|
Like a HONEY 窓辺にひとり頬杖ついて、あなたの帰りを待っている。 ああ、似ているこの情景は、ずっと前から知ってる。 焦がれている時の流れによく似てるから。 あなたを待ってるの、この部屋で。 窓からアレンは、じっと外を見つめている。 教団が立っている断崖の下に、密林のような森が見える。 その森も、空も。 今は雪で白に染められつつある。 はふ、と息を漏らし、ごろりと近くにあるベッドに横になる。 そこからふわりと自分のものではない匂いが鼻に届く。 それにどきりとし、そして、そのベッドに自分の匂いもついていることにまた鼓動が跳ねた。 ここは神田の部屋だが、部屋の主は今はいない。 部屋にではなく、教団にも。 神田は今、一人でイノセンス回収に行っているからだ。 アレンも行くと強張ったのだが、その時アレンはイノセンスにダメージを負っており、他でも無い神田から却下されてしまった。 しかも神田は、こともあろうにアレンが寝ている時に出て行ってしまったのだ。 神田と付き合うようになり、パートナーでもあると言うことで、アレンは何も用が無くても神田に引っ付いている。 昔マナにそうであったように、アレンは本当に心を赦すものにはべったりとまるで幼子のように引っ付いて離れない。 いつもなら神田と任務に向かい、そうでなくとも神田が一人で任務に駆り出される時はちゃんと見送っていたのに、こんなふうに任務に行かれたのは初めてで、ショックは拭えない。 「・・・ふんだ。神田の意地悪」 などと拗ねてもみるが、最後に出てきてしまうのはどうしても、やっぱり。 『会いたい』と思うこと。 このまま寝てしまうかとも思うのだが、意識を集中させて見ても、思い出してしまうのは神田のこと。 「・・・・・・」 結局ベッドから抜け出し、アレンはまた窓に張り付く。 しばらく部屋を飛び回ったりしていたティムキャンピーも、飽きたとばかりにアレンの頭に身体を収める。 「早く帰ってこないかなぁ・・・ねぇティムキャンピー」 そうだねと言っていくれているのか違うのか、ティムキャンピーはパタリと尻尾を動かす。 教団は断崖絶壁で、ここまで来るには地下水道を通ってくるので、ここで窓を覗いていても神田の姿が見えないのはわかっている。 だが、地下水道で待っていたらリナリーに、こんな寒いところにずっといたら身体を壊す!と叱られてしまい、こうして神田の部屋に来たのだ。 もう一度、重い溜め息をつく。 「ばかーばかー・・・かんだのばかー」 聞くものが居ないので、アレンはここぞとばかりに神田の悪口を吐く。 「マナはこんなことしなかったですよ・・・ちゃんと出かける時は僕に言ってくれたし、帰ってきたらちゃんと良い子にお留守番出来てたご褒美にお菓子も買ってきてくれたんですから」 ぶつぶつと、何かとあるとマナマナ言うアレンに渋い顔をする神田に向けて、嫌味のように言い募る。 「大体、調子良いんですよ神田は。僕が怒ってたりした時だけ態度甘くしてさッ」 そして、そういえばと自分の言葉を反芻し思い出した。 幼い頃も、こうしてマナの帰りを待っていたことを。 着いていきたかったのに、外はあいにくの豪雪で、アレンはついていけなかった。 そんな時はこうやって窓から外をずっと覗いて、マナの帰りを待っていたのだ。 「・・・・・・」 アレンはふと腰を上げる。 そうして、小さなコンロと冷蔵庫がおいてあるところまで歩いていく。 各部屋にはこうしたお茶くらいが飲めるように台所とはいえないが、設置がしてある。 アレンはその冷蔵庫から自分が持ってきた牛乳を取り出し、近くにある鍋に注ぐ。 火をつけて温めている間に、これまた自分が持ってきたはちみつを取り出す。 