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1111 はく、と、やきそばパンの最後の一口を食べたところで、休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。 そろそろ冬を迎える空は、気温に比例するように夏よりも薄い青に変わっている気がする。 それでもカラリと晴れれば心地良く、シャツにベストと言う薄着でも多少の寒さなら気にならない。 上機嫌で空を眺めながら嚥下し、コンビニ袋にゴミを捨て、代わりにデザートを取り出す。 …キィ… 「!」 錆付いた嫌な音を立てて、屋上に繋がるドアが開いた。 バタン、と閉まった音に、近付いてくる足音。 「やっぱココにいやがったか」 よく知る声に、よく知る姿。 呆れたように見下ろす神田の姿を捉えると、硬直していた身体から溜め息と共に力を抜いた。 「はー驚いた…センセーかと思ったさ」 もう一度コンクリートの壁に寄りかかり、ポッキーの箱を開ける。 「ビビるくらいなら最初っからさぼんな、バーカ」 横に座った神田に、ラビはクスリと笑いながら銀色の袋を破った。 「ユウもサボり?」 「お前探しに来たんだよ。二時間もサボりやがって」 「まぁまぁー」 笑いながらポッキーをつまみ、さくさくと音を立てながら食べていく。 「にしてもー…探しに来てくれたってことは、オレのこと心配してくれたん?いやーんもうユウってば愛して…あだー!!」 言い終わる前に神田が放った裏拳が顔にクリーンヒットし、まったく油断していたラビはそのまま転がってしまう。 「っざけんな!サボんならサボんで、変なメール送ってくんじゃねぇよバーカ!!」 神田が携帯を取り出すと、画面にはラビからのメールがびっしりと受信されており、更にその内容はと言えば、愛してるだの好きだの見てるほうが恥ずかしくなる文章ばかり。 「えーだってー。寝坊しちまってさー。腹減ってメシ食いたいけど、授業中に食えるほどオレも度胸座ってないっていうかー」 「変なしゃべり方すんな、バカ」 座り直したラビをもう一度、けれど先程よりもずっと軽くペシリと叩く。 「ユウのいじわるー」 微塵もいじけてない表情で、ラビはパキッといい音を立ててポッキーを食べていく。 そしてふと自分が食べているポッキーに視線をやり、ふと笑った。 「そういえばさー。今週の日曜日って、ポッキーの日なんさよなー」 「…ポッキーの日?」 同じく、ラビにドンドンと食べられていくポッキーを羨ましそうに見ていた神田は、慌てて反応を返す。 「そ。ポッキーの日」 「…なんでだよ」 今週の日曜日と言えば、十一月十一日だ。 お菓子メーカーが誕生した日だからか? 「ま、ただの遊びなんだけどさ」 つまんでいた、中途半端に残っていたポッキーを口にぽいと放り込むと、ラビはその手で四本ポッキーを袋から出した。 それぞれ左右の手に二本ずつ。 「1をポッキーに当ててるンよ。で、ポッキーの日。他にもプリッツとかいろいろあるんさよ?」 お菓子会社もよく考えるさーと笑い、まとめて四本を食べていく。 「なんだ。アホらし」 思わず深く考えてしまった神田は、ラビの答えに溜め息を吐く。 そしてまた、視線がふとポッキーへといってしまう。 ちょうど二時限目が終わり、腹の減り具合は微妙なところだ。 あまり甘いものが好きではなくても、授業で使った頭は今むしょうに甘いものを欲しがっており、どんどんと食べていくお菓子が羨ましくてしかたがない。 「……」 「…ん?」 ようやく神田に会えたことで上機嫌になったラビはずっとニコニコしながら話しかけていたので(神田が応えてくれないのはいつものことなのでまったく気にしない)ようやく神田の視線が自分の手元に向いていることに気付いた。 (ユウってば甘いもん嫌いだった筈だけどー…) けれどその視線はポッキーを見つめており、ラビは口をつけてしまったそれをポリポリと食べてしまうと、新しく袋から一本取り出した。 「食う?」 へらっと笑いながら、この時点ではまったくやましさなど含めずに聞いてみた。 まさか気付かれると思っていなかったのか、その一言に神田は驚いたように少し仰け反り、ぱぁっと頬を赤く染める。 「……」 神田からそんな反応が返ってくるとは思わなかったラビはキョトンとしてしまい、その間に戸惑っていた神田が小さな声で「食う」と呟いた。 その可愛らしさと言ったら! (ちょ、ちょー可愛い!!) 普段大人びた表情をしているくせに、お菓子をねだるその顔はまるで子供だ。 倒錯的なその姿に、また顔を赤くしてしまう。 