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チョコとトキメキの法則 苦手だって知ってるけれど。 毎年ある今日と言う日だけれど、今日は今日しかない、特別な今日だから。 また、もう一度。 想 い を 伝 え た い の で す 。 談話室の片隅。 テーブルを一つ独占して、むぅ、とアレンは額に皺を寄せ、手の中の本に視線を落として、一ページ一ページ、ペラリと音を立てて捲っては、うぅと声を漏らしてまた次のページを捲る。 「・・・うー・・・ないなぁ・・・」 「なぁにが無いンさぁ?」 「?!う、わぁっ!!」 溜め息を一緒に呟いた独り言にまさか答えがあるとは思わなかったアレンは、ごく至近距離から聞こえた声に驚いて横に飛び上がってしまい椅子からずり落ちてしまう。 普段なら受身くらい取れたかもしれないが(実際に、この現場を師であるクロスが目撃していたら、我が弟子ながら情けないと問答無用の拳骨が振ってきただろう)驚いた上に椅子からずり落ちて一時的にパニックに陥ってしまい、アレンはただ目をぎゅっと瞑った。 「っとー!」 「っ、わっ」 そんなアレンに、声を出した当の本人も驚いたらしく、傾いたアレンを慌てて手を引っ張って椅子に戻した。 何とか床との激突を免れたアレンだが、突然の出来事をまだ把握できていないらしく、目をパチクリして驚いている。 「ごーめんごめん。まっさかそこまで驚くとは思わんかったさ〜」 あははと朗らかに笑う声の方向に目を向けると、ラビが頭を掻いて引っ張った自分の腕をまだ手に掴んでおり、アレンは小さくラビ。と呟いた。 どうやら先程の突然の声はラビだったらしい。 はぁ、とアレンは溜め息をつき、ようやく状況を把握して椅子の背凭れにもたれかかった。 「も〜!驚かさないでくださいよ〜!」 「悪かったって!ホント、マジでそこまで驚くとは思わなかったンさ〜!」 アレンの腕から手を離し、目線を合わせるように膝を折って目の前で両手を合わせる。 ごめん。と謝るラビに、アレンはまだジトリと視線を送る。 「ラビは神出鬼没なんですよ!最初に会った時だって、随分驚かされたし・・・」 「ごーめーんて!別に驚かせる為にやってる訳じゃなくてさー。クセなんさよ、気配消しちまうの」 その言葉に、アレンはジト目をやめて小首を傾げた。 「クセ?・・・やっぱりアクマとかに備えてですか?」 「ん〜それももちろんあんだけど・・・どっちかっつーと、ユウに備えてかな」 「神田に?」 思わぬ名前に、アレンは思わず声を少し張り上げてしまう。 「そそ。ほら、ユウってば手が早ぇじゃん?特になんかオレが近付くとすーぐに手ェ出してくるからさ〜」 「・・・それって、ラビが原因なんじゃ・・・」 冗談でやってるのかなんなのか、ラビは神田の神経を逆撫ですることが滅法うまい。 特に二人は小さい頃からの幼馴染だ。 もしかしたらその分トラウマも深いのかもしれない。 事実神田は、アレンに対して本気で手を出したことはほとんど無い。 「ま、どっちにしてもアレンにはわからない話だろうけどさ〜」 そう言ってラビはひひひと笑うが、アレンは何のことかわからずにハテナを浮かべて小首を傾げる。 神田が意識しているかどうかはわからないが、神田はアレンにはとてつもなく甘い。そして過保護だ。 コムイがリナリーにするように露骨ではないが、今までの誰にも隙を見せないような、常に張り詰めた空気を身にまとっていた神田を知っているラビからしてみれば、現在の丸みを帯びた性格には正直驚くものがある。 