『はじめの一歩』

きっかけが、例え小さなことでも・・・

「・・・おい・・・」
拓也は声色を低くして輝二を呼ぶ。
しかし、輝二からの反応は返ってはこない。
「・・・おーい〜!」
拓也は今度は少し声を荒げてみる。
「何」
少しくぐもった声で輝二がようやく拓也に答えた。
「この体勢、やめてくれねぇか?」
そう言って拓也は腕をじたばたさせようとするが、輝二に後ろから抱きしめられていて、どうしても抜け出せない。
不機嫌な拓也と違い、輝二は拓也の肩越しに顔を埋めてご満悦のご様子だ。
ちなみに今は夜。
泉と友樹を抜かした拓也、輝二、純平の3人で交代交代に見張りをしているのだが、純平と拓也が交代してすぐに輝二が来て、こんな格好になってしまったのだ。
「ったく、何がクールだよ・・・」
泉はよく輝二のことを『クール』だとか言っているが、拓也にはとてもそうは見えない。
みんなの前ではあまり近づかないくせに、こうして夜とかになり、拓也が一人になると、こうして懐いてくるのだ。
「拓也、あったかい」
しかも言葉数が少ないので、何を言いたいのかときどきわからなくなる。
拓也よりも大きな身長、たくましい体でこうして懐かれていると、どうも大型犬か何かにじゃれられている気分になる。
・・・同じ小学5年生の拓也からしてみれば、悔しいことこの上ないが。
「あのな、何がしたいのかわかんねぇけど、オレは男と馴れ合う趣味はないし、こうされていると動きにくくてしょうがねぇから離れてくれ」
少しキツイ言い方だが、輝二にはこれくらい言わないとやめないのは承知の上だ。
しかも言われている当人は、聞こえていない顔でさらに拓也に抱き着いてきている。
「〜〜〜〜〜っ」
フツフツと怒りを込み上げられて、後ろを振り向こうとしたら、視界が黒くなった。
暖かく、窪みがわかるそれは輝二の手。
輝二の手が拓也の顔を塞いだのだ。
「な、んだよ・・・」
唐突な行動に、拓也は戸惑う。
「拓也、疲れてる」
輝二の手は、拓也の瞼をおろすように動く。
「前、俺が光のスピリット手に入れたとき、お前すぐにスピリットが解けただろ?
あれは多分、拓也が疲れてるからだ」
ポン、ポン、と輝二は、拓也の目を塞いでいるのとは反対の手で、拓也の身体を小さく、幼子を寝かしつけるように叩く。
「何言って・・・」
「お前、みんなよりも長く見張りとかやってるだろ?俺は知ってる」
それを言われて拓也はドキリとする。
確かに拓也は、みんなと決めている時間よりも長く見張りをやっていたり、ちょくちょく出かけてきて食べ物を探しにいったりもする。
「無茶するな。俺は、お前が心配になる」
そう言って、輝二は愛おしそうに拓也を抱きしめる。
「何で・・・何でオレの事ばっか心配すんだよ・・・」
そこで間が空く。
「好きだから・・・」
耳元で輝二が囁く。
輝二とも一緒に行動するようになって、何度か言われたその言葉。
拓也はそれに明確な答えを出してはいない。
焚き木のはぜる音に、風が木の葉を揺らす音がかぶる。
「・・・オレはホモじゃねぇ」
「俺も違う。でも、拓也だから好きだ」
輝二の声が少し震えている気がするのは、拓也の気のせいだろうか?
拓也は真っ暗な視界の中、自分の頬が熱くなるのに気付く。
「オレは、わかんねぇ・・・」
「・・・うん。俺が伝えたいだけだから」
輝二の腕の力が、少し弱まる。
「でも、お前あったかいし、眠い。今度見張り変わってやるから、今は寝かしてくれ」
そう言って拓也は輝二に体重を預け、目を閉じる。
輝二は驚いた顔をした後、蕩けるような笑みを浮かべて、拓也をまた抱きしめる。
二人の互いに早い鼓動が、重なるような感覚にとらわれる。
まだ、この気持ちが理解できないし、整理できない。
それでも今よりもちゃんとした答えを出すから。
とりあえず、今は。
はじめの一歩。



☆END☆


コメント

やっちまったよ・・・輝拓・・・(笑)
落描きしてたら、いつのまにか話しになってしまっていたという一材・・・(苦)
妄想とは恐ろしくも素敵なものであると実感(するな)