まわるまわる奇跡のとちゅう 4


きゅうと小さい手が、自分の指を握り締める。
それは絶対に手離したくない、幼くも大きな存在。

「おまつり?」
その言葉に、ぱぁっとアレンは顔を明るくさせた。
(無理矢理)アレンを膝に乗せ、ご満悦気味にクロスは頷いた。
「ああ。今日は祭りだ。知らなかったのか」
はい。とアレンは頷いた。
「神田も知らなかったのか」
「・・・はい」
アレンを取られやや不満気味な神田も本当に知らず、頷いた。
「そうか。ではそんなお前らに俺からプレゼントをくれてやろう」
そう言い、神田には薄い箱を放り投げ、アレンにはその小さな膝に同じく薄い箱を乗せた。
「?」
アレンがクロスを見上げると、開けてみろ、と促される。
神田も向かえのソファーに座り、その箱を開けた。
「あ」
「う?」
中から出てきたのは、畳紙(たとうし)に包まれた、浴衣だった。
「クロ「元帥、だ」
神田が言うのを遮り、言葉を訂正させる。
アレンに『師匠』と呼ばせているように、クロスは神田に『元帥』と呼ばせていた。
「ししょー。これ、なんですか?」
浴衣を広げ、アレンは小首を傾げクロスに聞く。
「浴衣、だ。祭りの時に着てけ」
「・・・これ、ふくなんですか」
いつも洋服を着ているアレンから見れば、前で合わせて帯で縛るだけの和服は珍しく映るだろう。
「・・・元帥、なんでアレンのは女物なんですか」
「似合うだろうが」
「・・・・・・」
さらりと当たり前のように返してくるクロスに、神田は返す言葉が見当たらない。
と言うか、返す気も薄れる。
「着方は神田が知ってんだろう。神田、着せてやれ」
それだけ言うと、クロスはアレンを膝からどかし、腰を上げた。
「俺ァこれから仕事行ってくる。神田、アレンの子守りしっかりやれよ」
言われなくとも。と思い、神田ははい。と頷いた。
「ああ、それから」
「?」クロスは小遣い、と神田に小金を握らせ、デジカメもその手に渡した。
「アレンの浴衣姿、ちゃんと撮っとけよ」
「・・・・・・」
相変わらずわからないクロスの行動に、神田は頭を痛めた。

それでもクロスの趣味は良くて、選んだ浴衣の柄はアレンに良く似合っていた。
紅のような赤に、白い花が咲いている。
身体が白いアレンには、赤が良く似合った。
大して神田は紺色の渋いデザインだ。
あまり明るい色を好まない神田も、悪くない。と思うほどには。
花の髪飾りをつけてやると、普段から性別を間違えられるアレンは、まるで女の子だった。
「にあいますか?」
と、聞かれれば、似合っているとしか答えられなくて。
アレンが幼くてよかったと、思ってしまった。
それから巾着を持たせて何枚か写真を撮り、神田とアレンは家を出た。
マナに置き手紙を残し、アレンと神田は祭りの場所へと向かった。
アレンにまだ下駄は早いので、履かせているのはサンダルだ。
神田は(いつ用意したのか不明な)下駄を履いており、カランコロンと音を立てるそれをアレンは面白そうに見ている。
確かに周りには、神田たち以外にも浴衣を着て祭りへ向かう人もおり、神田はアレンの手をそっと握った。
不思議そうにアレンは神田を見上げる。
「人、多いだろうからな。はぐれないように手ェ握ってるからな」
アレンの手は本当に小さくて、神田が本気で握れば折れてしまうかもしれない。
そんな、自分の意思次第でなんとでも出来るその手で、きゅうとアレンは握り返してくれた。
「はいッ」
「・・・・・・」
なんとも言えない感情が込み上げる。
素直に思うのは、嬉しいと思うこと。
アレンからの信頼が、何よりも嬉しい。
「ぼく、たこやきがたべたいです!」
「そうか」
「あと、いかやきとやきそばとわたあめとかきごおりとりんごあめと、それから〜それから〜」
きょろきょろと周りを見ながら目に入ってくる食べ物を端々からあげていく。
「アレン」
窘めるように名前を呼ばれる。
「それは食いすぎだ」
言われ、アレンはてへりと照れ笑いを浮かべた。

入り口周辺はそんなにでもなかったが、やはり歩いていくと徐々に人が増えてきた。
「っアレン、大丈夫か・・・ッ」
「うー・・・」
片手に買ってもらったわたあめの袋を抱きしめ、もう片手はぎゅうと神田の手を握り締める。
だが、人の足しか見えないアレンには周りの状況が掴みにくく、ただただ翻弄されるしかない。
「アレ」
「っあ!」
抱き上げた方がいいかと思い神田がアレンに話し掛けようとすると、小さなアレンの存在に気付かなかったのか、誰かの足が思い切りアレンに当たってしまった。
それでわたあめが手から離れそうになり、慌ててしまい神田の手を握る力が緩まってしまった。
「っアレン!」
だが、神田の助けを失ってしまったアレンは、返事すら出来ずに人波に流されてしまった。
「っち!」
迂闊だった自分を恨む。
しかしそれよりも今は、アレンを救出する方が先と、人波に逆らいつつ今来た道を戻り始めた。

