瞼すら貫く強烈な光が収まっていくと思ったら、浮遊感と落下のすぐ後に衝撃が襲った。
「い、た…っ」
「ぎゃあ!」
すると聞こえてきた自分以外の声。
慌てて開いた眼にまず飛び込んできたのは糊のきいたベッドだった。痛い、だけですんだのは、これが緩衝材の代わりになってくれたからのようだ。コンクリートの様な固い材質の上だったら下手をすれば怪我を負っていただろう。
そしてもう一つ。ベッドの上に寝転がっていた少年の上に落ちたということもある。
「えっ」
思わず間抜けな声が出た。
仰向けに倒れた身体を少年に向け、改めてマジマジと見つめる。
金色の髪。シトロンの瞳。甘い顔立ちは幼いが、驚いてこちらを見ている人物は確かに―――
「…ディーノ…?」
「ッ」
呼ばれて、青ざめている少年の肩がビクンと跳ねた。
「うっ」
肺が膨らみ、喉が張った。
「っわ、むぐぅ」
叫ぶ、と察した骸は、咄嗟に少年の口を塞いだ。
「…静かに」
潜めた声で骸が言うと、少年は震えてじわりと涙を浮かべる。とりあえず無視し、骸は現状を把握しようと周りを見渡した。
「……」
部屋の造りに見覚えがある。
広い部屋はオフホワイトに統一され、天井には先人が描いた絵。壁の縁の細やかな模様は骸のお気に入りで記憶にあるが、ケンカをした時につけてしまった傷は見当たらない。
調度品は自分の知らないものの方がよほど多く配置も違う。
しかしここは確かにディーノの部屋だ。
ただし、記憶よりも幾分か新しい。
もう一度、少年を見る。
ぽろぽろと涙で枕を濡らしているのはやはりディーノだ。
だがやはり若い。…いや、幼い。
「……」
「ふぐーっ?!」
断りもなしに少年の着ているシャツを捲った。
ビクンと身体が跳ね、彼の目からこぼれる涙の量が増す。
「…タトゥーがない…」
「…?」
聞こえた呟きに、少年は恐々と視線を骸に向ける。
「…もう一度聞きますけど、貴方はキャバッローネのディーノですか?」
少年はただ震えるばかりだ。
あ。と骸は、自分がベッドの上で馬乗りになっているのを思い出す。
「…手を離しますけど、大きな声を出してはいけませんよ?」
こくこくと少年が頷くので、警戒しつつもそっと手を口から離した。
「ぷは……お、お、お前…いきなり現れたけど…だっ誰だ…?!」
「僕の質問が先です。…貴方はキャバッローネのディーノですか?」
ぴしゃりと骸が遮れば、ディーノは更に顎を引いた。
「う…そうだけど…」
やはり、だ。
自分はあの装置を使って過去へと来てしまったらしい。
(あの地図は座標のようなものだったんですね…この時代にきたのは、年代を選んでいなかったからか元々設定されていたのかランダムに飛ばされたのか…)
「…な、なぁ…俺の質問にも…」
何やら考えだした骸に、おそるおそると声をかける。
どこから、いきなりどうして現れたのか、ディーノは何一つ理解できていない。
「…に、しても…」
ディーノの言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、どちらにしても答えず骸はその頭を撫でだした。
「クフフ…幼いですねぇ…」
「…?…あの…」
有無を言わせぬ気迫で脅されたと思えば、今度は上機嫌に撫でまわされる。まったくついていけないディーノは、混乱のままされるがままだ。
「ほら、もう。いつまでも泣いているんじゃありませんよ」
「う、…」
まだ眼に浮かぶ涙をそっと拭われる。
とても優しい手はまた頭を撫でるので、再び骸を窺った。
(…きれいだ、な…)
素直な感想がぽろりと見えた。
突然の来訪者に恐怖ばかりが先行したが、藍色の髪も、オッドアイの瞳も、整った貌もよく見ればとても美しく、見惚れてしまう。
「ああ、それに…」
「…?」
「なんだか楽しいことをしていたようですね」
言われた意味がわからず、きょとんと楽しそうな骸の笑顔を見つめる。
まじわっていた視線が、つい、と下がった。
追おうとして、その意味がわかった。
「!!!!!」
咄嗟に布団で下半身を覆う。
「クフフフ…今更隠しても遅いですよ」
「あっ」 すぐに骸に毛布を取られて露になった下肢は、ズボンと下着が中途半端に脱げていた。
つまり…。
「自慰の途中でしたか…随分良い時にお邪魔しましたね」
「みっ見るなよ!」
かーっとディーノの顔が赤くなり、ようやく止まったと思った涙がまた浮かんだ。
知っているディーノに比べ、こちらは余程の泣き虫なようで、そのギャップが余計骸の過虐心を煽る。
「まだ途中なんでしょう?お詫びに手伝ってあげます」
「は?!…ひ、っぃ」


以下、続きます