くつくつと軽く牛乳が沸騰しかけてきたところに、はちみつをとろりと入れる。 途端に部屋中に広がる、甘い香り。 ティムキャンピーも嬉しそうに、また部屋をぱたぱたと飛び回っている。 マナと暮らしていた時も、アレンは度々こうやってホットハニーミルクを作っていた。 暖炉の近くに座るマナにこれを持ってくると、嬉しそうに笑ってくれたのだ。 その笑顔が、大好きで、大好きで。 「でも神田に作ってるわけじゃないんだよ?」 まるで言い訳のようにティムキャンピーに言えば、ああそうと言わんばかりに適当な対応を見せてくる。 ホットチョコも砂糖入りのホットミルクも好きだが、はちみつの甘い匂いのするこれが一番好きだ。 神田に飲ませる気はないと言うくせに、アレンは作り終えたそれを飲もうとはせず火を消した。 そして作業を終えたアレンは、また窓際の所定の位置に戻る。 「早く帰ってこないかなぁ・・・」 ゴーレムからの連絡をコムイが教えてくれ、今日には帰って来れるとのことだった。 「かんだーかんだーかんだー・・・」 本人が聞いたら、『うるせぇ』『ガキかテメェは』くらいは返ってきそうなくらいに幼いアレンの態度に、だが突っ込むものもいない。 頬杖をついて、しんしんと降ってくる雪と、染まる大地を見る。 それはまるで、無音の子守唄。 うとうと、とアレンの瞼が重くなり、次第に船を漕いでくるようになる。 段々と腕がずり落ちて、ついにアレンは眠りに入ってしまった。 アレンが寝てしまい、本当はホットハニーミルクが飲みたいティムキャンピーだが、飲むとあとが容易に想像できるので、ティムキャンピーは大人しくアレンの頭の上で一緒に寝ることにした。 □■□ 「・・・・・・・・・・・・」 と、その後を目撃した神田は、無言で眉を顰めた後、盛大なため息を吐いた。 いち早く神田の帰宅に気付いたティムキャンピーは、アレンの頭の上から飛び上がり神田の元へ飛んでいく。 そんなティムキャンピーを適当に手に絡ませて、つかつかと神田は荷物を降ろしつつアレンの元へ歩いていく。 怒る気は起きない。 いつも一緒に行動しない時、アレンは着いて行くと聞かず、いつもすれすれまで説得をしているのだ。 時にアレンに甘いコムイが折れてしまい、着いてきてしまうことすらある。 元々アレンとの任務は神田はあまり好きではないのだ。 どんなに神田やリナリーたちが注意しようと、アレンは自分の身よりもまず困っていたりピンチの人を助けてしまう。 結果怪我をし、致命傷を負い掛けたことなど何度もある。 今命があってくれているのが、奇跡のようでもあるのだから。 それでも、自分と離れての任務は余計ヤキモキしてしまう。 出るのはエクソシストとしてしょうがない。ならば、出来るだけ任務には赴いて欲しくない。 その為今回はアレンが怪我をしているということもあり、絶対に着いて来て欲しくなかった神田は、アレンを起こさず任務に行ったのだ。 アレンを覗き込むと、やはりその目の下には薄いが隈が出来てしまっている。 冬、特に雪の日のアレンの眠りは浅く、ここ数日まともに睡眠も取れていないのだろう。 寝れない時は神田が添い寝しているので、その影響でここに来ているのだろう。 自分を頼ってきてくれるのは嬉しいのだが、まったく、と言う気持ちが無いわけでない。 とりあえず、いくら部屋が暖かいとはいえこんな窓辺に居れば忍び込んでくる冷気で風邪を引いてしまう。 アレンを起こそうと、神田はその身体を揺すってみる。 「おい・・・おいモヤシ。こんなとこで寝てんなッ」 だがアレンはうーうーと唸っても目を開ける気配は見せない。 しょうがないとその身体を持ち上げて運ぼうとすると、その口がうっすらと開いた。 「・・・だ、・・・」 「?」 