「アレンが、今のユウを優しいって言えるのは、それはまぎれもなくアレンのおかげなんさよ」 ずっと一緒に居た自分が、そのポジションにいないのは正直悔しいところもある。 アレンと違う感情とは言え、自分も神田を好きということには変わりないのだから。 それでも、いつ死んでもいいと言うような潔すぎる神田の考えに曇りを落としてくれたアレンには、感謝をしている。 神田がただで死ぬ気はないとは知っているが、それでもアレンのその存在は更に神田を意地汚くても生かしてくれるだろから。 「・・・確かに僕は神田のこと優しいって思いますけど・・・神田は僕と会う前から優しかったですよ。じゃなきゃ、僕にあんなこと言ってくれません」 「?あんなこと?」 「ララとグゾルの―――イノセンスを所持していた人形とその想い人の犠牲になるって言った僕に、お前に大切なものはないのか。って」 「・・・・・・」 「それって、僕を生かそうとしてくれる言葉でしょう?」 そう言って、アレンは頬を染めてニコリと笑う。 「言葉は確かにキツいですし、その場ではなかなかわかりにくいですけど・・・後から考えれば、ああ。あれはこういうことだったんだなってわかりますし・・・ただ口ベタなだけなんですよ」 そして、少しだけその笑顔に陰りを落とす。 「・・・多分、神田をそうやって優しくしてくれたのは、ラビやリナリーなんだろうってわかってますし、感謝してます。・・・僕がマナの呪いを呪いと思わなくなったのは神田で、その神田の優しさを育ててくれたのはラビやリナリーもだから」 でも。とアレンは更に言葉を続ける。 「・・・・・・僕が、神田と一緒にいれなかったのは、ちょっと残念だな」 ―――今。 もし今ここにその本人がいたら、どう思うだろう。 ラビは、神田をああいうふうに変えてくれたのは誰でもないアレンだと思っているし、これからも神田に影響を与えられるのはアレンだけだと思っていた。 『あの人』も確かに神田に暖かい感情を教えてくれたが、結局それは最終的にマイナス方面へと傾いてしまった。 だからラビからしてみれば、アレンただ一人なのだ。 そう思っていたからこそ、アレンのその可愛らしい嫉妬まじりの告白はラビの中に暖かいものを生ませる。 それはきっと、神田を動かすことができたと言うちょっとした独占欲と優越感だ。 ラビはニッカリと笑い、わしゃわしゃとアレンの頭をかき回す。 「アレンは良い子さな〜っ!!」 「ちょ、ラビッ!・・・髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃいます〜〜〜!!」 抗議しつつも、アレンはその戯れを嬉しそうに受け入れている。 幼い頃からマナ以外への人との接触が極端に少なかったアレンは、こういったじゃれ合いが実は好きだ。 神田も抱きつかせてはくれるが、こうした兄弟や友達のように激しい接触はしてこない(もちろん、セックスの時は別だが) 一通りラビとそうして戯れた後、またラビは本題に戻してアレンが書庫から持ってきた数冊の本に目を移した。 「で、何が無いンさ?」 すっと手を伸ばして中身を確認すると、それは全てがお菓子作りの本だった。 付箋が貼ってあるところを見ると、全てがチョコに関するものだ。 「あー明日はバレンタインだからな〜」 それを見て、ラビは複雑そうな顔を向ける。 毎年リナリーは手作りチョコを科学班を中心にお世話になっている人にできるだけ配っているのだが、明らかにコムイへのソレよりも自分へのチョコに気合がはいっている。 内緒ね。と言うことでリナリーからも言われていたし、自慢しにくるコムイに敢えて言うほど命知らずではない。 だが遂に去年そのことがコムイにばれてしまい、大変ひどい目にあったのだ。 