「リヒテンシュタイン」
「はい」
「…んん、…これをやろう」
咳払いをし、リヒテンシュタインの方を見ずにスイスは薔薇の花束を渡す。
「…まぁ、とても綺麗…今日はバレンタインなのですね」
小さくかわいい花束は、いっそ豪華なものよりもずっとリヒテンシュタインに似合っている。
「毎年ありがとうございますお兄様」
頬を染め、ふわりと微笑めば、リヒテンシュタインよりも赤い顔のスイスも強張った表情を和らげた。
「…そうか…」
「早速飾らせていただきます」
嬉しくて自然と早足になる。
思わぬところで躓くリヒテンシュタインなので、スイスから「ゆっくり歩け」と言われてしまった。
「…ふふ、とてもきれい」
可愛い花瓶に花をそっと生ける。
しばらくうっとりと眺めた後、ごめんなさいと呟いて綺麗な花びらを選んで摘んだ。
急いで乾燥シートで挟み、その上に分厚い本を乗せる。
ふぅ、と小さく息をはき、本棚に近付く。
「…これでもう91枚目ですね…」
リヒテンシュタインの部屋には90枚の栞が丁寧にアルバムに挟んで保管されている。
栞には一枚の薔薇の花びらが貼られている手作りのもの。
バレンタインにスイスもらった花束をこうしてすべて残しているのだ。
栞には日付を書いている。
一番古いものは、紙も黄ばみ、花も色を失ってしまっていた。
それでも捨てる気はない。
これからもずっと、もし、万が一、億が一、スイスと関係が壊れてしまったとしても大切に持っているだろう。
誰がなんと言おうと、リヒテンシュタインはスイスの想いを捨てられない。
恥ずかしがりで疑い深いスイスが自分を信じ、心配して、守って、助けて、愛してくれていることを知っているから。
何があっても、どしゃぶりの中瀕死だった自分を、国民を救ってくれたことは忘れない。
「にいさま、にいさま、大好きです」
ぎゅう、と、栞をアルバムごと抱きしめる。
リヒテンシュタイン、と呼ぶ声が聞こえた。
きっと夕飯の仕度ができたのだ。
「はぁい」
慌ててアルバムを戻し、机の上の花瓶とラッピングされた箱を手に取る。
「…喜んでいただけるかしら…」
料理が苦手なリヒテンシュタインが、オーストリアとハンガリーに教わって作ったチョコレート。
ドキドキする。
感謝の気持ちを伝えると言うことがこんなにドキドキするなんて。
スイスもこんな思いを感じてたのかなと思うと、嬉しくて、とても嬉しい。
リヒテン。もう一度呼ばれた。
また早足になってしまう。
きっとスイスが注意してくる。
それも嬉しい。
チョコをプレゼントしたら、真っ赤になって、咳払いをして小さな声で礼を言うのだろう。
全部嬉しい。
スイスが与えてくれる全てが嬉しくて、笑顔が自然に浮かぶ。
「にいさま、だいすき」
大好き、を教えてくれた大好きな人。
想像通りの反応をしてくれた兄がやっぱり大好きで、ふふ。と鈴のようにリヒテンシュタインは笑うのだ。