きみがはな


気分転換に、とラビは教団に入って間もない神田と近くの森にやってきた。
燦々に陽が差し込むことがほとんどない教団だが、この日は新しいエクソシストを歓迎するように木漏れ日が辺りに漏れている。
「今日は気持ちいーさねー」
「うん」
久々に出た外が珍しいのか、きょろきょろと辺りを見回しながら歩く。
転んだら危ないから、と繋いだ手はもっと暖かくて、きゅうと握り締めてくれるその痛いくらいの強さが嬉しい。
「なぁ、ラビ」
神田が振り向くと、肩口辺りで切り揃えられている髪もさらりと揺れた。
つやつやと天使の輪を作っていて、見た目以上にその触り心地がいいこともラビは知っている。
「ここは、桜はないのか?」
「サクラ?」
「うん。桜」
桜、は聞き覚えがある。
ちょうど神田と話したくて必死に日本語を勉強している時に本に出ていた。
薄紅色の、五枚の花びらをつけた可憐で儚そうな花。
「うーん・・・ここには咲かないと思うさ。今日はあったかいけど、街に比べるとここは随分寒いし・・・。街でも多分、日本より寒いさ」
嘘を言ってもしかたないので素直に返すと、神田はがっかりしたように肩を落とした。
「・・・ごめんな」
「ラビのせいじゃない!」
自分よりもずっとシュンとしてしまったラビの声に気付き、ハッと顔を上げる。
「なんとなく言ってみただけだから・・・別に見たい訳じゃないんだ!」
慌ててそう付け加える。
顔をあげて見た神田はとても真剣な顔をしていて、その優しさが嬉しかった。
(オレが喜ばせたいのにな)
逆に気を使わせてしまったことがなさけなくて仕方ない。神田だけは、すべてのものからこの手でちゃんと守りたいのに。

□■□

「ユウ!ユウ!」
どんどんと何度もノックすると共に、扉一枚を易々と通り抜ける大きな声。
部屋でぼーっとしていた神田は大層驚いたが、その声がラビのものとわかって慌てて鍵を外してやる。
「ユウ!」
ようやく開けてもらえると、ラビは満面の笑みで神田にぎゅうと抱きついた。
「ラビ」
突然抱きついてきたラビに驚きながらも、神田もその暖かい身体を抱きしめる。
「ラビ、どうしたんだ?」
いつも優しいラビの表情が、今日は更に上機嫌なようで、ずっとニコニコしている。
なんだか神田まで嬉しくなってしまうくらいに。
「ユウ、ねぇユウ見て!」
ラビは神田の手を引いて部屋の真ん中まで来ると、持っていたバックに両手をいれ、そのままバッと上に上げた。
「、わ・・・」
ラビに上へと投げられたのは、たくさんの桃色。
一瞬ふわりと宙を舞うと、それはすぐに地面へと落ちてきた。
そのうちの一つを拾い、きょとんと目を丸くする。
「・・・これ、折り紙?」
「うん!折り紙さ!」
ラビはまたバックに手を突っ込むと、両手から溢れるくらいの桜の折り紙を神田の両手へと渡した。
ぱらぱらとそのいくつかは地面へと落ちていき、黒いタイルの上に綺麗な桃色が点々と広がる。
「ここじゃこんなんしか見せれないけど・・・いつかオレがユウに満開の桜見せてやるからな!」
ラビ、と呟いてその顔を見れば、目の下に隈が浮かんでいる。
きっと徹夜で作ってくれたんだろう。
(オレのために・・・)
たくさんの桜。
香りもないし、ふわふわとしたあの儚さもない。
神田は手に収まりきれない、少し歪んだ形の3造りものの桜を、胸に抱いた。
「・・・これで、いいよ」
「ユウ?」
そしてそのうちの半分を、ラビの手へと、渡した。
「こっちの方が、ずっとずっと綺麗だ」
ありがとう。
そう言って、ふわりと笑う。
綺麗に綺麗に笑う神田に、ぶわっとラビの頬が紅く染まった。
(・・・ユウの方が、全然きれいさ・・・)
ふふ、と笑いながら落ちている桜を拾い集める神田を見て思う。

満開の桜も、この笑顔の前ではきっとただの背景でしかないんだ。

きっと

絶対。



☆END☆


コメント

春コミで無料配布したペーパーSSでしたー。
折角の春だからね!甘々ラブラブで!・・・っていうと、どうしても仔ラビュに(笑)
喜んでもらえてよかったですー☆