付き合っている自分が本命のチョコをもらえるのは当然かもしれないが、あれは酷かった。 リナリーからの助けが無ければ、今こうして自分はアレンと戯れていないかもしれない。 もちろん、もらえるのは嬉しい。 なので、とてつもなく複雑だ。 「でもユウってば甘いモン嫌いさよ?」 アレンの前ではさすがに露骨に嫌な顔をしないが、食べもしないのにバニラのように甘い匂いを嗅いだだけで顔をしかめるくらいに苦手だ。 そのことをアレンが知らないとは思えない。 アレンももちろんそのことを知っており、そうなんですよ〜と深い溜め息を漏らす。 「だから甘くないチョコのお菓子を探してるんですけど・・・難しいですね、これ・・・」 「あー・・・まぁチョコだからなぁ」 これまでも幾人もの女性たちが『甘くないお菓子』を神田に渡してきたが、そのどれもがあえなく撃沈してしまっている。 「でもアレンが渡せばどんなんだってユウは食べると思うがね?」 少しだけの冷やかしを篭めて言ってみたが、本気で悩んでいるらしくアレンはふるふると首を振って、いいえ!と強くラビの言葉を遮る。 「それじゃ駄目なんです!神田は優しいから、そうしたって食べてくれるかもしれませんが・・・やっぱり無理にじゃなくっておいしそうに食べて欲しいんです!!」 ぐぅっと拳に力をいれ、アレンは力説する。 「アレン・・・」 なんて良い子なんさー。とラビは再びアレンのそのつやつやの髪を撫で撫でと撫で回す。 「そんな良い子でかわゆいアレンちゃんにおにーさんが助言しちゃるさ」 「?助言?」 再びラビのその手を気持ち良さそうに受け入れているアレンは、ラビのその言葉にきょとんと目を丸くする。 「今、リナリーとジェリーがチョコレート作ってるんさよ。行けばいいアイディアくれるんじゃねぇかな」 「本当ですか?!」 思わぬ情報に、アレンはパァッと顔を輝かせてガタリと椅子から立ち上がった。 「おう。二人とも料理うまいから、きっとで安心さ」 「そっか・・・そうですよね・・・!」 ラビの言葉で意欲を取り戻したアレンは、気合を入れなおすように拳を握り締めると、本を片付けようと持ち上げる。 「あーオレが片付けといてやっから、アレンは行っといで」 その本をひょいと取り上げ、ラビはアレンの背中を押して促してやる。 「え、でも・・・」 「いーからいーから。ラビおにーさん、今とぉっても機嫌がいいからさ♪」 そう言うラビの顔は、確かにいつも以上にニコニコと嬉しそうに笑っており、幸せそうだ。 理由はわからないが、こういう幸せそうな顔を見るのはとても嬉しいし、アレンも暖かくなる。 戸惑いながらも、アレンはラビのその言葉に甘えることにした。 「・・・本当にいいんですか?」 「いいっていいって。そんなに時間かかるほどでもねぇしさ〜」 行っといで。とラビがひらひらと手を振ると、アレンはまた嬉しそうに笑ってぺこりとお辞儀をする。 「ありがとうございます!」 ぶんぶんと手を振りながら、アレンは談話室を出るまでずっとラビに手を振り続けた。 ■□■ 一通りジェリー(と一緒に居たリナリー)に事情を話すと、感動したようにジェリーは胸元で腕を組み、サングラスの向こう側でじぃぃんと涙を流した。 「ん、もう!アレンちゃんってば何て一途で可愛らしいのっ!神田ってば幸せものねっ」 そう言って、今度はアレンを思い切り抱きしめてくる。 ボディタッチが大好きなジェリーだが、口調とは裏腹にその凄まじい筋力では抱きしめると言うよりも締め付けられている感じだ。 ぅう、とアレンは唸りながらも、好意であるジェリーを跳ね除けられずに好きなようにさせる。 