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Bland New Shining Shower 隣から、かすかな振動が伝わってくる。 なんだろうと思っていると、それまで肌に触れていたぬくもりが去っていった。 いや、それまではまるで自分の一部のように触れ合っていたので、離れた途端にソレが自分の身体でないことを知り、その喪失感にようやく重い瞼を開けた。 「・・・・・・」 まだ視界がぼんやりとしている。 身体を横に向けているので、右下に見える白い塊はシーツだろう。 情事のあとは、いつも神田が汚れてしまったものを取り替えてくれるのだが、昨日は二人ともどうしても襲い来る倦怠感と眠気に勝てずにそのまま寝てしまった。 その為、青い臭いが鼻に漂ってくる。 だがそれすらも神田との愛の証かと思うと、恥ずかしくて、けれど嬉しい。 まだ冷め切らない頭でそんなことを考えつつ、アレンは手でコシコシと目を擦り、ようやく視界をクリアにした。 「・・・神田?」 白いシーツの上に、黒いつやつや。 それはもぞもぞと動いて、立ち上がった。 「・・・起きちまったか」 ふ、と短く息を吐き、黒いつやつやこと神田は、アレンの髪をゆっくりと梳く。 そうされると、やっと晴らしかけた眠気がまたこみ上げてきて、瞼がゆっくりと下りてきてしまう。 「・・・かんだ・・・」 「まだ早い・・・寝てろ」 言われるが、アレンは嫌だと首を横に振る。 「・・・神田、任務入ってないですよね?」 「ああ。任務じゃあない」 神田の任務を把握していても、いつ変更が入るかわからない。 突然の事態などざらに起るし、そうすればいくら神田から聞いていたって情報のすれ違いが起ってしまう。 とりあえず突発の任務でないことにホッとしつつ、アレンもシーツに手をついて身体を起こそうとする。 「おい・・・」 寝ておけ、と言うのに起き出すアレンに、神田は呆れたように声をかける。 だが、昨夜日付が変わった途端に立て続けに四回も(正確には、ここでアレンの意識が途切れてしまった為、それ以上だ)やられてしまい、足腰はガタガタだ。 「・・・ッ・・・」 なんとか上半身をおこし、ぺたりとお尻をシーツにつければ、たったそれだけの振動で腰からジンとした痺れが伝わってくる。 次いで、濡れた感触。 溢れ出さんばかりに注がれた神田の精液は、アレンの薄い尻や太ももを伝ってカピカピに乾いている。 その上、まだ胎内に残っていた精液が重力にしたがって零れてきたのだ。 何ともいえない感触にアレンはまた眉をしかめ、もぞりと身体を動かす。 が、それだけで電気に触れたような痺れが全身に伝わってきて、とても立って歩いていける状態ではない。 「ほらみろ・・・昨日あんなにヤったんだ。立てる訳ねェだろ」 「でも・・・」 神田と離れるのが嫌だ。 本当はずっとずっとひっついていたい。 けれど、エクソシストと言う任務を背負っているこの身は、実際は離れている時間の方がずっと長くて。 だからせめてこうして一緒にいれる時は、その体温を感じていたいのに。 「・・・・・・」 思っていても、妙なところで遠慮をしてしまうアレンは、そのことを神田にうまく伝えられない。 かわりとばかりに、恐る恐るアレンの手は神田の袖口を小さく掴んだ。 (・・・なんだかいつもこうやってほだされてるな) 思いつつも、アレンの泣く顔は数少ない神田が勝てないもののひとつだ。 結局神田は、はぁ、と息を吐いてその身体に服を着せてやるのだった。 簡単にではあるが、胎内と身体を綺麗にしてもらい、アレンは今神田に横抱きにされて廊下を進んでいる。 「・・・うー・・・」 「おい動くな。・・・いくらテメェが軽いっつったって、ンなに動いたら落としちまうぞ」 「だって」 そう言い、アレンは神田を見上げる。 居心地悪そうにアレンが神田の腕の中でもぞもぞと動いているのは、別に神田に横抱きにされているのが恥ずかしい訳ではなく、ただその着ているものの違和感がある為だ。 何せアレンは、シャツの上にベストとセーターとコート(厚着の為、団服は入らなかった)を着て、更にマフラー帽子手袋毛糸の靴下を身に着けている。 靴はもちろんブーツだ。 どちらかと言えば普段薄着でいるアレンは、こんなに着込んでいることの重さとそこここから感じる違和感が抜けないのだ。 「・・・神田ぁ・・・僕、こんなに着なくても風邪引きませんって」 「ついちょっと前まで風邪引いてたやつのことなんて信用できるか」 そこをつかれると痛い。 「・・・でも、神田だって薄着じゃないですか・・・」 そう。アレンにこんな厚着をさせている当の本人は、いつものように白い薄手のシャツに団服を来ただけと言う、この極寒の地でありえないような格好で歩いている。 しかも、寒そうなそぶりを見せない。 「俺は鍛えてっからいいンだよ」 サラッと言われるが、アレンはもちろん納得がいかない。 