝転がり、枕を抱いて外を見ているアレンの姿がある。 居た。 神田が歩き出すと、物音に気付いたアレンがコチラに気付いた。 一度その大きな瞳がまたさらに大きく開き、それからくしゃりと歪んだ。 「か・・・ッ」 急いでアレンはマクラを手離し、駆けて来る。 「かんだーっ!」 予想通り、アレンは泣きながらしがみ付いてきた。 しばらく神田の団服に顔を埋めて泣いていたアレンだが、それが納まってくると、次に愚痴を漏らし始めた。 「酷いです神田。僕を置いていくなんて。しかも寝てる時に。 どれだけ僕がショックだったかわかりますか?すっごくすっごく寂しかったんですから。 一緒に行きたかったのに。酷いです、神田・・・」 永遠と続くアレンの愚痴に、神田は、うん、ああ、悪かったと傍から見ればまるで気の抜けた返事を返している。 が、神田の暴君ぶりをよく知っている教団関係者からしてみれば、神田が文句の一つも言わずにアレンを慰めているその景色こそ奇跡以外の何でもないのだ。 「・・・神田はそんなに僕と任務に行くの嫌ですか?」 幾度となく繰り返されるその質問。 アレンは何度言ったら納得してくれるのだろう。と、思わず思ってしまう。 「・・・だから言ってんだろうが。てめぇとの任務が嫌なんじゃなくて、お前の戦い方が嫌ぇだって」 やはりいつもと同じ事を返され、アレンはグチグチと口の中で呟く。 「・・・・・・悪かったって・・・」 まだ言い足りなさそうなアレンを、神田は片手で抱き寄せる。 むずがるようにアレンは身を捩じらせたが、ちょうどいい場所を見つけると、自分からも神田に手を伸ばした。 「僕は、神田と一緒にいたいんです」 「一緒にいたくて怪我なんてしなくていい」 「怪我してでも一緒にいたいんです!!」 「――――――モヤシ」 アレンのその言葉に、神田は思わず溜め息をもらしてしまう。 想ってもらうのは嬉しい。自分とて、同じ想いを抱いているのだから。 「考えろ、逆の立場だったら。 お前は俺が、お前と一緒にいたいからって任務に行って傷付いて・・・嬉しいか?」 「―――――――――」 アレンが黙る。 と、間を開けてきたのは再び嗚咽だった。 矛盾した事を言っているとは、アレンとて気付いている。 けれど、それほどに傍に居たのだ。 特に、アレンや神田には命の保障なんてどこにもない。 居れる時に、最大限に触れ合いたいのだ。 だが、こう言う時はいつも神田が譲歩する。 神田から折れるという事も、アレンと付き合うようなる以前にしてみれば信じられないことだ。 「・・・もうお前が寝ている時に置いて言ったりしない。・・・だからお前も、少し聞き分けろ」 頼むから、と神田が言えば、アレンはようやく神田から身を離し、まだ鼻をすんっと啜りながら、小さな声で「はい」と呟いた。 とりあえずは、と神田はホッとする。 そして、もう片方のアレンを抱いていない方の手に土産を持って居ることを思い出した。 「おい」 呼んで、アレンに手を出せと言う。 アレンはキョトンと首を傾げたが、結局言われるまま両方の掌を出した。 「土産だ」 そしてその掌に、すっぽりと覆ってしまえるくらいの薄い箱を乗せた。 またアレンは、その箱を見てきょとんとしている。 「・・・これ・・・」 「ンだよ」 あまりにアレンの反応が薄いので、神田は内心で気に入らなかったのかとヒヤヒヤする。 何せ、アレンにこうして土産を持っていくのは初めてだから。 「僕に、ですか・・・?」 「他に誰が居るんだよ・・・」 と、そこから劇的なコトが起こった。 呆けたような表情だったアレンの顔に赤味がかかり、手の上に乗せられたままだった箱をギュッと握りしめる。 先程の名残りか、感動かはわからないが潤んだ瞳で、効果音が付きそうなくらいにパァッと表情を明るめた。 そしてその双眸を細め、無邪気に笑んだ。 「ありがとうございますっ!神田っ」 「―――――――」 思わず息を呑んだ。 その、笑顔は。 写真で見た、ソレと似ていて。 まず驚いた。 自分には向けられない、マナへの笑顔だと思っていたから。 それでも、まったくマナへのモノへと同じと言う訳ではなく、そこには『艶』のようなものが含まれている もちろんアレンは無意識なのだろうが、それは養父・・・家族と恋人と立つ位置の差からなのだろう。 要するに。 この、笑顔は。 アレンの言葉よりも何よりも、神田への好意を示すもので・・・。 「・・・?神田・・・?」 と、何も反応を返してこない神田に、アレンは心配になってその瞳を覗きこむ。 そこからの神田の行動は早かった。 アレンの手が塞がっているのをいいことに、腰に手を回し引き寄せ、もう片方の手でアレンの顎を固定して唇を重ねた。 突然の神田の行動に目も瞑れなかったアレンは、驚きに瞳を揺らしてから、その瞼を閉じていった。 決して深くはなく、けれど貪るように。 額をこつりと合わせると、先程とは違う淡い笑みで、アレンはまた微笑んだ。 「――――――おかえりなさい、神田」 そう言えばまだ言っていなかったと思いつつ、どことなく抜けているアレンに思わず苦笑が漏れる。 「―――――ああ、ただいま。・・・・・・アレン」 想いも、身体も、心さえ。 全てが全て愛おしくて、全てを自分のものにしてしまいたい。 けれど確固たるものは、それでは手に入らない。 一つだけ。 どうしても決められない一つだけと言うのなら。 キミの笑顔を、選んでいくよ。 コメント まぁ要するにいちゃついている二人と言うことです(・・・) (うちの)神アレはこんな感じです。 神田はいくらアレンの事が好きでも、その戦い方だーけーがー嫌いなのでゴザイマス。 まぁアレンだから、嫌いと言う見方もありますがね(笑) |