リナリーはその隣で、ジェリーと同じく、素敵・・・と呟いてぽやぽやと意識を飛ばしている。 「さっ!そしたらさっそく取り掛からなくっちゃ!時間は限られているんだし!」 「え、時間?」 確かにバレンタインは明日だが、チョコを作るのにそんなに時間がかかるものなのだろうか。 「私たちの他にもチョコ作りたい子達がいるの。だから、時間を区切ってキッチンを開放しているのよ。他にも普通に食事も作らなきゃいけないし」 「あ」 そうか。とアレンは恥ずかしくなる。 チョコを作って想いを告げたいのは、何も自分だけではないのだ。 切羽詰っていたとは言え、他の人のことを考えられなかった自分が恥ずかしい。 「ま、そういうことだからちゃっちゃと仕上げなくっちゃね!」 落ち込みそうになるアレンを浮上させるように、慌ててジェリーがアレンの肩をポンと叩く。 「でも・・・僕まだ何作りたいかも決めてませんし・・・」 時間が更に限られてしまったことに焦りが更に生まれてくる。 はわはわと見上げてくるアレンに、ジェリーはチッチッ☆と舌を鳴らして人差し指を左右に振る。 「私を舐めないでね、アレンちゃん・・・もうすでにいくつか候補は考えてあるわよ☆」 ババーン!と効果音がしそうなジェリーのセリフに、おー!と思わずアレンとリナリーが歓心の声を上げてしまう。 「さ、さすがジェリーさんです・・・っ」 「えぇ、本当に!ジェリー、すごいわ・・・っ」 二人からキラキラと輝く目で見つめられ、ジェリーは少し照れたように頬を染めて、その髪を美しい仕草で後ろに直した。 「ん、もうっ。そんなに褒めても何もでないわよ☆・・・じゃ、早速ちゃっちゃと作っちゃいましょうか☆」 またしても可愛らしい姿でジェリーが拳をぶりっと振り上げると、改めて気合の入ったアレンとリナリーは続いて、おー!と手を上げた。 「・・・・・・」 まるで教団全体がチョコレートでコーティングされているようだ。 そう思いつつ神田は廊下を歩いていく。 「お、いよっすーユウー☆」 と、そこから更に疲れを誘う人物にあってしまった。 その腕にはもう大きな紙袋三つ分のチョコレートが抱え込まれており、本人はヘラヘラと笑っている。 「知ってっかーユウ〜?今日ってばバレンタインなんさよ!」 「・・・このクソ甘ったるい匂いと普段の三割り増しだらけたテメェの顔見りゃ嫌でもわかる」 隠しもせずにそう言えば、ラビは気にもせずにその言葉を笑い流した。 「あーまーあまぁいの嫌いなユウちゃんにしてみりゃ嫌な日だわなぁ」 「っせぇよ。・・・つか、おいラビ。モヤシを見なかったか」 「あれ?見てない?」 「・・・昨日から見ていない」 なるほど、神田の機嫌が悪いのにはどうもアレンと会っていないことも関係しているようだ。 アレンも別に避けている訳ではないだろうが、チョコレート作りや包装で擦れ違ってしまっているのだろう。 「ま、アレンもきっとでユウにくれるだろうからさー。てけとーに部屋で待ってれば?」 「・・・・・・」 部屋で待っているのがまどろっこしいから聞いていると言うのに。 神田は眉をしかめつつも、とりあえず一度部屋へ戻る為に踵を返す。 「あ、ユウ〜!これ持ってけ!」 再び歩き出してしまった神田に、慌ててラビは予備の紙袋を渡してやる。 「さっきユウの部屋の前通り過ぎてたら、もう山になってたからさ。持ってった方がラクさよ?」 「・・・・・・」 ちらりと神田はラビと手の中にある紙袋を見ると、わかった。と言ってそのまま去っていってしまう。 その後姿に、ラビはヒラヒラニヤニヤと笑みを浮かべていた。 外と吹き抜けになっている廊下から室内へと入ってくると、更にチョコレートに匂いが強くなって、その胸焼けを引き起こしそうなくらいに甘い臭いに襲われる。 