だが、それ以上何も言うこともできない。 何せアレンは一度も神田が体調を崩してしまったと言うことを聞いたことがないのだ。 この前ふとラビに聞いた時も 「・・・そういや・・・怪我で熱が出ちまったとか以外で、ユウのやつが寝込んだとかないなぁ」 と言っている。 最強の抗体持ちなのか、はたまた病原菌すら恐れて近寄らないのか。 どれにしても、羨ましい限りである。 アレンがそんな失礼なことを考えている内に、神田は廊下からバルコニーへ出て、庭へと回った。 黒の教団の周りの庭は、専属の庭師が手入れをしている他に趣味や息抜きで植物を育てているものもおり綺麗に整えられている。 その内の、小さな勿忘草の苗が植えられているのは、リナリーが育てているものだ。 春には可愛らしい花をつけるだろうその苗は、今はまだ小さいが順調に育っている。 ・・・そして、その苗に時々ラビが水をやっているのも、アレンは知っていた。 その庭の向こうには、まだ開拓がされていないような森が広がっており、その中を勝手知ったると言うように、神田はその足を緩めずに森を進んでいく。 この森は、神田がよく修練を行うところなのだ。 教団を囲うように森が広がっているので、森をさまよえばぐるぐると循環することができ、その森には誰が作ったのか、時々噴水や離れのようなスペースが広がっている。 だがうっそうと茂る森の気味の悪さからか、この森を訪れるものはそうそういない。 確かに外見は悪いし、森の中腹辺りは日が差さない所も多々あるが、手の加えられている噴水や離れのスペースはまるで芸術品のように美しいこともアレンは知っている。 暇な時、迷わない程度に散歩することがアレンの楽しみの一つでもあるのだ。 「・・・・・・」 寒い訳ではないが、アレンはぎゅうと神田に抱きついた。 神田はそのアレンの行為を、やはり寒いからと思ったのか、少しでも暖を取れるようにと身体を密着させてやる。 そのまま会話もないまま、黙々と歩いていく。 すると、一定の揺れが段々とアレンに忘れていた眠気を呼び起こしてきた。 「・・・ぅー・・・」 眠気と食い気には勝てないアレンは、なんとか目を覚まそうと神田の首筋にぐりぐりと頭を擦り付けて目を覚まそうとする。が、逆にそこから神田の体温が伝わってきてしまい、更に眠気が込み上げてきてしまう。 断続的に襲ってくる眠気は段々とアレンの瞼を下ろしてくる。 ことことと落ちてくるアレンの頭に、神田はふぅ、とため息をつく。 「眠みぃなら戻るぞ」 アレンを気遣っての一言だったが、アレンはどうやらその一言を呆れの言葉と捕らえてしまったらしい。 「だ、大丈夫です!!」 慌ててアレンが寄り添っていた身体を離してきたので、思わず神田は体勢を崩してしまいそうになる。 「・・・、と」 それでもなんとかアレンを抱え直し、一度そこで足をとめた。 もう一度、アレンの頭上からため息が聞こえる。 「・・・む、無理矢理ついて来ちゃってすみません・・・迷惑なら僕先に帰りますから・・・神田は用事すましちゃってください・・・」 怒られることを前提としたようなアレンの態度と声色に、神田はまたため息をついてしまいそうになり、慌ててやめた。 自分のこの態度が、アレンに誤解を与えているのは間違いがないのだ。 (・・・俺はこいつの保護者になりたいんじゃないんだがな) それは自分が絶対に敵わない、マナと言う養父と同じ立場だと言うこと。 けれど神田は『その立場』ではなく、もっとアレンの、精神も肉体も近い立場に居たいのだ。 もう羨ましがっている場合ではない。 自分は先を目指すと決めたのだ。 「アレン」 情事の時以外は滅多に呼ばないその名を呼んでやる。 透き通ったテノールの声が自分の名を呼ぶと、それだけでアレンは真っ赤になってしまう。 普段モヤシと言われ、思わずアレンです。と返してしまうが、この状態だとみんなの前ではモヤシのままでいいのかもしれない。 とにかく、再びあげたアレンの顔はそれはもう真っ赤で、うっかり神田にも伝染してしまいそうなくらいだ。 「・・・別に俺は怒っちゃいねぇよ。ただ、お前今まともに動けねぇだろうが。せっかく治った身体、また壊しちまったら意味ねぇだろ」 「・・・でもっ」 まだ反論しようとするアレンの身体を少し引き寄せ、そのふっくらとした唇を食むように味わう。 お互い唇が乾燥しているため、あまり触り心地がいいとは言えなかったが、アレンは神田からの口付けにまた顔を赤くさせた。 「俺は迷惑なんて思ってねェ。・・・わかったな?」 促され、アレンはコクコクと激しく首を上下させる。 「お前は、身体は平気なんだな?」 もう一度、アレンは大きく頷く。 それを確認し、神田はまた歩みだす。 アレンも、恐る恐る神田にまた抱きついてきた。 神田は抱き直すようにしながらアレンを抱き寄せる。 暖かな神田の体温を全身で感じ、アレンはほにゃりと笑顔を見せた。 