リクエスト
 





 Love/Rub


どんな過酷な任務だろうと、神田は弱音を一言も吐かない。
アクマとの戦いが、生きている理由そのものだからだ。
「……」
ゴキンッ!
「うお!何今の音?!」
「ああ?」
突然部屋に響いた骨を砕くような音にラビが飛び上がる。
うざったそうに振り向きながら、神田は思い切り首を横に振った。
ゴキンッ!
「ぎゃー!!」
再びあの音が響き、慌てて神田の元へと駆け寄り首をさする。
「ちょ、ちょ…!何やってんのさユウ!」
「…ッ触んなバカ兎!」
少しかさついた手がくすぐったい。
眉間のシワを深くしラビの手から逃れ、ほんのりと染まった頬を隠すように背を向ける。
「…首、平気なん?」
「ったりめーだろ。凝ったからほぐしてただけだよ」
「…ほぐしてた…つー音がじゃなったさ…」
「うっせ」
軽くあしらい、ぐるぐると肩を回す。
「あーくっそ…だりぃ…」
「仕方ないさーユウ一人で行動しちまうんだもん」
「…うるせぇっつってる」
子供のような拗ねた視線で睨む。
今回はラビと二人の任務だったが、アクマを前に本部からの指令を無視して神田が単独行動を開始した。
結果からしてみればエクソシスト二名はほぼ無傷、ファインダーたちも軽症を負ったのみですんだが、コムイから痛烈な仕置きをゴーレム越しに受けた。
バツとして受けたのは、今回の報告書を緻密に書くこと。
特に単独行動部分については分読み、まるで残像を追うようにと。
「まぁ無事だったからこれだけですんだんさ。もしもっとでっけぇ怪我負ってたら、コムイの怒りはこんなもんじゃないさ?」
「……」
「命大事にーってな?」
にへりと笑うラビ。
うるさい。もう一度居心地が悪そうに呟いた。
「こんなもん、口頭でいいじゃねぇか」
遂には雑にペンを手から落とす。折角途中まで書いた報告書にインクが散る。
任務で唯一、神田が文句を言う仕事。
それは報告書を書くこと。
普段の報告書は同行者に任せ、必要時にのみ神田が記載する。
そんな怠惰を繰り返してきたものだから、すっかり机に向かうことが苦痛で仕方ない。
「俺の書き方真似してラビが書きゃいいだろ」
「コムイはそんなんすぐ見破っちまうって。前に思い知ってんだろ?知らずに変な薬飲むなんてもう嫌さ」
「…ちっ」
神田がまた肩に手を置き、頭を思い切り横に振ろうとする。
ゴキン、と言う背筋が凍る音がする前に、その頭を掴んだ。
「…それはやめて」
「凝るんだからしかたねぇだろ…離せっ」
「えー?そんなにー?」
肩に手を置く。
「…うわ!硬ー!!」
試しに揉もうとするが、筋肉が固まっていて指が入っていかない。
「ユウいつもこんなじゃないよね?」
「ちげぇよ…」
ぐ、ぐ、とラビが筋肉を押しても神田は嫌がらない。どころか、揉んでもらって気持ち良さそうだ。
どうやら本当につらいらしい。
(かと言って報告書書くの替わる訳にもいかねぇし)
前にも神田に言われ報告書を書くのを変わってやったことがあり、その場はニコニコとやりすごしたが、後日食べ物にコムイ特製の薬を仕込まれて連帯責任を取らされた。
猛烈な腹痛に襲われ三日間ベッドとトイレを往復することになったあの地獄はブックマンでなくとも忘れない。
「そうさ!オレマッサージしてやるよ!」
「…マッサージ?」
「おう!」
いそいそとベッドに向かい、毛布を捲る。
寝転がれということらしい。
「ジジィによくやらされてるから結構うまいさ?」
ニカッと笑うラビ。
少し躊躇った神田だが、結局椅子から立ち上がり、ブーツを脱いでベッドにうつ伏せになった。
履物はブーツだが、すでに風呂に入った為服装は着物だ。
「…んじゃ、やらせてやる」
「オッケー」
上から目線の言葉だというのに、ラビは機嫌を悪くした様子も無く(と言うか上から目線に慣れすぎてわかっていない)神田の背を跨いだ。
肩を握り、親指に力を篭める。
「痛い?」
「…平気だ」
力を加減しつつ、まずは首の付け根を揉みだす。
「わーゴリゴリ言ってる。ユウわかる?」
こくんと神田が頷く。
掌で肩を温めるようにして、重点的に揉んだ後、指を背骨に沿わせて尾てい骨辺りまで揉んで行く。
尻の辺りを揉むとピクンと神田の身体が動いたが、上半身に戻るとまた力が抜けた。
何回も往復し、肩を掴んで腕を後ろに引っ張る。
二の腕を揉めば、すべらかな皮膚の下の筋肉がゆっくりとほぐれていく。
「髪、解いていい?」
頷いたのを確認して、ヒモを引っ張れば、石鹸で洗っているとは思えない艶やかな髪が広がった。
それを横にまとめ、もう一度首の付け根に戻った手は盆の窪を押して頭へ移動する。
「どうさ?ユウ」
「んー…」
枕に顔を埋めている神田から曖昧な答えが返る。
肩甲骨に手を置き変え、脇の下から身体の側面を揉む。
「…んっ」
くすぐったいのか神田の身体が揺れたが、構わず腰の辺りまで揉み下げる。
足も片方ずつ丁寧に揉んでやり、三度肩へ戻った。
ゴリゴリが先程よりも小さくなっている。
「…そこ…」
「ん?」
肩甲骨と背骨の真ん中、指が沈む箇所がある。
押した途端、それまで眠ったように目を閉じていた神田が、うっとりと眼を開けた。
「…きもちいい…」
潤んだ瞳に血行が良くなり高揚した頬。