それに辟易しながら、ようやく神田は部屋の前へとたどり着いた。 「――――・・・・・・」 そしてまた頭痛に襲われる。 神田の部屋の前には、山を作るようにチョコレートが積まれていたのだ。 ・・・毎年毎年、よくもまぁ懲りないものだと思う。 あれだけ普段周りに対してキツく当たっているというのに。 (・・・まぁ俺が食う訳じゃねぇからいいがな) とりあえずドアの前を片付けなければ部屋に入れないので、あらかじめ状況を知っていたラビからもらっていた袋に無造作にプレゼントを詰め込んでいく。 ひとつひとつ、と言う訳ではないが、名前を確認すると女性の名前の他に明らかに男性の名も混じっている。 ちょっと見えてしまったメッセージカードには『わたしめをどうぞ踏んでいってください』『嗚呼 女王様ッ』『アクマに殺されるくらいなら、あなたの上で腹上死したい!!』などと言う文字が。 「・・・・・・」 もちろんそれらは、人目に触れる前に六幻の前で幾千の紙切れになって散っていった。 本当ならばぶっ殺してやりたいくらいだが、それだと逆にこいつらを喜ばしてしまいそうなので、何もしないことにする。 余計なストレスばかりが神田の中に積もっていく。 そこで、後ろからコツリとブーツの音がした。 気配でわかる。 それはアレンのものだ。 その、いつもは自分の姿を見つけると即座に抱きついてくるアレンがそうしないと言うことは、今のこの状況を誤解しているということだろう。 実際に振り返ってみてみれば、アレンはバックに『ガーンッ』と言う言葉でも背負ってそうなくらいにショックを受けて震えている。 「・・・おい」 「ッ」 耐え切れずに神田が話しかければ、グッとアレンは口元を引き締めて神田に近付いてきた。 「・・・・・・モヤシ」 「・・・いいんです。神田は素敵だから、他の人がほっとかないのは仕方の無いことです」 言いながら、きゅっと神田の団服の袖を小さく掴み、そして潤んだ瞳で神田を見上げる。 「・・・神田が好きなのは、僕ですもんね・・・?」 上目遣いのアレンは最強だ。 実際に神田も幾度となくアレンのこの上目遣いの前に敗れている(アレン自身に自覚はないだろうが) 今回も神田は少し目を逸らし、目元を染めてガシガシと頭を掻いた。 そして再びアレンに視線を戻すと、その手で白い頭をさらさらと撫でてやる。 「・・・わかってんなら一々聞くな」 言って、とっとと踵を返してしまう。 そのまま再び無造作に袋へとチョコの山を詰め込み、ようやく扉が開いた。 「・・・おら、入ンねーのか?」 まだ少し赤い顔で振り向き、神田はアレンを待つ。 ぽわ〜っと神田を見つめていたアレンも、神田のその言葉にようやくハッと現実に戻ってきた。 「は、入りますよ〜!」 慌てて神田に近付くと、部屋の前で少し躊躇ってから神田の部屋へと入っていく。 神田の部屋はいつも通り必要最低限のものしか置いておらず、生活感がほとんど無い。 なんとなく寂しいな、と思いつつも、何も無いと言うことはお互いが居る時はお互いしか見えない訳で。 それはそれで、素敵で幸せな時間なのだ。 なので神田がアレンの部屋を訪れるよりも、アレンが神田の部屋に来てのびのびと過ごすことの方が多い。 「座れよ」 「あ、はい・・・」 振り返ると、神田が先程の袋を適当にその辺りに投げているのが見えた。 「・・・チョコ、崩れちゃいますよ?そんなふうにしたら・・・」 思わず口に出してしまうが、神田は特に何も言い返さずにただチラリと視線を寄越しただけだ。 そのままアレンを通り越してベッドに腰掛けてしまったので、アレンはすぐにその横へと同じように腰を下ろした。 