(略)

コツコツブーツを鳴らして近づいたと思ったら、突然掌を向けてきた。
魔方陣が浮かび上がる。
「?!」
避ける間もなく、ジョットの中から『何か』を持って行った。
力が抜ける。
くらくらした。
折角立ち上がったのに、少年も巻き込んで膝をついてしまう。
「…にを…っ」
無視し、掌を今度は少年に向けた。
ずっと優しい光だ。
苦しみを与えるものでないと言う事は、ほわんとした少年の表情で窺い知れた。
「貴方の名をこの仔に与えました」
「何?!」
「すべて奪うのは後々困りますから頭文字は残してやりましたがね。嘘だと思うなら自分の名を口にしてみなさい」
「…っ、…?!……っ、っ…!!! くそっなんだよこれ!!」
名前を呼ぼうとしても、言葉にできない。
心配そうに見上げている少年をスペードが指さした。
「これからはこの仔がジョットです。…貴方は…そうですね、Gでいいでしょう」
「てめ…何勝手に!」
「勝手を先にしてきたのはそちらでしょう?…名前を返して欲しいのならば、必ず育てて私の元へ戻しなさい」
ジョット…Gが激昂する前に再びマーモンが目の前に現れた。
その間にスペードは奥の部屋へと消えてしまう。
「まぁデイモンの気持ちも理解してやってよ。ずっと楽しみにしてたみたいだしさ。…それにまだこれは極秘の事なんだ。きみにもリスクを背負って貰いたいしね」
「……っ」
名を奪われると言う事は、支配されたも同然だ。
納得ができない。が、こうなってはスペードにしか解除できない。
「いいじゃないか、名前を考える手間が省けて。要はちゃんと育てて再び連れて来ればいいんだからな」
「…育つってどれくらい」
「さぁ?目算では一年ほどだな…。【核】に魂を定着していく。声が出るようになれば開花の合図だ」
「…一年…」
ヴェルデの言葉に眩暈がした。
「ああ、あともしこの仔が【天使の涙】を零したら絶対持ってきてよ。あれは高く売れるからね」
「…天使の涙…プランツドールが流す、結晶化する涙の事か…」
「付け加えるなら『最期に見た光景』のね。基本的に一体のプランツドールから一粒しか取れないし、あれは胎内で特殊な反応を起こした時に現れるものなんだ。そういう意味で人工では造れないのさ。ガメようとしても無駄だからね」
「しねぇよバカバカしい」
あっさり否定するGに、自ら言った事だと言うのにマーモンは呆れたように「無欲なやつ」と呟いた。
Gの耳にも届いたが無視する。
頭が痛いのはこれからの事だが、引き受けてしまった事だ。それで彼の命を救えたのだから。
Gが納得しようと堪えていると、ジョットが袖を引いてきた。
必死に何かを訴えてきている。
「…なんだよ…」
口が聞けないので、あーんと口を開けてジェスチャーをまじえてアピール。
「おなかが減ったんだろうね。体液を飲ませてやりな。あと家に帰ったらミルクもね。…あ、ちなみにミルクの支給はしないから自分で買ってよ」
「…体液って…」
戸惑う。
無垢な瞳がこちらを見つめている。
ジョットの唇の感触を思い出した。
「…いや、違う…これはこいつの為なんだから…」
そっと頬を両手で挟んで固定すると、唇を合わせた。
葛藤が再び現れる前に舌を使いジョットの口内へと侵入すると、唾液をとろりと流し込んだ。
ジョットの喉が鳴った。
もっとと言うように首に手を回してきて、Gの口内にも舌を伸ばす。
結果として舌を絡めるかたちになった。
満足するまで与えようかと思ったが、そのまましばらく経ってもジョットは離れようとしない。
仕方なく一度唇を離すと、再び触れようとしてくるジョットを胸に抑え込んでマーモンたちの方を向く。
「…体液ってどれくらいやればいいんだよ」
「少しでいいのさ。ただし毎日ね」
「……なんだ」
ではあんなに必死にやらなくてよかったのか。
ジョットはまだ胸の中で強請ってくる。
「今日はもういいんだって言われてんだろ」
宥めると、柔らかい頬を膨らませた。
ころころと変わる表情。
ちゃんとその顔を見る機会がなかったが、こうして見るとかなりの美貌だ。
無意識に頭を撫でてやると、嬉しいのかされるままになっている。
「ああ、それともう一つ」
「?」
「体液って言っても別に血とかでもかまわないよ。いちいちキスなんてしなくってもさ」
「―――――」
視界が揺れた。
「そういう事はもっと早くいいやがれ!!」
怒声が地下に響き渡った。


以下、続きます