吐き出されたため息まで熱っぽい。
「ラビ、もっと」
「…!!」
一瞬ラビの動きが固まり、慌てて再び揉みだした。
(い、いかんいかん)
首を振ってマッサージに集中する。
純粋な好意で始めたと言うのに、神田の気持ち良さそうな表情を見た途端にムラァときてしまった。
イイところを押すと無意識に声が漏れてしまうらしい。
最初は堪えていたようだが、筋肉がほぐれていくと共に我慢も吹っ飛んだようで、んっんっとやらしい声が部屋に響く。
悶々と思考が煩悩に汚れていき、このままでは我慢ができなくなる。
下半身が。
「あ!そ、そ、そうさユウ!」
「…?」
寝てしまいそうにとろんとした眼でラビを見る。
「そう言えば前に足ツボマッサージの仕方も本で読んださ。…やってみねぇ?!」
「…おう…」
とろんとした声で頷く神田。
仰向けになってもらい、素足に触れる。
いつもの天邪鬼な態度が嘘なくらい、従順だ。
「ちっと痛いかもだからなー」
うん、と頷く前に、ラビが足裏を押した。
「―――――!!!!????」
ビクンと神田の目が見開いた。
「痛―――!!!!」
「うおっととと!ユウ動いちゃダメさ!」
ぎゅうぅ…
「い、ってぇえー!!」
ばったばたと悶絶する神田の足を尚も押していく。
「いーったいいたいたい!ユウ痛い!」
掴まれていない足でラビの顔を蹴って離れようとする。
「は、はな…離せ!!」
「え、てゆかあんま力入れてないんだけど」
「嘘付けこの野郎!めっちゃくちゃ痛ぇぞ!!」
「それきっとユウが身体の調子悪いからさ。…ここ痛いん?」
「〜〜〜〜〜〜!!」
神田が悶絶する。
普段戦闘でもあまり見れない姿だ。
「いいから…離せ…!」
「でもまだ反対の足が…」
「いいっつってんだろ!!」
怒鳴られ、渋々足を離す。
「…くそラビ…!」
「…………ぐはぁ!!」
「?!」
もう一度蹴ろうとする前に突然ラビは奇声を上げて悶えだした。
驚いて思わず足を引っ込めてしまう。
(ぱ、ぱんつ見えた…!)
ハァハァと荒い息。
暴れた為に乱れた服にうっすら汗ばんだ肌。
そしてバッチリ見てしまった下着。
逸らしても眼に焼きついた神田の姿。
情事そのものの色っぽさに耐えれなくなった。
(落ち着けオレ落ち着けオレ落ち着けオレ…)
「…ラビ?」
今日は隣の部屋にファインダーがいる。
神田は任務先で盛る事を良しとしない。
出来るだけいいホテルを取るようにしているが、隣に聞こえていないとは限らないからだ。
プライドの高い神田がファインダーに弱みを見せる行動を取る筈が無い。
襲えば相応の反撃が待っている。
うーうー唸っているラビを見ていよいよ神田は不安になってきた。
「お、おい…どっか変なとこ当たっちまったか?」
「………」
「ラビ?」
赤い顔でちらっと見たかと思えば、また逸らされる。
「…ユウ、服、服」
「…あ、」
ラビにこそり指摘され、いそいそと合わせ目を直す。
晒されていた太股が、ようやく布に覆われた。
なんとなく気まずい空気が二人を包む。
それを突破したのは、やはりラビだった。
「んーと、痛くしてごめん」
「…いいよ。わざとじゃないんだろ」
そしてやらしいこと想像してすみません。
心の中で謝る。とても口には出せない。
「それに足裏以外は…気持ちよかったし。ありがとよ」
「うん…喜んでもらえてよかったさ…」
ようやくラビがいつもの調子で、にへ、と笑うと、神田もほっとしたらしい。
うっすら笑顔を浮かべてくれた。
「あ、そうだ」
「ん?」
「これ、定期的にやるのもいいかもな」
サラリと神田の口から漏れた言葉。が、ラビには見逃せない一言だった。
「ユウ!」
慌てて振り返る。
真剣な眼で見れば、神田は驚いて目をまん丸にする。
「な、なんだ?」
「オレ、めっちゃがんばる!いろいろがんばるから他のヤツにマッサージさせちゃダメさ?!」
「…はぁ?」
ずい、と、小指を差し出すラビの表情は真剣だ。
「約束!!な?!」
呆気にとられつつ、小指を絡める。
「…あ、ああ…」
「絶対絶対絶対な!うっそついたら針千本飲ーます!指切った!」
これでとりあえず大丈夫!と安心し、ようやく安堵の息を吐く。
対して神田は先程からのラビの奇怪な行動に首を捻るばかりだ。
(…なんでコイツ以外に触らせなきゃいけねぇんだ?)
他人に身体を触られるなんて冗談ではない。
特権に気付かないラビが果たして幸か不幸かは、本人とてその時が来なければ気付かないことだった。

とりあえず報告書は、ラビが言うことをそのまま神田が書いていくという方法で解決した。


*** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** ***


リクエストは二林わかみさんから頂きました!
ありがとうございます〜☆
甘々とのリクエストでしたが、ラビュだと何故か甘々がラブラブという意味でなく、ラビに甘い(優しい)感じになってしまいます(苦笑)
寝ボケとか、にふゃにふゃしてる神田は最強に可愛いと思います。そして悶えるラビ。
たまにラビも神田にマッサージをしてもらうけど、力加減が全然されてないから逆に肩がおかしくなっちゃったりしそうです(笑)
遅くなってしまいすみませんでした!