その時にアレンが隠すように持っていた袋を膝へと上げたので、神田は足を組んで頬杖を着くとじぃっとその袋を見始める。 居心地悪そうにしていたアレンも、すぐにその視線に気付き、頬を染めて顔を逸らせた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 だが神田はそれ以上追求もせず、ただじぃっとアレンとその袋を見つめているだけ。 根競べのようにアレンも神田を睨むように見ていたが、一分も続くとアレンの方が諦めたように肩の力を抜いて、はぁ。と大きな溜め息をついた。 「・・・他の人のよりも、全然おいしくないですよ?」 「ンなもん俺が決める」 「・・・うー・・・」 アレンは更に顔を紅く染めながら、もじもじおどおどと袋を神田へと差し出した。 「・・・気に入ってもらえるかはわからないんですけど・・・でも、味見した時はすっごくおいしかったですよ?」 そうもう一言付け加え、アレンは神田の手に袋を手渡す。 手の平に受け取ったその袋はじんわりと冷たいのに、神田の心は逆にぽわりと暖かくなる。 理由だって、もちろんわかっている。 アレンがくれたものだからだ。 「・・・・・・」 それでもそれをそのまま言葉や態度にするのはどうしても恥ずかしくて、神田はそのまま袋からそっと薄浅黄色の箱を取り出す。 その箱を開く前にちらりとアレンを見やれば、自分以上に緊張した面持ちでその箱を見つめている。 神田は気を取り直すと、そっと中身が壊れ物の場合に備えて崩れないように慎重に開けていく。 先程のプレゼントとは大きな違いだ。 「・・・これ・・・」 そして、その箱の中に敷き詰めるように並んでいるチョコレートに、神田は目を見張った。 そのチョコレートは、目も覚めるような緑色なのだ。 手についてしまったその緑色の粉を舐めてみる。 「・・・抹茶・・・」 そう、それは抹茶だ。 鼻に届く香りも芳しく、目でも匂いでも楽しめる。 その抹茶色のチョコレートに驚いている神田に、アレンは畳み掛けるように説明をしていく。 「あのですね、神田甘いの苦手じゃないですか!だからジェリーさんからアドバイスもらって出来るだけ甘くないチョコを目指してみたんです!チョコはカカオ量が多い、できるだけ甘くないのを使って、和菓子ながら神田食べれるじゃないですか。だから抹茶で味を整えたんです!」 いかがでしょう?!そう硬い声で言ってくるアレンの顔は、また泣きそうなくらいに歪んでいる。 これは緊張からだろう。 「・・・・・・」 神田はすぃっと視線を逸らせ、それからすぐにチョコレートに視線を戻すと、そのまま一つを抓んで口へと放った。 甘苦い抹茶の粉の後に、生チョコがとろりと熱で溶けてくる。 どうやら生チョコにも抹茶を練りこんでいるらしく、濃厚な香りと味が口の中に広がった。 甘すぎず、かと言って抹茶を殺してしまうほど苦くも無く、チョコレートもちょうどいい。 「・・・うまいな」 ぺろりと指についた抹茶を舐めつつ呟くと、それまでじぃっと見つめていたアレンが花が開いたように笑った。 「っ!ホントですか?!」 「お前俺が嘘や世辞言う性格だって思ってンのかよ」 「思ってませんっ!」 ぶんぶんと思い切り首を振って否定されるのも複雑だが、アレンは相変わらず嬉しそうに笑っている。 先程とのあまりの変わりように、子供のようなやつだと思う。 「でもでも、やっぱり不安じゃないですかっ。特に神田甘いの苦手だし・・・。でも、がんばった甲斐がありましたっ!」 嬉しい嬉しいと尻尾があったら振り切れてしまうくらいの喜びようだ。 「甘すぎなかったですか?