そしてそのまま大人しく渡していればいいものを、こういう時に限って(こういう時だからか)ラビと言うやつは暴走してしまう。 「あ、じゃーあーじゃーあー!」 すっと神田の手がポッキーを取ろうとするのを遮り、その一本の先をぱくりと食べてしまった。 「あ!」 思わず抗議の声を上げてしまう。 「ポッキーゲームで食べて☆」 ――――――――。 その一言にすぅっと神田の目が据わり冷めていくが、ラビは気付かずにンーと口のポッキーを近づけていく。 「……」 神田は無表情のまま手を伸ばし、ポッキーを抓んだ。 そして、ラビの口がついていないところからパキリと折って、ポリポリと食べだす。 「あ――――ッ!!」 そう来るとは微塵も思っていなかったラビは、先程の神田など相手にならないくらい大きな声で抗議する。 「ひでー!ひどいさユウ!口移しってオレ言ったのにー!」 「いい、と俺は言った覚えがない」 こくんと嚥下し、ふいっと横を向く。 「ポッキー!もっかい!口移しじゃないといーやーさー!」 「…ガキかお前は…」 子供のような喚きように呆れてモノも言えない。 「ガキでいい!ガキでユウがポッキー口移しさせてくれるんならオレはもうガキでいい!」 趣旨がずれている。 どうしてポッキーをくれると言うことからそこまで離れてしまうのか。 (頭いいのにな、コイツ…) 時々とても残念に思う。 黙っていればかっこいいし、勉強などしなくても学年トップクラスだ。 本当にもったいない。 「ユーウー!!」 キャンキャンまだ喚いているラビを見て、自分で考えていたことに照れて眉間に皺を寄せる。 「ったく…!」 コンクリートから背中を浮かせ、ラビの手からポッキーを取り上げる。 「へ」 神田の行動にラビがフリーズしてしまっていると、神田はとっととその口にポッキーを突っ込み、更に顔を近づけた。 「―――――」 綺麗な顔が近すぎて、ぼやける。 パキ リ ほんの少し。 もしかしたら空気かもしれないようなタッチで、唇を暖かなものが掠めていった。 チョコレートの匂いが、一瞬強く香る。 「…これで満足かよ」 近付いてきた時と同じ様なすばやさで神田が離れると、ラビはようやく我に返った。 神田の頬がうっすらと染まっており、ペロリと舐めた唇はチョコレートにぬれている。 神田からの、ポッキーゲーム。 「も、も一回!!」 「アホか!」 ペシンと再び神田の掌が飛んでくる。 「だ、だ、だって…さー!!」 「だってもクソもあるか!俺はちゃんとやったんだからな!」 「だから、も一回!ね、ポッキー袋ごとあげちゃうから…!」 「もういらねぇよ、バーカ!」 身体ごとラビから背を向け、一切の文句や要望を受け付けなくする。 そうなった神田に何を言っても無駄だとわかっているラビは、喚きたてるのをやめた。 しゅんと眉を下げると、手の熱でチョコレートが少しだけ溶けてしまったポッキーをポリポリと食べていく。 どこかのクラスが体育をやっているのだろう。グラウンドから生徒の高い声が聞こえてくる。 そのまま、時間が流れていく。 ふと見上げた空は、先程とかわらず青く広がっている。 からりと晴れた空の下はとても気持ちがいいのに、何故かさっきよりもずっと寒い。 神田が気を利かせて話しかけてくれるなど稀なので、時間はただ沈黙に流れてしまう。 ほんの少しだけ触れた、神田の唇。 ぶれてしまうくらいに近付いた顔は、漆黒の瞳を現したままだった。 キスをする時の、あの身体を走る快感。感動。 触れれば触れただけ伝わる、神田の体温。匂い。 キスがしたい。 神田を、感じたくてしかたがない。 「…ポッキー、いらないから…」 ポツリと、想いがもれる。 「キス、したい…なぁ…」 カキン、といい音がした。 今日の授業は、野球だろうか。 空を見れば、吸い込まれるような薄い薄い、ブルー。 しゅ、と、近くで音がした。 視線を神田へと戻せば、ずっと背中を向けていた神田が再びこちらへと身体を戻している。 「ユ…」 シャツの襟をいきなり掴まれ、ラビはバランスを崩して床に手を着いてしまう。 影がおりる。 神田の匂いが、チョコレートの匂いが、強く香る。 「キス、だけだぞ」 チョコレートなんかよりもずっと甘い唇が触れた。 青い空はもう見えない。 目の前が、暖かな黒に染まる。 ベストなんかいらないくらい、もう暑くてしかたがなかった。 コメント ちょうどポッキーの日にあった、シティで配布したSSです。 せっかくのポッキーだから活用しないとね!と言うことで!(笑) 好評なようで嬉しかったですー。 学生なのは、私と潮さんの趣味。 タイトルはつけてなかったので、超テケトー。 |