仔猫のように呼ぶ声は、翌日そのまた次の日も響いた。
なぁ、なぁ。
訪れる時間は決まっていない。
ただ、何故か誰もいない時に彼は訪れる。
どうしてかはわからないが、少年からしてみれば肝が冷える事この上ない。
「なぁ、木の実は嫌いか?森に果実がなってたから今日はそれを持ってきたぞ。あの森になってたんだ」
「綺麗な石を見つけたんだ。紅くてお前の髪みたいな色だ。なぁ、見たいだろ?」
「なぁ、なぁ、お前はチョコって食べた事あるか?俺は昨日初めて食べたんだ。あんまりうまいからお前に持って来ようとしたら手の中で溶けていたんだ。…なんでかわかるか?飴玉は溶けなかったぞ。…手がベタベタになったが」
無視しても無視しても彼は通う事をやめない。しゃべる事をやめない。
もしもの時に少しでも対処できるように壁の向こうに居るが、彼は一度も見つかった事がない。
城の警備は決して易しくはなく、敷地内を常に巡回している。
隙を見せない様にとコースや時間も日によってかわるので、住んでいる少年ですらいつ来るかわからないと言うのに。
「…なぁ、どうしてもう姿を見せてくれないんだ?」
「…………」
数日経ち、彼は突然そう言った。
心臓の上を押さえる。
赤毛の少年だって、したくてしている訳じゃない。
叶うなら、彼が望むまま、時間が許す限りしゃべっていたい。
「……っ」
目頭が熱くなった。
涙腺なんてずっと使っていなかったと言うのに。
彼の事は全然何も知らない。なのに、かけがえがないものになっている。
やる事が他にないと言う事もあるかもしれない。
それでも頭の中は彼の事でいっぱいだ。
「なぁ、お前からはもう会ってくれないのか?」
「………」
無言で返すしかない。
ここで是と言っても否と言っても彼は会話を楽しむだろう。
何もしない事が最良の筈だ。
暫く経っても答えがなく、ふぅ、と溜め息が聞こえた。
「…わかった」
小さな声と共に気配が動いた。
「………」
ようやくわかってくれたのだろうか。
安堵と何度目かわからぬ寂しさに襲われる。
今度こそ、もう来るな。
そう心から思っていると。
 ドシン!!
「?!」
隣の部屋から大きな音が聞こえた。
鳥肌が立つほど驚き、慌てて音の方を見る。
隅々まで丁寧に掃除された部屋に、それでも薄く埃が舞う。
「…いたい…」
暖炉の中で声がした。
まさかと思い震える足で近寄れば、やはり彼はそこにいた。
「おっまえ…!」
尻を打ったのだろう、掌でさすっている。
少年の姿を見つけると、透明な瞳がきらんと光った。
「ようやく会えたぞ」
「…っ」
ぐ、と言葉に詰まる。


以下、続きます