シャツ一枚向こうを吹く風も、そろそろ冷たくなってきた。
衣替えが始まり、夏服を脱いでベストを羽織る生徒も増えた。
綱吉もその内の一人だ。
昼休み。
いつものメンバーのうち山本は野球のミーティングへ、獄寺は購買へ昼食を買いに出かけており、今は綱吉だけ。
「…ふぅ…」
口をつくのは幸せの溜め息だ。
朝からたくさんの人に『おめでとう』の言葉を貰っている。
帰れば今度はリボーンと合同の誕生日会が待っており、本人よりも獄寺がそわそわと落ち着かない。
「綱吉」
呼ばれ、反射的に立ち上がった。
この場所で呼ばれるのは、圧倒的に恐怖の風紀委員長が多い。
「?…?」
きょろきょろと辺りを見回す。
雲雀でない事は声色でわかっていたが、いきなり呼びかけられた事もありまだ心臓がドキドキしている。
「?」
「綱吉」
だが聞き知った声。振り返り給水塔を見る。
「…あっ」
そこには逆光に浮かび上がる人物が二人。
「プ、プリーモ?!それにGさん!」
継承以来、たびたび出てくるようになった初代ファミリー。
綱吉が驚いていると、ふわりと二人が給水塔から降りてきた。
近付くにつれ、その姿が知っている二人よりもずっと幼い…そう、自分と同じくらいの歳まで縮んでしまっている事に気付く。
「え、ど、どうしたんですかその姿!」
「学校であの姿は目立つからな」
(…それならなんで学校に現れるんだろう…)
「悪いな。この姿だって十分目立つとは言ったんだが」
綱吉の心を読んだようにGが謝るので、心臓が飛び跳ねた。
「お前が一人になるのを待っていたら、今日が終わってしまうって聞かなくてな」
呆れた視線をジョットに送るが、堪えた様子はない。
「…はぁ…それでオレに何か用ですか…?」
また大変な事だったらどうしようと内心ドキドキである。
ジョットが自分の事を大切に想ってくれているのはわかるが、だからと言って彼の行動全てを理解できる訳ではない。
「大事な用だぞ」
姿に比例するのか、ジョットの態度もいつもより幼い気がする。
「デーチモ」
Gが一歩前に進み出る。その手には、二つの包み。
「…?」
「どっちか選べ」
「あ、はい…」
ぶっきらぼうな言葉。怖いと感じないのは口調が優しいから。
いつかのように。
「ん、と…こっちを…」
指差したのは、オレンジの包み。
「そうか。じゃあ」
「…え、」
Gはその包みを綱吉に手渡した。
「こっちはお前な」
「ああ」
残った青い包みをジョットに手渡す。
「え、え、あの…」
「Buon compleanno 綱吉」
「……」
「誕生日おめでとう」
ジョットのイタリア語に戸惑っていると、すかさずGがフォローをいれてくれる。
「あ、じゃあこれ…」
「オレたちからの誕生日プレゼントだ」
「…って事は、プリーモも今日が誕生日なんですか?!」
綱吉の瞳が輝く。
うん、と頷いたジョットと、違う。と否定するG。
「…え?」
「こいつの誕生日は年に何回もあるんだ…最低でも守護者分はな」
「楽しみは多い方がいいだろう?」
ふふんと胸を張る。
絶句している綱吉より先にジョットがリボンを解く。
取り出したのは、綱吉がずっと欲しがっていたゲームソフト。
「!」
慌てて綱吉もリボンを解けば、出てきたのはやはり超人気のゲーム。ジョットが持っているのとは色違いのパッケージ。
「欲しがってたってジョットが言っててな」
「どちらにするか迷っていただろう?二人でやれば両方楽しめる」
子供そのものの顔で笑う。
そういえば、指輪を通じて伝わってしまうと言っていた。
見られてたのかと思うと、恥ずかしい。
そんな綱吉に、ジョットはきらきら瞳を輝かせて近づく。
その額に炎が灯っていなくとも、彼の瞳は宝石のようにきらきらと光を反射している。
「オレがこの年の頃は、まだボンゴレも自警団も組織していなかったんだ」
普通とは違った。けれど彼はまだ頂点に立つ男ではなかった。
周りから見れば、少し変わった普通の子。
「この姿の時は、ボンゴレもマフィアも全部忘れて楽しもう。綱吉」
「!」
さっきからジョットが、『デーチモ』ではなく、『綱吉』と呼んでくれている事に気付く。
じわ、とくる、暖かいもの。
「綱吉」
ぎゅう、とジョットが抱きしめる。
大人の姿の時はジョットの肩くらいにあった視線が、この姿だと彼の方が少し大きいくらい。
「生まれてきてくれてありがとう」
心になじむ声。
プレゼントと、ぬくもりと、全部全部が幸せで染まる。
「…オレも、ありがとうございます」
恥ずかしいといつもなら思うそのぬくもりも、今はただ幸せで。
「……ジョットさん、……Gさん」
きらきらの視界の向こうで、Gがふわりと微笑んだ。
ジョットは言葉にするかわりに、更に強い力で綱吉を抱きしめた。