何とか人波をかきわけたアレンは、木の傍でちょこんと立っていた。
寂しいのか、ぎゅうとわたあめを抱きしめて。
「・・・かんだ・・・」
ようやく抜け出したと言っても、それは神田とかなり離れてしまった距離でのこと。
一気にアレンは不安に襲われる。
今年の春小学生になったばかりのアレンだが、まだ一人であまり遠くへ行くことはマナに許されていなかった。
大きくなったと自分でも思っているアレンは、そのことがとても不満だったが、今は神田に会いたくてしょうがない。
じわりと涙が込み上げる。
鼻がつんと痛くなり、眼が熱くなる。
「・・・かんだぁ・・・」
「あっれー見慣れた子がいるさー」
本泣きに入る一歩手前で、聞きなれた声が聞こえてきた。
はと顔を上げれば、そこには自分のように和服ではなくいつもの洋服でだが、ラビとリナリーが立っている。
初めて会った時は警戒心丸出しのアレンだったが、何度も遊びに来るラビとリナリーに、だんだんとアレンは心を許していった。
「アレンくん、一人?」
幼さが抜け、大人っぽくなったリナリーは人の目を集める。
アレンでも、綺麗だなーと思ってしまうくらいだから。
リナリーに、アレンは首を横に振る。
今口を開けば、本当に涙が頬を流れてしまう。
「あーじゃあユウとはぐれちゃったのかー」
なるほど、あの過保護な神田が付いてこないはずが無く、はぐれてしまったのなら納得がいく。
こくりと今度は首を縦に振る。
「そっかぁ・・・じゃあちょっと待ってな」
そう言い、ラビは携帯電話を取り出した。
「・・・よーユウ。オレさ、オレ。あー!ちょっとちょっと!切るのたーんーまー!
実はさーユウの大切な子を今保護したんさー。ん?そう。はぐれちゃったって?
場所はーえっとー・・・・・・」
どうやら神田に電話をしてくれているらしい。
「場所聞いたらすぐに切りやがんの」
つめてーと呟きつつ、ラビもアレンにあわせるように腰を落としてくれた。
「も少しでユウくるからなー?」
ぐしゅりと鼻をすすり、アレンはコクリと頷いた。
宥めるようにラビとリナリーが話しをしてくれていると、しばらくして神田の姿がアレンの目に飛び込んだ。
「アレンッ!」
「かんだぁ!」
ダッとアレンは駆け寄り、神田に抱きついた。
神田がアレンを抱き上げてやると、そのままぎゅうとしがみついてくる。
「悪かった・・・怖かったろ?」
コクリとアレンは頷く。
神田が悪いとは思ってなどいないが、怖いと思ったのは本当だから。
「お前らも・・・助かった・・・」
「いーって。まぁ無事でよかったなー」
「そうね。私たちに感謝してね」
ふふっとリナリーは笑いながら、そのほのぼのしい光景を眺める。
何度見ても、あの学校では猫のように気高く、近寄りがたい空気を発している神田が、こんな小さな子にめろめろになっているのが面白くて。
それだけでごちそうさまな気分になってしまう。
だが、まぁだからと言ってそれだけでリナリーが納得するはずも無いので、リナリーとラビにかき氷を奢ってやり、二人と離れた。
「ばいばい、アレンくん」
「・・・ばいばい」
リナリーがさよならを言うと、それまで神田にしがみついていたアレンがようやく顔をあげ、小さな手を振り返した。
「じゃなー。もうはぐれるなよー」
「・・・わかってる・・・」
ラビはくしゃりとアレンの髪をかき回し、二人と別れた。
ふぅと神田は息をつく。
視線を感じてアレンを見れば、じぃと神田を見ていた。
「アレン?」
呼べば、アレンはくっと眉を寄せ、また神田の肩口に顔を埋めてしまう。
アレンが寂しがっている時にやる仕草だ。
やはり、相当心細かったのだろう。
今回は運良くラビとリナリーが見つけてくれたからよかったものの、これがヘンな人に連れ去られてしまったかも知れないと思うとぞっとする。
「すまなかった」
神田が謝ると、アレンはようやくまた顔を上げた。
「一人にして心細かったろ?・・・悪かった」
「・・・・・・」
じわりとまた、アレンの目に涙が込み上げる。
「・・・さびしかったです・・・っ」
神田が悪いなどとは微塵も思っていなかったが、寂しいと思ったのは確かで。
「もうぜったい、かんだのそばはなれませんから」
ほんの少しだけだったのに、神田から離れてあんなに寂しかった。
今はまだ、神田やマナが傍にいなければいけない不自由でいい。
それが、アレンには心地がいいから。
とりあえず気持ちを落ち着かせたアレンは、神田が甘えさせるモードに突入したのをいいことに、食べ物を収められるだけ胃に収めていった。
もちろん、神田に抱きかかえられながら。



☆END☆


コメント

一年以上前に拍手で書いたやつ・・・です。
もう文章とか悶絶しそうなくらいに下手なんですが、あえて手を加えずに載せときます・・・。
頭痛い文章ですが、実は結構お気に入りだったりするやつです(笑)