まわるまわる奇跡のとちゅう 2


五歳になったアレンは、今は保育所へと通っている。
小学校を休みがちだった神田も、マナの進めもあって今はちゃんと学校に通っている。
前に比べ神田に会って遊んでもらえる時間が少なくなってしまったのはとても悲しいが、神田は学校が終わると殆どの日は自分と遊んでくれるので、それは嬉しい。
今日もアレンが神田の家の前で待っていると、玄関の格子が開いた。
「かんだっ」
たっと駆け出し、思ったとおりの人物に、アレンは勢いよく抱きついた。
「アレン・・・中入って待ってろっつったろ」
最近は物騒なのだから。
迎えに行くと言うのに、アレンは少し行動範囲が広がったことが嬉しいらしく、何度行っても家の前で待っている。
だからと鍵を渡してあるのに、アレンはそれを使って中に入ろうともしない。
「だって、ししょーとふたりっきりはヤですもん」
「・・・・・・」
確かに、アレンは何度もクロスに騙されては痛い目にあっている。
師匠、と呼ぶようになったのも、気まぐれなクロスの意向だ。
「か」
「おー!それがユウの隠し子?!」
かんだ、と呼ぼうとしたのを、誰かの声が遮った。
びくっとアレンの肩が跳ね、さらに神田にしがみついた。
顔を覗かせたのは、朱い髪の青年と、神田の様に黒い髪を二つに結った女の子だった。
同じくらいの年の子なら比較的仲になるのが得意なアレンだが、やはり神田以外の青年は、大きくて恐かった。
「誰の隠し子だッ!」
神田が怒鳴りながら、近付いてきた青年の頭に思い切り拳を振り落とした。
ゴン、と痛そうな鈍い音が響き、青年はその場に蹲った。
「もーラビは一言多いのよー!声もおっきいし!」
女の子はそうぷりぷり怒りながら、アレンと同じ目線になる為に腰を降ろした。
「こんにちは。あなたがアレンくん?」
アレンはびくびくと神田に隠れながらもこくりと頷いた。
女の子はそんなアレンの様子にご満悦で、かわいいを連発している。
「・・・おら、もういいだろうが。帰れ」
「えーユウってばつれないー。もっと親睦を深めようぜー」
「そうよー!こんな可愛い子独占なんてずるいー!」
ぶぅぶぅと不満を漏らす二人。
アレンは話しが見えなくて、じぃっと不安そうに神田を見上げる。
その視線に気付いた神田は、アレンの頭を撫でて、それから抱き上げてくれた。
「悪い。今日は二人で遊べねェ」
「・・・・・・」
アレンは少し眉を寄せ、ぎゅーっと神田に抱きついた。

いつものように神田の部屋に行き、だがアレンはいつもの特等席には座れなかった。
神田の膝の上。
何となくしちゃいけない気がして、アレンはクッションの上に腰をおろした。
「アレンくんは、神田のお隣りさんなのよね?」
女の子・・・リナリーに聞かれ、こくりとアレンは頷いた。
「何歳さ?」
先程神田にキツイ一撃を喰らっていた青年、ラビも合わせてアレンに質問をしてくる。
アレンはそっとパーを見せた。
「そっかー五歳かー」
ラビにわかってもらえ、アレンはまたコクリと頷いた。
「おめぇらいつまで居座る気だよ」
部屋の扉を足で開け、神田はムスリとしながらアレンの隣りに腰を降ろした。
「ほら」
神田が渡してくれたのは、みたらし団子。それに、冷えた麦茶だ。
「えーちょっとちょっと〜私たちにはー?」
「そうさー!俺らこれでも客だぜ?おもてなしはー?」
「そう思うんなら帰れ!これはこいつの親が用意してやってたんだ!」
アレンの前に用意されているのは、みたらし団子が四本。
アレンと神田が二本ずつの計算だが、みたらし団子が大好きなアレンに、神田はいつも自分の分まであげている。
「それでもさー飲み物ぐらい用意して欲しいさ?」
言われ、神田はコップをラビの前に置いた。
「自分で下行って水でも汲んで来い」
「・・・・・・」
敢えて冷蔵庫の中に入っている、と言わないのは、やはり神田と言うべきなのか。
結局二人してぶぅぶぅと煩いので、神田が麦茶を取りに行ってやった。