抹茶の量、ちょうどよかったですか?あ、何か飲み物持ってきましょうか?」 「お前味見してきたんだろ?ならわかってんだろーが」 いちいち感想を言うのが恥ずかしくなり、そう言ってなんとかアレンの質問攻めから逃れようとする。が、アレンもそこで攻めるのをやめるほど甘くは無い。 「でも、僕の味覚と神田の味覚は違うじゃないですか!もっとちゃんと知りたいんです!」 ねーねーとまた質問を始めるアレンに、遂に神田の羞恥が頂点に達する。 「だー!っせぇなっ!」 ガー!と怒鳴り、ビクゥッと身体を揺らしたアレンの身体を思い切り引き寄せる。 「ん、むっ」 そして引き寄せる勢いそのままに唇を重ね、驚いてまだ半開きの口内に舌を滑り込ませた。 隙間無く唇を合わせ、奥に引っ込んでしまっているアレンの舌に自らの舌を絡める。 「、ふ、ッ・・・」 そしてその上にチョコレートを乗せると、それを押しつぶすように自らの舌を重ねて溶かしていく。 アレンはもう抵抗をせずに、そのまま神田からの甘苦いキスを受け入れるようにその身体に腕を回す。 ちゅ、くちゅ、と唇の角度を変えるたびに粘着質な音が耳へと届き、それが羞恥となり、また快感へとなる。 普段神田は淡白そうに見えて、セックスはひとつひとつの前戯が長い。 キスももちろん、口の中に一欠片のチョコレートもなくなったにも関わらず神田からのキスは続く。 アレンもキスをするのは好きだが、深く長すぎるキスは逆に苦しくなってしまう。 何せ、キスの最中の呼吸の仕方がまたうまく出来ないからだ。 それでも必死に神田に答えるように舌を絡めてチョコの味もしない唾液を飲み込んでいく。 苦しくて離して欲しい。 苦しいけど、離して欲しくない。 もう自分がどう思っているのかわからなくなっていると、神田の方から唇を離してきた。 もちろんそれはアレンのことを気遣ってのことだが、アレンはやはりどうしても惜しくてその舌を追ってしまう。 それに気付いた神田は宥めるようにアレンの唇に触れるだけのキスを数度落とし、それからそっと離れていった。 至近距離で見つめるアレンも同じように薄く瞳を開けており、そのシリウスの瞳はとろりと潤んで自分を見つめている。 「・・・うまかったろ?」 そんなアレンの表情に下半身をゾクリとさせつつ、神田はキスの目的であるその一言をアレンの耳朶に触れながら吹き込む。 「・・・うん・・・」 まだ夢心地でアレンは呟き、ぎゅうと神田に抱きつく。 甘えが入ったアレンの身体を膝に抱き上げつつ、神田は、しかし。と今だ手に持っている抹茶のチョコレートへと視線を再び向ける。 「・・・うまいが・・・せめて何か抓むものが欲しいな」 二粒口にしたが、さすがに残りを手で抓んで食べるのには抵抗がある。 外国生活が長いと言っても、神田は良家で育った子なので、そう言った教育に反するのだろう。 「あ、すみません!忘れてたッ!」 そこでアレンが正気に戻ったように袋を探り、そこから薄い和紙で先を包まれた楊枝を取り出した。 それを受け取り、和紙を取り外す。 すると、その楊枝は表面を少し炙ってくすみを出しており、真ん中から十字に細工が入れてある。 「六幻の楊枝です!!」 言い、アレンは自慢そうに胸を張る。 どうやらこれもアレンが自ら作ったらしい。 その『らしさ』に、思わず神田の頬が緩んだ。 「っ、お前ってやつは・・・ッ」 ふ、と笑うそこからは嫌味や斜めから見たような表情は無く、ただ純粋に、十八歳の笑みを浮かべている。 一日の内で誰よりも長くいるアレンですら、そんな笑顔を見たのは初めてだ。 ぽや〜っと横で見とれているアレンに気付かず、神田はその六幻の楊枝でチョコレートを口へと放り込む。 