曖昧のまま終わると思っていた関係は、曖昧の延長線を辿っていた。
二人がマフィアである以上縁が切れる筈もなく、何年ぶりかの再会の後、身体を重ねるようになった。
誰にも知られる事がないよう、けれど、あの世界では会わない。
秘密を折り重ねた関係。
「…ん、」
情事の後の気だるさの中、骸はうっすら眼を開けた。
静かな部屋では小さな声もよく響き、着替えていたディーノが振り返る。
「わりぃ、起こしちまったか」
「…いえ、大丈夫です…」
鈍痛の走る身体を起こす。
「…こんな深夜にどうしたんです?今日はオフと聞きましたが」
「…あー…」
苦笑と続かない言葉でわかった。
所詮あってないような休日だ。
「…まぁマフィアに休日などナターレくらいでしょうね」
くふふ、と嫌味を混ぜてやる。
「悪いな。部屋代は払っとくから」
「当然です。それに罪悪感を持つ必要はありませんよ。貴方は偉大なるキャバッローネのボスなんですから」
ディーノがなんとも言えない表情になるのを敢えて無視した。
ボスとしての生き道を選んだディーノの邪魔をする気は毛頭無い。
こうして未だ関係を持っているのがおかしいのであり、非難する権利なんてない。
非難する事はできない。
「…しかし急な用事とは言え、随分とまぁおかしな時間ですね…」
デジタル時計を見れば、もうすぐ早朝とも言える時間だ。
「前々からうちにちょっかい出してくる輩が居てな…ちーせぇファミリーなんだけどキナ臭い噂を聞いたもんで部下を配置してたんだ。そいつらからの連絡が途絶えてな…」
「それでわざわざボスが出動ですか。何千人も配下に置いているというのに」
寝直す事に決めたのか、骸は再びシーツに寝転がった。
「ボス自ら出向いていった方が早くカタがつく場合もあんだよ。ボスは飾りじゃねぇんだぜ」
「くふふ…その台詞は貴方と綱吉くんを見ているととてもよくわかりますよ」
骸の言葉に、ニカ、と笑った。
「そんじゃ行ってくるな!」
「お待ちなさい」
鞄を持って立ち去ろうとしたディーノを呼び止め、手招きする。
「ネクタイ、曲がってますよ」
ネクタイを引っ張られ、仰向けの骸に覆いかぶさるように背を屈める。
急いでいたとは言え酷いネクタイの結び目を綺麗に直してやり、満足したように笑う。
「サンキュ…うおっ?!」
視界がぶれたと思ったら、唇が重なった。
「ん…」
骸から積極的に舌を差し出し、絡めていく。
驚いたディーノだったが、別れを惜しむように唇を密着させる。
濃厚に口付けを交わし、離れる頃にはお互いの頬はまた情欲に染まっていた。
「…お前…言わせねぇくせにズルいよな…」
口端を持ち上げて笑う骸を睨み、再び身体を重ねたい本能を殺して身を起こした。
「じゃあまたな」
「ええ」
わざと簡単な挨拶だけで、あっさりディーノは出て行く。
シンと静まり返った部屋で、先程までの不適な笑みを消してただ無心に天井を見上げる。
彼は今、殺している。
寂しがる心を。
「…言わせる訳ないでしょう」
唇を重ね、身体を重ねても、ディーノからの愛の言葉を頑なに拒む。
言葉は威力を持つ。
言われてどうなるか、骸にも想像できない。
再び、眼を閉じる。
有幻覚である骸はそのまま消えてしまえばいいのに、ディーノの体温を惜しむようにベッドに居続けた。


――またな。
割り切っている筈だった。
その次がある事が、いつのまにか普通になっている事に気付いたのは、三日後の事だった。


以下、続きます