寝言だろう、聞き取れなくて耳を寄せてみると、 「かんだ・・・の、ばかー・・・」 「・・・・・・」 前言撤回。 怒りがぶわっと込み上げてきた。 アレンの身を心配してやっての行動なのに、こうして悪口を言われるのはどう言うことか。 持ち上げた身体を落としてやろうかと思っていると、くいくいとティムキャンピーが神田の服を引っ張った。 「・・・ンだよ・・・」 アレンのものであると同時に、元帥であるクロスのものでもあるティムキャンピーを粗雑に扱うことも出来ず、結局神田はアレンをベッドに入れてやった後、ティムキャンピーに向かい合った。 するとティムキャンピーの口、と思われる部分がギギギと開き、映像が映し出される。 そこに映ったのは、神田神田と自分の名前を呼んではいじけたり寂しがったりしているアレンの姿。 「・・・・・・」 こんなものを見せられて、嬉しくないはずもなく。 それでも素直に喜ぶのはまったくもって癪で、緩みそうになる頬をキュッと引き締め、眉を寄せる。 だがちらりと無邪気に眠るアレンを見れば、そんな意地も吹き飛んでしまって。 「ったく・・・」 恋情を寄せている人物に想ってもらって、悪い気が起こるはずもない。 ネコっ毛のその髪を、第三者が見たら凍ってしまうのではないかと思うくらいの優しさで梳き、そう言えばと再び顔を上げた。 「この匂いはなんだ?」 甘い、ミルクの香り。 ティムキャンピーは着いて来いとばかりに神田を誘導し、もう冷めて膜の張ってしまっているホットハニーミルクを見せた。 『寒い日はね、これが一番暖まるんですよ〜』 そう言って、嬉しそうに飲んでいるのを思い出す。 『マナがね、一番喜んでくれたんです』 他人のことを嬉しそうに話されるのは、例えよう養父だろうがむかつくと思ったのをよく覚えている。 それでも、その『大好き』を分けてもらえるのは、嬉しくもあり。 ああ、まったくもって恋愛感情とは不可知なもの。 「――――――」 悩んだ後、神田はティム、と短く呼ぶ。 「映像機能を止めろ」 ティムキャンピーは承知したとばかりに、別部屋へと向かっていった。 未だ神田のベッドの中で、惰眠を貪るアレン。 額と、耳にかかっている髪を撫で、そのまろい頬に唇を寄せる。 小さなキスを、続けて額、鼻、顎へ。 一度顔をあげ、その寝顔を見てくつりと笑う。 「帰ったぞ、・・・・・・アレン」 滅多に呼ばない名前を呼んで、最後に唇を重ねる。 そうしてしばらく寝顔を鑑賞し、神田は立ち上がった。 とりあえず寒かった。 どうせなので、アレンが作ってくれたホットミルクにご相伴に預かろうと、火を再びともす。 その音を聞いたティムキャンピーが、再び神田の元へ戻ってくる。 「・・・お前も飼い主に似て甘いもん好きだな・・・」 調子の良いティムキャンピーを指で軽く弾いてやり、神田はもう一度アレンの元へ向かう。 そのあと、甘い香りに目を覚ましたアレンは、軽く神田と言い争いをした後、それでも幸せそうに神田に抱きついたのだった。 甘く広がるはちみつみたいに。 自分の心にさえ染み渡る、その笑顔。 その笑顔があるから、こうして帰ってこれる。 まるで、はちみつのようなキミ。 コメント ・・・神アレ一発目がこれか・・・(撃沈) 本当はもっと別のにしようと思っていたのです。えぇ思っていたのですが。 な ぜ か こんなものに!!(ガクリ) えぇと一応これも元歌詞(?)がございまして・・・『カードキャプターさくら』のエンディングの『HONYE』です。まんまやん。 本当はマナとのにあってると思ったのですが・・・何をトチ狂ったんだか・・・!(泣) ちなみに、これはHARUコミで出す本の後日談・・・みたいな☆(・・・) |