そしてその度に、味わうように食べてくれるのだ。 「・・・〜〜〜〜〜ッ」 その姿を見て、アレンは無性に涙が込み上げてくる。 じわーっと涙が溜まった顔を見られないようにと、再び神田に抱きついてその首筋に顔を埋めた。 そんなアレンの態度に神田は驚きつつも条件反射的にその背を撫でてやる。 「・・・な、んだよ・・・どうしたんだよ」 戸惑いながらも撫でてくれるその手から伝わる体温は、声を出して泣きたくなるくらいの安堵感を与えてくれる。 じわじわと満たされるような幸せに、アレンはまた神田を抱きしめる手に力を篭めた。 そして何とか涙を抑えると、そっと首筋から顔を離し、代わりに神田とコツリと額をあわせた。 「えへへ・・・僕、幸せものだなって」 ちゅ、とそのまま神田の唇にキスを落とす。 神田は突然の事態を把握できなさそうに小首を傾げるが、アレンからのキスを拒むことも、それ以上詰問することもしない。 話さなければいけないことは何をしてでも吐かせるが、これはアレンが自分でちゃんと完結できた問題だ。 そこに敢えて油と火を持っていく必要は無い。 「あ、でも・・・他の人たちのも捨てたりなんかしちゃ駄目ですよ?・・・・・・食べてほしい訳でもないですけど・・・」 最後にポツリと付け加えられたのは、アレンの本音で我が侭だろう。 だが神田は、そんなこと。とばかりにあっさりと否定した。 「食う訳ねぇだろ、お前以外のもの。・・・でもまぁ捨てもしねぇけどな」 さらっと言われた告白にまたアレンは耳まで赤く染めながら、それでも捨てないと言う神田の言葉にまた首を傾げた。 「・・・食べも捨てもしないならどうするんですか?あ、僕食べないですよッ」 確かにアレくらいのちょこなら五分もあれば食べきる自信はあるが、さすがに神田に向けられた想いを食べれるくらいにアレンはまだ大人ではない。 しかし神田はそれも違うと否定し、またチョコレートを一つ口に放り込んだ。 「こういうチョコはまとめて近くの孤児院に贈られんだよ。ここじゃ一種のしきたりのようになってっから、やる方も食いモン中心に送るんだよ」 「あ、そういえば・・・」 チョコレートが定番という訳ではないが、神田の貰ったプレゼントの中に、その他にスタンダードだろう花束やマフラー、装飾品などは入っていないようだ。 「だから心配すんな」 「・・・・・・」 また、アレンの胸がぽわりと暖かくなる。 もう暖かくなりすぎて熱いくらいだ。 嬉しい嬉しいと心の中で呟いていると、おい、と隣から声が振ってきた。 「これ、バレンタインじゃなくてもまた作れ」 そう言い、もう空になってしまった箱をアレンに見せる。 どうやらチョコレートなのに随分気に入ってくれたらしい。 自分が作ったものを、リクエストされるのがこんなに嬉しいなんて、幸せだなんて! ぷしゅぅ、とアレンはのぼせたように真っ赤な顔で、神田の身体にへたり込んだ。 「?!お、おい!」 触れ合うアレンの身体が妙に熱く、神田は慌ててしまう。 だが、もたれかかっているアレンの顔はにやけており、幸せそうだ。 「もう、なんだか幸せすぎて死んじゃいそうです・・・」 想いを受け取ってもらえると言うことは、何度あっても幸せなのです。 コメント やっばい明日ってばバレンタインじゃーん!!と言うことでせっせかと慌てて書いてみました・・・いつものこととはいえ・・・(ガクリ) もうせっかくのバレンタインだから、いつも以上に神田さんには甘い子になってもらっちゃいましたよ!(笑) ・・・この甘さがどうしてラビューだと出てくれないのだろう・・・。 そしてタイトルはもっとどうにかならなかったのか!!(恥) |