「ねぇ神田・・・どこ行くんですか?用事って?」 ぎゅうと抱きついて話してくるので、アレンの吐息が首筋に当たる。 その暖かさと感触にほんの数時間前の情事を思い出し、神田の背筋を電気のようなものが走る。が、まさかこんなところで押し倒す訳にも行かず、平然を装ってそれに答えていく。 「この森を抜けたところだ」 「・・・この森の向こうって・・・何かありましたっけ?」 少しだけ頭を離し、神田を仰ぎ見る。 そのアレンにちらりと視線を送り、また正面を見る。 「何もない」 「何もって・・・じゃあ何しに行くんですか?」 修練なら、部屋を出る前に神田が言ってくるはずだ。 だが追求しても、神田はそれ以上答えようとせずに言葉を濁しては歩いていく。 せっかく直ったアレンの機嫌が、またしても降下していく。 むぅと唇を尖らせて、アレンはがばっと神田に抱きついてぎゅうと首を絞める。 そんなアレンを、神田はくつくつと笑う。 「もうっ」 そう言って拗ねるくせに、神田に引っ付く手は放さない。 アレンのそんな態度が、愛おしい。 「・・・日本の行事だ」 「?」 神田がそう切り出したのは、もうすぐ森が終わるところだった。 「一月一日は一年で始まりの日だ。日本ではその陽に願いを込めるんだ」 黒の教団は切り立った崖の上に建っている。 その為、冬場の厳しいイギリスでも、特に雪も深く、夏もあまり気温があがらない。 遥か下には雲海が広がっており、空の紺色が端の方から段々としらじんできている。 そこからどんどんと紺が塗りつぶされ、金色が支配していく。 「初日の出だ」 そう言い、神田は適当な岩へと腰を下ろした。 アレンはその光景に眼を奪われていたが、その一言に神田をもう一度見上げる。 「ハツ・・・?」 それは日本語だったため、アレンは小首を傾げる。 「一年で初めての日の出だ。・・・覚えンなら、日本語で覚えろ」 「・・・はつひので・・・」 口の中で繰り返しながら、アレンはまた神田から雲海へと視線を移す。 雲海は先程よりもずっと金色に染まっていた。 金から赤が広がり、紺色との間に炎を燃え上がらせる。 それなのに、山々はまだ黒々と闇を保っているのだ。 「――――――」 ほぅ、とアレンは息をつく。 朝日なんて、マナと徹夜した時も、クロスの修行の時も、エクソシストとして働いている今も、何度も見てきた。 なのに―――― 「すごい・・・きれい・・・」 ぎゅ、と、神田に回している手に力を篭める。 神田もアレンの身体を引き寄せて、冷たくなってしまったその頬に自分の頬をくっつけた。 「陽が昇ったら、太陽に願い事を言うんだ。・・・口で言うなよ。祈るんだ」 言われ、こくりとアレンは頷く。 そしてその頭の端っこで、神田が願い事なんて似合わないなぁなどと考える。 紺が薄くなる。 薄いヴェールをまくるように、その下から目が覚めるようなスカイブルーが覗きだす。 だが何よりも、雲が弾く光が。 光のシャワーが。 「―――――」 思わず眼を細めてしまう。 ダイヤよりも眩しい太陽が、ついにその姿を現しだしたのだ。 実際はもう山から昇っているのだろうが、厚い雲に覆われている為に眼に見える太陽が遅れており、それが逆に幻想的な光景を生み出す。 さらりと頬に冷たく触り心地の良いものが触れた。 朝日から移してみれば、神田が少し頭を伏せて眼を閉じている。 そしてソレを真似て、アレンも太陽に向かって顔を伏せた。 願い事、と神田は言うが、それは誰に対して願うのだろう。 やはり神だろうか。 「・・・・・・」 けれど、それは違う気がする。 アレンは目を開け、もう一度上半身をひねった。 「・・・?!」 そして、こつりと神田と額をあわせる。 驚いた神田が眼を開けてしまうと、そこには眼を閉じて一生懸命に祈っているアレンの姿があった。 「・・・おい・・・?」 だがアレンは神田の呼びかけにも答えない。 ややすると、ようやくアレンがその銀灰色の瞳を覗かせた。 そして、えへへと可愛らしく微笑む。 「・・・太陽に、って俺は言わなかったか?」 「でも、神田にお願いした方が叶えてくれそうですから」 『どれ』かわからない神に祈るよりも。 神の子である自分がこんなことを言っていいのかとも思うが、真実だから仕方が無い。 「A Hayppy New Year. 神田」 「・・・ああ、あけましておめでとう、だ」 くつりと、神田が笑う。 そしてそのまま唇を触れ合わせた。 光のシャワーが二人に降り注ぐ。 それは、これからの幸福を与える、金の陽。 コメント 文章が安定してないのは本人が一番わかってます・・・ぅうっ! しかも初日の出って、おっそーい!!(自分ツッコミ) せっかく書いたのにともったいなかったのでアップしたのですが・・・あまりに自分で見てて見苦しかったらとっとと消します。 ・・・会社で書くもんじゃないな(とか言いつつ 書 く く せ に !) |