それから一時間ほどして、ようやくラビとリナリーは重い腰をあげた。
「思ってたより全然可愛かったわーアレンくん!」
めんどくさそうに神田が見送りに行くと、リナリーが興奮して頬を緩ませてうっとりと息をついた。
「ホントさね。あの無愛想で何にも無頓着な神田が、あーんなに世話しちゃってさ」
「・・・・・・」
言いたい放題に、神田も憮然とした顔になってしまう。
いや、それはいつもなのだが。
「でも、アレンくんもちっちゃくてもちゃんと大切な人はわかってるのねー」
「・・・?」
リナリーの発言に、神田は眉を寄せる。
ニコリと笑いながら、リナリーはわかっていない神田の為に補足をしてあげる。
「ちゃんと、取られたくないって警戒してるってこと。
神田のこと大好きだから、見慣れない私やラビに取られるって思ったんじゃないかしら」
そう言えば、いつもにこにこと笑顔の絶えないアレンが、今日リナリーやラビに一度も笑顔を見せなかった。
当たり前のように座る膝にも登ってこなかったと、今思い出した。
「ふふっ。じゃーね、神田。今度はアレンくんともゆっくりおしゃべりしたいって伝えといて☆」
「俺もさー。じゃな〜ユウ。また明日〜」
「・・・ああ・・・・・・」
ようやく帰ってくれた悪友達に、神田は疲れたようにその背中を見送った。
「・・・・・・とられる?」
誰が誰に。
自分たちは、ただのクラスメートだというのに。
「アレン?」
部屋に戻ってみると、アレンはクッションに顔を埋めて、神田が呼んでもそこから顔を上げてくれなかった。
「アレン?」
もう一度呼ぶが、顔はやはり上げてくれない。
「おい、アレン」
そっと髪を撫でてやるが、アレンはいやいやと首を横に振り、顔を見せてくれない。
「・・・・・・」
神田は息を吐き、そのままアレンを抱き上げて、膝に置いた。
そしてその小さな身体を抱きしめて、優しく背中を撫でてやる。
「どうした?」
聞いても、アレンは答えない。
代わりに、ぎゅーっとクッションを持っていた手が背中に回った。
「・・・みちゃだめですっ」
と言い、顔を見せてくれない。
「なんで」
返すと、アレンは少し間を置いて、また服を掴む手に力を込めた。
「だって、いますっごくヘンなかおしてるから、きっと・・・」
「ヘンな顔?」
こくりとアレンが頷く。
「おでこがむずむずするんです。おくちが、にっこりしないんです」
「・・・・・・」
神田はそっと、自分からアレンを少し離した。
アレンは少しだけ抵抗をしたが、結局は神田にその『ヘンな顔』を見せた。
いつものにこにこしたアレンの顔はどこにいってしまったのか、今のアレンは眉間に皺を寄せ、口はへの字になっている。
つやつやでふっくらした頬は更にぷくりと膨らんでいて、でも当人が直らない自分の顔に、一番戸惑っているようだ。
「どうしたんだ」
その頬を撫でるように手で触れてやれば、アレンは気持ち良さそうに擦り寄ってくる。
「わかんないです。でも、かんだが・・・」
「・・・俺?」
聞き返すと、アレンはコクリと頷いた。
「かんだがリナリーやラビたちとなかよさそうにしてたら、ここがぎゅーってなったんです」
ぎゅーっと、と言うところで、自分のほぐれない眉間をぐりぐりと手で擦る。
神田は、その手をすぐにやめさせたが。
「でも、かんだがぼくにだけおやつくれたりしたら、なんだかうれしいってかんじちゃったんです・・・」
「・・・・・・」
神田の中に甦ってくるのは、先程のリナリーの言葉。

とられるって、思ったんじゃないかしら

それは、小さいながらもの独占欲と優越感。
神田を自分のものにしたいと言う欲と、それを実際にできた時の歓びだ。
小さくても、アレンはちゃんと自分の傍に置きたいものとそうでないものをちゃんと区別しているのだ。
「アレン」
神田もなんだか嬉しくなって、その小さな額に唇を寄せた。
それは昔から神田がアレンに対してやる慰め方で。
アレンもそのキスで、少しだけ眉間の皺を緩くした。
「明日は、遊んでやるからな」
約束、と、小指を差し出してやれば、アレンはぱぁっと顔を輝かせて。
はい!と元気に頷いて、神田の指に、壊れそうなくらいに小さな小指を絡めるのだった。




☆NEXT☆